【隼人ダイアリー】 *** 月にウサギ ***

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月にウサギ 12月

 

12月6日
今週末、葉月が横須賀に出張へ行く。次の週は俺。年末だけになにかと慌ただしい。
それ以外にも義兄の小笠原移転の話がその後、きちんと義妹の耳に届いたのかも気になっている。
そんな葉月が俺に報告する。
『今度の出張なんだけれど。義兄様とお食事するの』
内緒にはしない妻。そこは前に俺に対してやってしまったことを気にしているのだろう。俺はもうなんとも思っていないし、義兄妹である限りは適当な交流は当たり前と思っているのに。
でもそこは『そうか。良かったな。楽しんでおいで』と俺も快く聞き届ける。
聞けば、妻へのお洒落な贈り物はすべて義兄に任せているのだが、少し前に選んでもらったピンク色のドレスを用意したのだそうだ。勿論、俺も着ている姿は既に見せてもらった。
彼女はブルー系が似合うと思っていたのに、そこは流石『ノーブルセンス』はお手の物の義兄さん。あまりにも可愛らしいベビーピンクでも、大人っぽいデザインに対してカラーで甘さを加えてるというもので、俺も『いいじゃないかー、それ!』と感激したほどだ。
 
ああ、そうなると。ちょっと羨ましいな。そんなドレスアップした奥さんを夜のお食事で義兄さんはエスコートするんだと。絵になるだろうな、二人ともとかね。
だが、俺はこの義兄との食事を約束という報告でほっとしていた。やるな、義兄さん。クリスマス前に義妹と二人だけの食事の席を作って、ドレスアップした義妹に『これから同じ土地で暮らそう』と報告するつもりなのだと!
そう思ったので、俺はついつい……義妹より先に義兄の重大決心を知ってしまったという呵責から解放されると思い……。
 
『今度、義兄さんと会う時、きっと良いことがあるよ』
 
と、ほのめかしてみた。のだが……
葉月が急に不機嫌そうな顔に。いや、解っている。何故、生まれた時から親しい義妹ではなく、義妹の夫である義弟が先に知っているのかという妻の置いてけぼりの顔だって。
案の定、葉月は『なに。それ』と俺に向かってくる。
『会えば、分かるって』と俺。
『また、隼人さんだけが知っていることなの!?』と、葉月
まあ、でもそれも今度の食事で向き合えば、許してくれるだろうと思い、今は絶対に口が裂けても言えないので、怒らすだけ怒らせてそっとしておくことにした(泣)
それもこれも、ぜーんぶ、のらりくらりしている兄さんのせいだからな!! あとで沢山、お礼をしてもらうことにする!

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・・

 

12月8日
今頃、葉月と義兄さんは横浜で向き合って食事かな。
喧嘩していないと良いけれどなあ。
この前、俺がほのめかしたせいでかなり不機嫌だったから、あの葉月……俺に対してはそうでもないけれど、義妹になると変に意地を張るというか気持ちを頑なにすると言うか。まあ、ぜんぶ、それもあの黒ドラ猫兄貴のせいなんだけれどな!(また、腹が立ってきた!!)
なんか、目に浮かぶよ。葉月が黙って無言で拗ねて純兄さんの目の前で食事をしてさ、で、義兄さんは『俺はなにか悪いことをしたか?』なーんて、鈍感で罪なことを平気で口にしたりしているんだ。
でも今度はそうでもないだろう。義兄さんから誘った食事だ。今度こそ、今度こそ! 義兄さんからきちんと『小笠原移住』を報告しているはずだ。だってその為の食事だろ??
そうでなかったら、俺もキレる。もう俺のところで隠し通すのは無理だからな。
それに真一の独立報告だっていつ報告させてあげるんだよ? 流石に義兄さんもそこまでは馬鹿じゃないと、思いたい。
なのに、この不安はなんだ???
 
