【隼人ダイアリー】 *** 月にウサギ ***

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月にウサギ 1月

 

1月1日
あけまして、おめでとうございます。
日本に帰国して何年かな。最初の頃は日本の正月が手元に帰ってきたことに違和感を感じるほど、マルセイユ体質だったけれど。
特に結婚して、家庭をもつようになったら、日本の正月を迎えるたびに、俺も『日本のお父さんになったんだなあー』なんて思ってしまう。
 
大晦日同様、我が家は小笠原のファミリーでそれなりに過ごした。
八重子母さんと泉美さんが作ったおせちで新年を迎え、元旦から基地へ出勤
毎年、そんなもん。
それでも午後二時間程度かな。元旦は、とりあえず基地の様子見で三人揃って出かけた。
夜は帰ってゆったりとファミリーで夕飯。
明日は年賀挨拶で、細川中将とフランク中将の家へ行く。
 
子供達は、それが楽しみ。
豪勢なご馳走に、お年玉がいっぱいもらえるからだ。
細川中将は正月が明けてから、本島の横須賀に勤務している長男宅へ数日滞在するらしい。お祖父ちゃんとして。これも恒例。
だけど中将もやっぱり正月だからこそ、基地から離れないんだよな。
葉月はいつもこの中将を見習っているから、独身の頃から一人で四中隊を守るが如く、正月帰省返上していたんだろうなと、今は思う。
本当にこの中将こそが軍人である彼女の軍人お父さん。勿論、俺達にとっても。
そして、中将はそんな葉月の子供を孫同様に可愛がってくれている。子供達にとっては、島のお祖父ちゃんだ。

今年もみなさん、よろしく!

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・・

 

1月3日
三が日もあっという間。
御園大佐嬢、御園工学中佐、四中隊副隊長である海野中佐。
俺達、三人はもう通常勤務ね。
やっぱり昨日のフランク家&細川お父さん宅での年賀パーティーは賑やかだった。
あのロイ兄様の勢いには誰も勝てなくて、ついつい飲み過ぎてしまうんだよなー
俺も達也も、食べ過ぎ飲み過ぎ。今日はともに胃薬持参で出勤。
それでも葉月だけはケロッとしている。あいつはロイ兄様避けが出来るからだ。
『貴方達も、早くロイ兄様を軽くかわすワザを身につけた方がいいわよ』
――なんて、言われて。流石、長年の義妹分!
達也と額を付き合わせ、来年に備えて、こうなった時はどうしようかと水が入ったコップを目の前に、のんびり人もまばらなカフェで話し込んでしまった。
 
既に俺達は正月気分は抜けたけど、今週末から俺達が帰省組。正月休暇。
俺と葉月は子供達と横須賀の実家へ、そして鎌倉の一族年賀会へ。達也は山梨の甲府に、泉美さんと晃と八重子お母さんと帰る。
そうそう。八重子お母さんも、ようやっと甲府のワイナリー実家に出入り出来るようになったみたいだ。いろいろあって見守っていたけど、良かった、良かった。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

1月5日
いよいよ明日だー。鎌倉の一族年賀会!
今日から休暇と言うことで、朝一の便で横須賀の御園両親宅にお邪魔している。
チビ二人が泊まりがけでやってきたので、もう亮介父さんのはしゃぎようも、登貴子お母さんの喜びようも並じゃない。
……早速、チビ達になにか買ってやるんだと、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの二人に外へと連れ出されてしまったんだけれど。
そして取り残された俺と葉月は、お隣にいる谷村家へとご挨拶。
純義兄さんと真一がちょっとしたオードブルとワインを用意して待ってくれていた。
子供達がいないので、しっとりと大人のムードでの『義兄弟新年会』。
真一もすっかり凛々しい青年になって、ワイングラスを傾ける姿もさまになってきた。それで若叔母の葉月と囁き合っているその姿に、ちょっぴりドッキリとする変な旦那になっている俺。
義兄さんがそんな息子と義妹を見て、静かに微笑んでいる。
『真一は俺の弟に似てきたな。あれが生きていて葉月と愛し合ったなら、ああだったかもな』
――俺、笑って流したけど、けっこう聞き捨てならなかったんだけど!(純兄さんより、真兄さんになんか引っかかりを感じることがあるんだ!)
だからって、既にお亡くなりのもう一人の義兄様によく似ているとかいう甥っ子に嫉妬してもさー。(;つД`)
そんぐらい、絵になっていたんだよ。この若叔母と凛々しく成長した甥っ子が。
で、義兄と乾杯して、楚々とした佇まいで見つめ合う純兄さんと葉月もな……。
谷村兄弟は、永遠に俺を邪魔すると思う存在。そして一番の味方であったりもする……。
それでも、最後は真一が『今年も隼人兄ちゃんと葉月ちゃんは、どことなくお揃いの格好で鎌倉出席でしょ』だなんて、からかってくれる。
 
