ストーリーV

ニースとマルセイユの沖に入り、静かにパトロールを始めてから数日がすぎたある時、

「私達だけなんでしょうか?」

と、海図をみるスティーブが夏海に話しかけた。
うん?という顔で夏海が自分の副官を見上げる。

「そんなわけ…」

ないでしょ?と言いかけて夏海は口を止めた。
いや、ありうる。
今回の任務はこのことを踏まえて、おそらくさらに極秘だろうから、それはあるかもしれない。
そういうふうにあの人が自分を信じてくれるのはうれしいが、ちょっと重荷であることはまちがいない。
ましてや、あの中将のことだから、夏海の船だけで十分対応できるとおもっているのだろう。
今回の任務はある作戦の支援という形で艦隊を守ることであった。
それと、ある日ある時刻にある場所に向かっていくと言われる小型艇の絶対安全を確保すること。
しかし、そんなこと、一隻で守りぬけるだろうか?
まあ、艦隊にも対潜水艦のイージス艦がついているはず。
それでも、もう一隻ぐらいいてほしい。
そんなことを考えながら、夏海はそこで言葉を続けた。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもね。相手のことはわからないのもあるけど、潜水艦ってそう簡単に手に入らないこと、貴方だってわかっているでしょう?」

「そうですね。まあ、『上』にも護衛艦もついているはずですし」

「そういうこと。それに…」

「それに?」

「な、なんでもない」

夏海は目を海図に戻した。
?マークを頭にかざし、スティーブは夏海を見る。
その顔がほんのり桜色に変わっていたことをわからなかったのはライトテーブルのせいだろうか?

「Sonar、Con, サラ、どう?」

自分をごまかすためなのか,スティーブをごまかすためなのか、夏海は再びソナー室との内線を開いた。

『Con, Sonar。「上」はとっても騒がしいですけど、こっちのほうはかなり静かで〜す』

「了解、引き続きよろしく」

『了解〜♪』

内線を切ると、夏海は小さく息を吐いた。
上とはつまり、海上のことである。
どうやら、戦闘機がお互いを挑発しているのだろう。
ふと、日本で部隊長をやっている友人の顔が浮かぶ。
まさか、彼女がこんなところにいるわけないか、と夏海ちょっとだけ心の中にある期待を打ち消す。

「私達の出番はないかもね」

「そのほうを願っていますけどね」

「いつ動きだすんだっけ?」

「あ、はい、予定ですと、2300です」

そうかといい、夏海は目をこすった。
あれからずうとイエローアラートで艦内はその間緊迫した空気が支配していた。
こういうのが続ければ、みな精神的に疲れる。
夏海も例外ではなかった。

「ちょっと休まれたらどうです?」

「そういうわけにはいかないでしょ?皆もがんばっているのに」

「しかし、いざというときに艦長がしっかりしてくれないと、困るんですが」

目を細め、夏海を見つめるスティーブ。
いつも彼がここは引けないというときにする顔である。
その目に夏海は実は弱く。
わかったわよ、ちょっと休むといって海図を片付け始める。

「Sonar, Con。サラ、上でなにか別の動きあったら呼んで」

『Con, Sonar。わかりました、直接連絡します』

「スティーブ、作戦開始と同時に戦闘態勢に入るからそのつもりで」

「わかりました、ちょっとだけの間ですが、おやすみなさい」

ありがとといって、夏海はブリッジを出た。
それを見ていたのか、

「ふぅ」

ソナー室でサラは夏海と同じように一息入れ様と大きく体を伸ばした。
その横でそれを見たマイクの目は自然に伸びのため強調される彼女の胸にある丘へと向けられた。
柔らかそうな丘が二つ、彼の目の前にあった。
自分の顔が熱くなっていくのを彼は感じ、つい手を口に当てる。
鼻下が伸びていることを悟られないためである。
しかし…。

「どこをみているのかなぁ?」

「え”…。あ、あのすみません!!」

時はすでにおそし。
顔はすでに真っ赤。
目が離せないのか、まだ、マイクの目は…。

「艦長にいっちゃおっかなぁ?」

「え?あ!そ、それは!!ご勘弁を!」

否定もしないマイク。
そして、見たというより見せられたといえないのは彼の性格なのだろうか。
自分が墓穴を掘ったことに気がついたのはそれから数秒後だった。
そんな彼をみて、サラは肩を大きく震わした。

「あははは、かっわいい〜♪」

もちろん大声で笑っていない。
小さく、笑いおなかを抑えるサラ。

「からかいましたね?」

「うん♪疲れているようだからね」

「は?」

「違う?」

「い、いや違わないですが…」

さらに墓穴を深く掘ったとマイクはそのときすぐにわかった。
額を抑え、自己嫌悪つかる。
そんな彼をみて、サラはぷぷぷぷと小さく笑う。

「笑わないでくださいよ〜」

マイクはとうとうすねた。
しかし、その様子もかわいいのかサラは笑いつづけた。

「ほらほら、そんなにスクリーンを見ていると眼が疲れるでしょ?」

といい、サラはスクリーンに食い入るような目で見るマイクの顔を自分に向けた。
顔の向きを変えられたマイクの目は点となった。
まん前にあるのはサラの顔。
この距離だと…。
目をぱちくりさせ、鼓動があがる。
か、勘弁してくれ、おしおきはやだ。
とマイクは心の中で叫んでいた。

「目をつぶって」

「え”」

「いいからつぶって」

「は、はい」

もうどうにでもなれ!と心の中で叫び、マイクは目を閉じた。
この先どうなるのか、心の中で期待と否定が絡みあっていた。
そして…

ちゅ♪

と、やわらかい感触がした。
やわらかい感触がした。
やわらかい感触がした。
やわらかい感触がした。

瞼に。

びっくりして、マイクは目を開いた。

「な、なにを・・・・うぐぐぐ!」

驚きの声をあげようとマイクは叫ぼうとした瞬間、サラが彼の口を抑えた。

「ばか!今がどういうときはわかっているでしょ?!」

「むぐう、むぐぐぐ!」
(貴方が変なことをするからでしょうが!)

「ふふ」

と小さく笑い、サラが小さく笑い、手を離す。
ヘッドギアをかけなおし、スクリーンへ目を戻した。

「あ、あの?」

「はい、サラの緊張解きの術はおしまい!仕事に戻りましょ」

「は、はぁ…」

しどろもどろな気分でマイクはヘッドギアをかけなおし、目をスクリーンに戻した。

(あれ?)

とその時であった。
自分にあった肩の重荷がちょっと軽くなったような気分をマイクは感じた。
そして、その瞬間、自分がサラに一本取られたことに気がつく。
彼女は彼の様子を見てわざと、気をまぎわらす事をしたのだと。
くぅ〜〜やられたぁ〜!と心で叫び、マイクはいつか必ず、この借りを返すことを決心した。
後にこの二人が艦内一のラブラブカップルとなるのだが、それはまた別の話し。