ママがいない週末。俺は完全子守の週末。
来週は俺が横須賀出張なので、子供達へのプレゼント購入係に任命された。勿論、お隣の海野家と合同計画、晃の分も買ってくる。
晃が欲しいと言っているプレゼントは、泉美さんから報告済み。流石、三歳ともなるとそれなりに自ら欲しいというものがあるらしく、晃は緊急車両のシリーズを希望だそうだ。
今日の夕食の時に、我が子達にもそれなりに聞いてみた。
『もうすぐサンタさんが来ます。何が欲しいかな?』と――。
だが、わかっているよ。海人はまだ二歳だし、杏奈は一歳になったばかりだ。二人ともきょとんとしていた。
じゃあ、海人にはドライバーセット、杏奈には……見に行ってから決めることにした。
奥さんには毎年決まっている。それも、来週の買い出しの時に見つける予定。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月9日
葉月が横須賀出張から帰ってきた。さて、どうなったのだろうとそれとなく――『義兄さんとの食事は楽しかったか』と聞いてみた。
なのに彼女は『うん、楽しかった』と、ちょっぴり寂しそうな顔で言っただけだった。
妻が義妹として喜び一杯の顔で報告してくれることを信じて待っていた俺としては、拍子抜けの表情?
でも葉月は途端に笑顔になって俺に言った。
『義兄様とのお食事、昔話がしみじみできて良かった』と――。
その昔話が、クリスマスにまつわることだったり、ようやっとクリスマスを意識できる日々を取り戻したことだったり、だったそうだ。
なんかわかるな、そんな御園家に関わっていた義兄さんと葉月の今までのキリキリしていた日々を思えば、二人揃ってクリスマスのイルミネーションを眺めるだなんて、最近のことなのだろう。
俺でも、葉月がそこを見る余裕が出来てたことや、それを維持できる日々を取り戻した姿を見ると、嬉しくなるもんな。
『穏やかに家族でクリスマスを迎えられるようになって幸せよ』なんて――。
あれ。だったら報告したのか。義兄さん。隼人も既に知っていると言ってくれたのか、義兄さん?
でも、葉月もとっても幸せな気分で帰ってきたようなので、俺はそれ以上言えなくなった。
きっと、報告してくれたんだよな? な、義兄さん。じゃないと、義兄さんは馬鹿だ。
だけれど、葉月が義兄さんとクリスマス気分を味わえたのは初めてだったと嬉しそうに報告してくれたので、もうこれ以上はなにも言うまい。
このまま幸せな気分にさせておいてあげたいから……。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月12日
予想はしていたけれど、出張の日が近づくたびに落ち着かなくなった。
眠りも浅いし、なんとなくもやもやする。
寝る前は妻が隣で寝そべっていても、何ら気にすることなく就寝前の読書をしたりするのに。それも出来ない。
そのせいか、葉月も熟睡できないようだった。
『貴方、眠れないの?』なんて、不眠症気味だった妻に言われるだなんて……。少しばかり情けない。
だが、この時期の横須賀だけは勘弁してくれ――と、言えば良かったのか。
書斎に何度も眠れそうになる読み慣れた本を取りに行っては彼女の横に戻るのだけれど、ため息ばかりで駄目だった。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月15日
ついに出張。朝、小笠原を出発し、横須賀で工学科の会議に出て、今日は横須賀の御園両親宅に泊まる。
横須賀基地での仕事を済ませて、こちらご両親宅に到着。
夕食を終え、いつも使わせてもらっている泊まり部屋で、パソコンをオンラインにしたところ。

この出張ほど、億劫に感じた仕事はなかった。昨夜も本当に眠れなかった。

それでも今回は色々と済ませなくてはいけない用事があるので、なんとか気持ちを奮い立たせていく。
妻には心配を掛けないよう、それなりにいつも通りの顔を保ってきたつもりだ。

でも、寒い……。何故だろう。いや、判っているんだが。
そんな気持ちから『あっちはもうだいぶ寒いだろうから、暖かくなれるものでも買おうか』なんて、出発前に妻に呟いていたようだ。
特に意識していたわけではないが、俺はマフラーも手袋も持っていない。小笠原が暖かいせいもあるし、本島に出張に出ても寒い風の中を歩くということもあまりない状況なので。
でも……。今年はどうしてかそう思ったのだ。
そうしたらどうしたんだろう? 出発前の玄関先で、急に葉月が『丁度、貴方に似合いそうなものを見つけたのよ』とか言って、俺の首にさりげなく、本当に極々自然に首に巻いてくれたのだ。
ふわっと柔らかい肌触りのマフラーは真っ白だった。
いつかを思い出すにはありあまる光景が俺の目の前に広がったのは言うまでもなく。
でも、それは痛い思いをした妻も同じ思いだったはず。きっと彼女も凄惨な記憶に埋められそうになった、幸せな記憶を必死になってそこだけ抜き出すかのように思いながら、白いマフラーを買ってくれたのだろうと思って、俺もさりげなく『有り難う』とだけ伝えて、首に巻いてきた。
 