四人だけの新年会もなかなか邪魔がなくて楽しい。
この後、男三人で明日のコーディネイトを決める。
義兄さんに相談したネクタイやシャツ、実は、義兄さんがそれとなく葉月が着るスーツやアクセサリーに合わせて『お揃い夫妻』に仕立ててくれているんだよな。
今年は紺のスーツに水色のブラウス、白い花のコサージュを用意した葉月。俺も同様に水色のシャツに白いネクタイ。これで決まり。ああ、山崎先生の病院で家族だけの結婚式を挙げた日の服装を思い出した。
――そういえば、来月は結婚記念日が来るのか。早いな。
 

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

1月6日
鎌倉一族年賀会、行ってきました〜(脱力)
鎌倉家へのお年賀が終わってから、今度は俺の横浜の実家に帰省。
さっきついて、二階のゲストルームで落ち着いたところ。美沙さんの手料理いっぱいの夕食待ち中。その間に、忙しかった本日を記してみる。
 
鎌倉お年賀、今年も、楽しいこともあったし、すごく疲れたこともあったし。
俺、お茶会の時にやっちゃったんだよな……。とまあ、その話はまた後で。
 
御園家の今の幸せを祝福するかのように、本日は晴天。
鎌倉の家もお正月らしい佇まい。いつもながら感心する手入れが行き届いている日本庭園。門をくぐると水仙の花が咲いているのが、毎年、一族で新年を迎えたんだなーという気持ちにさせてもらえる。
俺達は『横須賀一家』とか『本御当主一家』と呼ばれている。つまり本当主である亮介お義父さんに準ずる家族、横須賀に住まう御当主関係ファミリー。横須賀のご両親、同じマンションに寄り添うように暮らしている純一義兄と息子真一の父子、そして小笠原若夫妻ファミリーの俺と葉月とチビ二人。これで『横須賀一家』。揃って鎌倉に到着したので、待ちかまえていた右京従兄さんが『横須賀一族、ご到着』というのも毎年恒例。
右京従兄さんも、奥さんのジャンヌ先生もシックな黒のフォーマルぽい服装。なのに数少ないアクセサリーでさりげなくも華やかに決めているのは流石。大人のムード。
そして『川崎一族』も勢揃い。こちらは、留花従姉さんと薫従姉さんの鎌倉姉妹の一家。
『隼人お兄様、お久しぶりー』と、可愛らしい挨拶をしてくれるのは、すっかり成長した薫さんのお嬢さん『美音ちゃん』!
なんとまあ! 去年まではまだまだ学校の制服を着て参加していて子供っぽかったのに! 中学生になって女性を意識するようになったのか、今年はしっかりドレスアップをしていた!
『今年はすごい大人っぽくなったね』―― つい、見とれてしまったんですけれど。美音ちゃんのその雰囲気、ちょっと写真で見たうちの奥さんの少女時代に似ているんだけれど!?
『隼人お兄さん、ご無沙汰です』と、美音ちゃんの後ろでちょっと強ばった顔で現れたのは、留花さんの息子『徹君』。こちらもスーツ姿で、ますます男らしくなって!
といって。そんな子供の成長を目にして毎年驚いたりできるのも、一族集まりの楽しみ。
そして子供達のお楽しみも、ちゃんとしてあげなくちゃね。美音ちゃんと徹君に『お年玉』を。二人は嬉しそうに受け取ってくれ、俺にお礼を言うと、すかさず葉月のところにも行って『葉月お姉様ありがとう』ときっちりとお礼を言っている。
子供達には楽しみなお正月会なんだろうな。なにせ、これだけ大人が揃えばね。美音ちゃんと徹君は最後に、純一義兄さんのところにご挨拶。なんでも黒猫のおじ様が一番、緊張するんだって(こっそり聞いた)
 
