ストーリーW
浅い眠りに落ちていた夏海であったが、内線のコール音がしたとき、跳ね起きた。
「サラ、動きがあった?」
『はい、漁船らしきものが旗艦空母と接触しました』
「わかった、すぐにいく」
内線を切ると、夏海は自室にある手洗い場で、冷たい水で顔を洗った。
「よし」
気合が入ったことを確認し、ブリッジに向かう。
通路はすでに赤く照らされており、乗組員がいそがしく動いていた。
戦闘態勢、レッドに入ったということである。
「Captain on the bridge」
静かにだが、夏海の到着が報告される。
すかさず、夏海は内線でサラに連絡を入れる。
「Sonar, Con。お二人とも、ご苦労様。上でほかに動きは?」
『はい、護衛艦のイージス艦が二隻ほど、警戒体制に入りました。後はものすごく静かで、戦闘機の動きも見られません』
「護衛艦は私達のことはわかっているわよね?」
「おそらく」
味方同士での戦闘が起きてはしゃれにならない。
と、そんなへまをあの中将がするわけがないってことはわかっている。
ただ、油断はできない。
もしかしたらということもあるのだから。
「Sonar, Con、護衛艦の位置は?」
『Con, Sonar、一隻は我が艦と艦隊の間。もう一隻はある岬に向かってます』
「Con, 了解…。ばか!」
その報告を受けた夏海は叫びながら内線を切る。
「は?!」
「あんなところに動けば作戦の目的をあいてに教えているようなものじゃない!」
「そうですね」
夏海は海図を開き、今受けた報告、護衛艦の位置を確認する。
その場所といえば、作戦で潜入部隊が上陸する場所とあまりにも近すぎる。
そこで、どうするか。
相手に作戦内容を悟られないためには、その護衛艦をその場から離す必要がある。
そして、そのためには。
護衛艦を動かすためには…。
「ファイアコントロール。チューブ1、2用意、注水とともに外壁をひらけ。目標は45にいる護衛艦」
え”?!とその場の人間は目をまるくした。
「艦長?!」
スティーブも驚きを隠せない。
「目標をセット、ただし、信管は抜くように!」
「…」
「どうしたの?早く!!!」
「は、はい!!」
今、言われた命令をスティーブが復唱し、それが設定される。
「味方を撃つんですか?」
「味方かどうかわからないじゃない」
「いや、味方でしょう」
「あんなところにいられては、邪魔なだけよ」
「だから撃つんですか?」
「だれも沈ませるといってないでしょ?」
「それは、そうですが」
スティーブが抗議するのも無理はない。
しかし、潜水艦は地上との連絡をとるためにはかなり浅いところまで深度をあげなければならない。
そんなことをしている暇はない。
どこかにほかの敵がいるからかもしれないのだから。
そして、夏海がとった行動がこれだ。
相手に敵がきたと思わせる。
これはある意味危険が賭けだ。
護衛艦にももちろんソナーがある。
こちらのスクリュー音を聞けば、こちらの正体に気づいてくれるかも知れない。
ただ、こちらを裏切り者としてみるかもしれない。
しかし、護衛艦があんなところにいられてはまずい。
警戒体制としてそちらに動いたのかもしれないが、それにしても、そこで何かを守る形になっている。
それでは、ばればれなのだ。
なら、こちらを敵としてみてくれれば、その場から引き離せる。
ただ、味方と相手を同時に相手にすることになるが。
夏海は味方の動きを理解していることから、護衛艦ぐらいは巻けると考えたのだ。
「発射準備ととのいました」
「発射」
「知りませんよ?」
「発射!!!」
「了解」
夏海の命令どおり、発射のボタンを押すスティーブ。
そのボタンを押したことに、魚雷管制室に赤いランプが光、そこにいる隊員が発射のボタンを押す。
パシュー!
バシュ−!
という空気が水中に一気に放たれた音が響く。
『魚雷、二本とも目的に正常にむかってます!』
マイクがソナー室より、報告をする。
スティーブはこの後、上にどやされることを覚悟する。
ま、夏海についてからいつものことだから、もうなれてしまったことだが。
『目標まで、あと40秒』
『艦長!護衛艦が魚雷を避け様と動き出しました!』
「了解、どう動いている?」
『はい、進路を変え、まっすぐこちらに…』
「当然か。よし深度400メートル!30ノットへ加速20°ダウンアングル!護衛艦をくぐりぬく!」
「了解!深度400メートル、30ノット、20°ダウンアングル!」
「深度400メートル、30ノット、20°ダウンアングル!了解!」
夏海からスティーブへ、スティーブからジムへ指令が復唱された。
それにより、シーウルフは深度を変え、さらに冷たい、暗い海へと向かう。
これで、あの護衛艦の目を自分らに向けることができた。
しかし…
『Sonar, Con!!潜っている艦を発見!』
「出ましたね」
「そうね」
『現在、進路は015、艦隊にむかってます!』
「どの型かわかる?」
『かなり古いものです。ディーゼルエンジン特有の音がしてます』
「了解、迎撃するわよ」
「わかってます」
魚雷を発射したことにより、自分達のことを教えたことになったシーウルフ。
幸運というべきだろうか、おそらく相手は自分らが護衛艦に魚雷を発射したことに、味方の潜水艦であることと認識し、行動を起こしたのだろう。
しかし、これにはもう一つの意味があった。
それに夏海はまだ気づいていない。