葉月。俺がいま、寒くなっていること。わかってくれていたのだろうか。
俺がずっと眠れずに、落ち着かない様子を黙ってみてくれていた。
 
彼女は……。やはり今は『俺の妻』なんだなと、染み入った。
きっとこのマフラーがあれば大丈夫。
 
そうしたら、これも葉月の差し金なのかな? 今夜の、登貴子お義母さんの手料理は、いつも俺が食べたいと言っている『肉じゃが』だった。寒そうな俺に作ってくれるよう、ママにお願いしてくれたのだろうか?
ほっかほかの肉じゃがと、アツアツ鍋での湯豆腐。亮介お義父さんと熱燗で乾杯して一緒に食べた。
妻の実家だけれど、おふくろさんの手料理で親父さんと熱燗を飲む冬は良い。
 
明日も横須賀基地で空部隊についての会議が一本。それを終えたら、隣の義兄さんの部屋に遊びに行く予定。
クリスマスパーティの準備、ちゃんと進んでいるのかなあ?
 
ファミリーってやっぱりいいな。
帰りの横須賀基地滑走路。難関だけれど、きっと乗り切れるはず。
でも『あの場所』を思い描くと、まだ寒い。
しかも今日は側に妻がいない。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月16日
気を取り直して――。
横須賀基地での用事を済ませた午後は横浜まで買い物に行った。
もちろん、『サンタさんからのプレゼント購入』任務のため。
晃の緊急車両シリーズ、海人のドライバーセット(なかなか見つからなかったのでロベルトに電話してメーカー名を聞いてしまった!)
杏奈は、やっぱりまだ肌触りの良いぬいぐるみかなー。……しかも俺はピンク色の『ウサギ』を買ってしまった。
 
さて。最後はあと一人分。地下の食料品売り場だな。
シャンパンは義兄さんに頼んでいるので大丈夫。
問題は、今年はどこのどんな『チョコレート』を買うか。
葉月は毎年、このクリスマス限定のチョコレートを楽しみにしてくれるようになったので、いつの間にか恒例になってしまった。
シックで大人っぽいものが良いのか。高級チョコがよいのか。はたまた、如何にもクリスマスぽいものが良いのか、毎年悩んでしまう。
そうだな。今年はちょっと高級な大人の味で行ってみるかなと、少し値が張ったが、クリスマスの包装をしてもらい、妻への恒例プレゼントも終了――。
なんとか本島での役目を終えた気分。
明日は小笠原に帰る。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月17日
なんとか小笠原に帰ってきた。
例の難関も、義兄さんや真一のちょっとした気遣い、そして俺達の楽しい思い出でもあるはずだった白いマフラーのおかげで乗り切った。
 
自宅にまっすぐに帰ると、なんと基地で仕事をしているはずの妻が待っていた。
彼女が煎れてくれた『おかえりなさい』のカフェオレが凄く温かくて、やっと寒さから解放された気分。
そんな妻に……今年は正直に言ってみた。『毎年この時期は、俺の目の前で笑っていてくれないか。俺の傍にいてくれ。目の前にいてくれ……』と。
後から振り返って、すんげー恥ずかしかった(≧д≦)
さらに白いマフラーは実は、イブの日のプレゼントとして買い置きしていたものだったとか。俺が予想していたとおりに『そろそろ良い思い出だけでも私達だけの物にしても良いのでは』と葉月も思ったのだそうだ。
だけれど、俺があまりにも不安そうな顔で、この時期に横須賀へ出かけていったので、葉月もフライングだが渡さずにいられなかったのだとか。
いいや。イブより寒いと思ったその時にくれた贈り物であって、俺は良かったと思う。妻のそんな気遣いがとても嬉しかった。
 
内緒日記のここだけの話。
クリスマス前だけど、今日はなんとなく、二人でいつも以上に寄り添って眠るような予感。今夜の葉月の肌は暖かそうだ。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月24日
今年も我が家で、義兄幹事のファミリークリスマス会をした。
勿論賑やかで、皆が幸せそうな顔……。
 
だけれど、呆れたことがひとつ。
俺自身のことで精一杯で既に放置状態だったけれど、義兄さんはやっぱり葉月にまだ報告をしていなかった!
葉月も葉月である時まではかなり不機嫌だったくせに、義兄さんとの食事をした後はただ何事もなかった顔をしていたから、なんとかなっているものと思っていたのに――。
しかも義兄さんの言い訳が『こっちに引っ越す寸前に教えてやろうと思っているんだ。全ての準備が整ってから。その方がびっくりするだろう』だと?
それって何ヶ月後の話だと驚いた俺は、義兄さんを蹴っ飛ばして、早く報告してこいと葉月の不機嫌の原因を取り除いてくるよう無理矢理向かわせた。
やっと義兄さんがクリスマスツリーの下で、義妹に『近所で暮らそう』という報告を。葉月の驚いた顔。そして嬉しそうで(ちょっぴりはにかんだ)幸せそうな顔。
なーんか無性に腹が立ってきた。ほんっとうに、この義兄妹には一生振り回されそうだ。
 