こちらが出資すれば、向こうの親御さんも出資してくれるのは当然の『お年玉』。
『隼人さん。右京お兄様と、留花お姉様と薫お姉様から、海人と杏奈がお年玉をもらったのよ』との報告。
お礼がてら、ここからしっかりそれぞれに新年のご挨拶。川崎在住のピアノ教師鎌倉姉妹は、今年もしっとり着物姿。妻の葉月があんまり似合わないので、いい目の保養です。そしてこちらのご主人も堅実そうなスーツ姿。薫さんの音楽隊旦那様、留花お姉様の音楽隊旦那様も勢揃い。『川崎一族』にもご挨拶。
 
和やかに賑やかになったところで、鎌倉家御当主である京介叔父様が登場。相変わらず着物姿。留美叔母様も、辻が花の渋い着物でいつもより華やかで、そしてはんなりとした仕草でおせちやおとその準備。娘の留花さん薫さんも着物姿ながら当然のこと。お嫁さんになったジャンヌ先生も、慣れていない日本ながらも去年よりも手慣れて。で、うちの末っ子奥さんなんだけれど。やっぱりこんな時は『葉月はそれよ』『葉月はこれやって!』と従姉姉様達にバシバシ使われているんだな。
基地で大佐嬢としている葉月の部下男達が、こんな姿を想像するだろうか?
『毎年、結構、見物』と横で純一兄さんが意地悪そうに笑っている。それも毎年恒例で、それに気がついた葉月が義兄さんを睨んでいた^^;
えっと、俺も一緒に笑っていたなんて思われたら嫌だから、そうっと右京さんのところに移動してみた。
ちなみにこんな時の鎌倉家。『男は手出ししなくて良し』になっている。ちょっぴり昔風の風景。でも鎌倉の女達は皆、気が強いから。京介叔父様の『正月ぐらいは、男はゆっくりしろ』という思いなのかと勝手に決めている俺がいる(←使われる男体質の俺)
 
スーツ姿と着物姿の一族が揃って、おとその乾杯は本御当主の亮介お義父さん。ここは流石、京介叔父様。
厳かに皆で一杯ずつ飲み干して、やっと賑やかなお食事会。
鎌倉のお正月は、本当に古き良き日本のお正月で、おとそ、おせち、そしてお雑煮。日本酒。
基地で国際的な日々を過ごしていく俺達だけれど、またここから、新しい一年という気持ちにさせてもらえるね。原点な気持ち。
わいわいと賑やかで、こんな時、一族っていいなと思う。
 
さて。問題のお茶会。
初めてではないけれど、庭にある茶室へ向かうと、どーしても気が引き締まる以上に緊張してしまうんだよなー。
毎年、叔父様は『食後のデザート気分で気軽に』と、あの優しい笑顔で言ってくれるんだけれどね。
でもさ。結局、皆さんがしーんとした空気の中で『結構なお点前です』とかやるんだもんな。
まあ、うちはね。まだ落ち着かないチビっ子も参加だから、ちょっとした行儀悪は親子揃って免除してもらっている。
今年もそんな空気で叔父様のお点前スタート。
一番最初にお茶を頂くのは御当主の亮介お義父さん、続いて登貴子お義母さん。流石の落ち着き。一切無駄のない流れるような美しい仕草。ここまでにならないとね。
続いては、鎌倉家ご子息の右京兄さんご夫妻。だけれど、右京兄さんがやることは毎年決まっている。――『こんなことするから、皆が心から楽しめないんだよ』と、片手でがばっと飲み干してしまうのだ。そこは父親である叔父様も『こら』としかめ面で嗜めるのも毎年のこと。でも息子の右京がぴんと張りつめている空気を和まそうとしているのもわかっているようで、うるさくは言わない。親子の息が合っている気遣いというべきか。でも、妻となったフランス人のジャンヌ義姉さんは、そんな日本の作法に最近は感化されているようで、こちらはきちんと丁寧に、背筋を伸ばして作法通りのお茶。綺麗だったよー。同じフランスから帰ってきた俺、もっと緊張する!
そして御当主の娘夫妻ということで、俺達小笠原若夫妻に回ってくる。先ずは葉月から。でも、こいつがやってくれた。
横でチビッ子海人が落ち着きなかったのが気になったのか、茶碗をひっくり返して畳にこぼしたのだ。俺、妻の失敗に顔面蒼白。葉月も『しまった』という顔。でもそこはまだ、姪っ子なので気楽なよう。直ぐに『やっちゃった』という誤魔化笑いで一族の叔父様叔母様、お兄様お姉様方に微笑ましそうに見てもらえる末っ子の得するところというのか……。
まあ、そんなこともあるかもなと、チビ海人がいるから仕方がないかと思った。
問題は次。『海人もまねっこでやってごらん』と京介叔父様が小さなお茶碗をこしらえたとかで海人に持たせてくれた。
葉月と一緒になって、『こうやってお手手でもって、ごっくんってするのよ』と教えたら、海人はパパの俺の顔とママの葉月の顔を交互に見て、それをやろうとしていた。
――と、思ったら。こいつもやってくれた!
ママがさっきこぼしてしまったように、お茶碗をぽいと手前に投げてしまったのだ。当然、またお抹茶が畳を濡らし、あろうことか叔父様が作ってくれた子供用お茶碗がころころと転がって、向かいにいる川崎一家のところまで!!
――場が一瞬、シーンとなった。マジでシーンとなった。俺、凍り付いた。
だけれど直ぐに笑い飛ばしてくれたのはやっぱり右京兄さん。そして、京介叔父様も。『ママの真似をしたんだね。よく見ているね。おりこうさんだ』なんて褒めてくれたんだけれど。俺は、俺は、もう……気が遠くなる思い。
この、母親のお前がこぼすからだ。まったく! 後でどんなに末っ子で許してもらえるからと気軽に構えていてこぼしたなら、今は母親として海人と杏奈がお手本で見ているんだから、しっかり……云々……と説教文句を思い浮かべながら、俺の番。
……俺もやってしまいました。
考え事してお茶碗を持った途端に、滑らして落として、妻と息子と同じことをしました。
今度は皆、大爆笑。
『まあ、仲の良いご家族だこと』なんて、薫さんに笑われて(この人が言うと、なーんか嫌味ぽいんだよな)
流石に葉月も顔真っ赤。俺もね。
 
お茶はやっぱり精神統一しなくてはいけないんですね、叔父様。そうおもったお茶会だった。
来年は失敗しない。
 
無事にお年賀も終わって、川崎一家は早々に自宅へと帰っていった。
俺達も横浜に向かう準備。
その前に『八幡様にお参りにいかないか』と右京兄さんに誘われて、俺達一家と谷村親子と右京兄さん夫妻で、お参りにいった。
右京兄さんと純一義兄さんと葉月。幼馴染み同士というのかな。そしてその家族。今度は気兼ねないお散歩の気分。
しっとりとした大人のムードでお参りをする右京兄さんとジャンヌ義姉さんの、お賽銭を投げて二人で一緒に手を合わせている姿、幸せそうだったな。
二人とも栗毛と金髪で、日本人離れしている顔だけれど、あの神社をバックに馴染んでいる夫妻姿だったよ。このお二人はここで生涯を過ごしていくんだなと思った。
帰りは、この幼馴染みが幼少の頃から通っているとか言う『甘味処』に寄った。
右京さんと義兄さんと葉月が、懐かしい昔話をしながらお汁粉を食べている。
そんな在りし日を思い出すのも辛そうだった三人のはず。だけれど今は笑って懐かしそうに話している。
それをジャンヌ義姉さんが幸せそうに見つめている。俺と目があった。俺もジャンヌ義姉さんと同じ気持ち。俺達が中には入れない昔話でも、俺もジャンヌ義姉さんもそれだけで幸せなんだと通じているようだった。
……海人が相変わらずこぼしまくってくれた。
真一と杏奈もこちらは子供組で、もう食べることに夢中。無邪気な顔で食べていた。
 
鎌倉のお年賀は緊張するんだけれど、でも、毎年、こうして戻ってきた幸せを彼等と妻が再認識する日でもあるのかなと、最近は思っている。

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

1月7日
おはよう。今朝は横浜の実家でゆっくり目覚めた。
昨日の慌ただしい行事で、俺、ぐったり。
昨日の日記も長く書きすぎた。
 
起きたら、誰もいないんですけれど。
リビングのテーブルに『お兄ちゃんはゆっくりおやすみなさい。お祖父ちゃんと葉月さんとチビちゃん達と一緒に、デパートにお買い物に行って来ます』のメモ。
……おいてけぼり?
テーブルには、ちょっとした食べ物が用意されているだけ。
ああ、こっちのお祖父ちゃんと若お祖母ちゃんも、孫と一緒に出かけたかったんだな。
まあいいや。実家だから。気兼ねなく、もうちょっと寝よう。
 
俺だってさ。実家に帰ったら、ぐーたらしてもいいよな?
 