で。そんな俺が夫としても義弟としてもどうして我慢しているかと?
それは今夜の妻がチョコレート味だと俺だけが知っているからです(=´ー`)v(ここでのろけてやる)

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月27日
クリスマスが終わると本当になんて慌ただしい年の瀬と変わることか。
今度は鎌倉や横浜に帰省する準備を始めている。
特に鎌倉! 軍人一家であるため、元旦に揃うということはないと誰もが心得ているせいか、当主の京介叔父様が今年の一族総集合を連休最終の6日と定めてきた。
それなら俺達も本国帰省組が帰ってきた入れ替えで有休が取れるので、ここからが俺達の帰省休み。
そこで横浜の実家に泊まり、鎌倉の一族年始めの集まりに出席。
普段は気さくな人たちだけれど、こう言う時はきちんとしている。しかもアメリカナイズになった本当主の亮介義父さんとは違い、日本の格式を重んじる当主として鎌倉御園家を守ってきた叔父さん主催の集まり。
ここでは皆、びしっと正装で来るのだー。その上、茶室で叔父様が点てたお茶をご馳走になるのも恒例だー(緊張するんだー)
軍服なら気楽なんだけれど、軍人一家といえども、そこは『白正装でも、それは仕事着』と見なされ、本当にスーツで行かなくてはならない。
葉月もきちんとした正統派で控えめのスーツを準備している。川崎にいる鎌倉従姉である姉さん達は毎年きちんと着物でくる程――。
さて、今年もコーディネイト困ったなあ。
右京兄さんには『はやく自分らしいコーディネイトを見つけろ』と言われるけれど、俺がこういうことを気にするようになったのは、御園一族と関わるようになってからだもんな。
 
仕様がない。ベースのスーツは紺にして、あとはカラーシャツを三枚、ネクタイを四本ほど持っていって、純兄さんに相談しよう。
あんな義兄さんだけれど、正統派でノーブルなコーディネイトはこっちの義兄さんを頼るに限る。
右京さんのアドバイスも完璧なんだけれど、何かが何処かが少しだけ俺に合わせると華やかすぎて。そういう点では控えめでもきっちりと男を光らせている純義兄さんの方が、俺もしっくりくるんだよなあ。悔しいけど。
 
やっぱり俺達、義兄弟なのかなあー。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

12月31日
上官といえども、なるべくなら離島で励んでくれている部下達を帰省させてあげたい。
そう思って、俺と妻は後回しで、先に部下達の帰省を優先させる主義。
まず、アメリカやマルセイユで家族とクリスマスを過ごしてきた海外組が帰ってきた。入れ替わりで日本隊員達が全国の実家へ帰省した。
俺と葉月と達也でなんとか、部署をまとめている年末も、もう恒例と言ったところ。
その分、大晦日の年越しは、海野家と一緒に過ごすのも恒例になってきた。
 
基地もそれほど騒がしくない人もまばらな年末。
いつもは残業の日々でも、今日は定時前になると、達也がわざわざ工学科まで迎えに来てくれた。
葉月はもう少しかかるとのことで、俺達だけで先に帰って、大晦日の食事を始めようと。
 
家に帰る。大晦日はうちの御園家のキッチンとリビングで二家族が年越しをする。
隣から来た泉美さんと達也のお母さん八重子さんがあれやこれやと、おせちや年越し蕎麦の準備を始めてくれていた。
 
ご馳走を待ちきれずに賑やかに騒いでいる子供。葉月もいつもより早めに帰ってきて、食卓に皆が揃う。
毎年、互いの本家への帰省は叶わぬ身分なれど、自分達が築いた家庭でこうして二家族、賑やかに年越し。
 
今年もいろいろあったけれど(もとい、一族に振り回されているけど)、俺達はそれなりに幸せなんだと思うのも、毎年恒例の大晦日。
 
八重子母さんの天ぷら蕎麦が、毎年美味い! 小笠原でのおふくろさんの味になりそうだ。
 
良いお年を――。

 

 

 

■ 12月はここまで〜。今年もご苦労様の隼人さんでした(笑)
今回も昨年アップした、今回の隼人日記とリンクしているクリスマス3話をリンクしておきます!
次回一月は、鎌倉でのお正月♪ さてどうなりますでしょうか、婿殿? お楽しみに(^ー^)
1.イヴ前【純一ver】  2.イヴ当日【隼人ver】  3.イヴ後【葉月ver】
 

 

 

 

Update/2008.12.20
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