葉月もそう思って、俺を置いていったに違いない。
明日もう一日、この横浜の実家でゆっくりして、明後日の朝、小笠原に帰る。
そうしたら、また離島生活&基地生活。日常に戻る。
それまで『おやすみー』

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

1月17日
すんごい、久しぶりの日記になった――。
正月にすごい勢いで書いたから、ちょっと疎遠になっていたよ。
しかも、仕事が始まったら、やっぱり急に忙しくなってさ。
もうちょっとで、『俺の日記も、三ヶ月ボウズか』なんて思った。割と平和だったもんで。
 
ところが。ここ二、三日。テッドと一緒に頭を抱えている。
どこでどう、互いの妻と恋人が結託したのか、葉月と吉田が揃って『バーゲン休暇が欲しい』と言いだしたのだ。
テッドは面くらい、俺は……それは日頃頑張っている吉田にもそんな女らしいことを(勿論、妻にも)させてあげたいと思っているのだが、問題は『土日は嫌。平日、ゆっくり買いに行きたい』だった。
離島生活の彼女達。こんな時にまとめ買いをして、女性としてのアイテムを充実させているのだろう。
そしてテッドは『なぜ葉月さんまでそんな我が儘を』と困惑していたが、俺にはわかっていた。
葉月自身、実際のところ、そんなバーゲンや買い物には拘りがなく『したい時にちょっとだけ』という意識。それでも昔よりかは、女性らしい買い物をするようになったと思う。そんな葉月が『平日にバーゲンに行きたい』と騒いでいるのは、きっと可愛い後輩である吉田の為なんだって。
自分が騒げば、テッドが許してくれると、吉田と結託したのだろう。
 
俺の方で、なんとか調整したから『行かせてあげよう』ということにした。テッドは渋々していたが、でも俺が吉田のスケジュールを調整してしまったので諦めて、葉月のスケジュールも上手く調整してくれたようだ。
 
それにしても。葉月と吉田が姉妹のように、揃って泊まりがけのお買い物休暇か。それはそれで珍しい光景?
『貴方、ありがとう。小夜さんのこと、わかってくれると思っていたわ』と、葉月からお礼の言葉。やっぱり吉田の為に騒いでくれたらしい。
でも吉田は、葉月と初めて一緒に買い物に行くことをすごく楽しみにしている。
そんな恋人の姿を知って、結局、テッドも嬉しそうにしていた。
 
あんまり無駄遣いするなよ。(と、この前、ニューマシンを通販した俺が言ってみる)

 

・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・

 

1月29日
今月も終わるなー。
そろそろ小笠原は春の兆し。来月は桜が咲いてしまう。
結婚記念日があるし、なにをしようかな。
あ、恐怖のバレンタインがあった!
夫妻の間ではなんとなくでも、基地社会ではそうはいかない。
結婚してもさ。いろいろあるんだよな、これが。
またテッドと吉田の間でも色々ありそうだ。
だからお前達も早く身を固めろと心ではそう思っている兄貴心。
 
……もうすぐ、豆を投げつけられる行事もあるしな。
俺と葉月はどちらかというと海外寄りの暮らしなのに、やりたがる日本男児が隣人にいるわけ。
やりたい奴がやればいいのにさ。どーしてくじ引きで『今年はどっちが鬼の役をやるか』なんて決めるんだよ。
俺、去年ははずれで鬼をやらされた。
しかもチビ達はまだ幼くて意味もわからないから、何となく豆を握っているだけなのに、豪快に投げつけてくる男が約一名。
あれって達也の、なんか俺に対する日頃の恨みがこもっていないか?(だからやるのか?)
今年は負けない。今年は去年のリベンジを俺がする。達也、覚えていろよ!

 

 

 

Update/2009.1.31
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