17.ハーフ&ハーフ

 

 『トン! トン! トン!』

「……おや? 隼人かな? 第一ラウンドは終わったようだね」

「!!」

階段を大きな足音を立てて上がってくる音。

「あの……」

まだ着替えもせずに、父親の部屋にいる事を隼人が知ったらどう思うだろう?

そう思って……葉月が顔色を変えた途端に、和之はにっこり……

『そのまま』と、葉月が立ち上がろうとする姿勢を手で制して

余裕の雰囲気を身体中から醸し出して書斎のドアへ向かっていった。

その姿に安心して、つい……座り込んでしまったが……

和之がどう出るのか? やっぱり、葉月は不安でドアに振り返る。

 

 「隼人。葉月君ならここだよ」

何喰わぬ顔でドアの前を通った息子を呼び止めたので、葉月は『ヒンヤリ』……。

 

「なんだよ? もう、連れ込んだのかよ? さすが、手の早い親父」

「馬鹿者。自分の父親をなんだと思っているんだ?

私は、ある程度まではお前を男手一つで育てていたんだぞ??」

「さぁね? おふくろだって本当のところ、どう思っている事やら?

生きていた当時からの本音って聞いてみたいところだな。

親父、結婚したの30歳頃だろ? それまでおふくろ一人だったのかどうかってさ!」

「ったく! けしからん。帰省もしないバカ息子のクセに!

お前はどうなんだ!? 現役30代男に聞くが葉月君一人だったのか?」

相変わらずの言い合いに、葉月はただ……苦笑い。

そんな葉月を目の前にしての『男会話』にやっと気が付いたのか

二人が慌てたように一緒に黙り込んだ。

 

でも、隼人はすんなり……父親の書斎に入ってきた。

 

そして……まったく、感じるところもない風に葉月の隣に

自然に座り込んだので葉月は驚いたが……

父子が自然に落ち着いているので顔には出さないように努める。

 

「やっぱり! 小遊びを自慢していたか」

葉月の手元にプラモデルがあるのを確認して……

でも、隼人が穏やかに微笑んだので葉月もホッとした。

「お父様が……作って下さったの。ホーネット!」

子供のように隼人に見せると、隼人も嬉しそうに『良かったな』と笑い返してくれる。

「本当にお前はけしからん息子だなぁ? 『小遊び』とは失礼な!」

そういいながらも、和之は机に戻って息子の分のコーヒーも用意している。

「いい歳して、プラモデル屋に行ったのかよ? なんだよ? このカラーリング」

隼人が葉月の手から『ヒョイ』とホーネットを取り上げて、勝手にテーブルの上を走らせる。

「もう! 私が頂いたの!!」

葉月は、乱暴にいじる隼人に半ば本気で怒って、走っているホーネットを取り返す。

「なんだよ? 大佐たる隊長が、こんなオモチャに子供みたいに」

口は悪いのだが……大切そうに箱にしまう葉月を隼人は優しい眼差しで見下ろしてくる。

それを見ただけで……葉月は彼に微笑み返していた。

そう……『子供みたいな大佐』を見て……

隼人は無邪気な彼女を喜んで見てくれているのが解ったのだ。

 

 「ふーん」

隼人はもう一つ、テーブルに和之が何気なく置いた赤いミニカーを手にして

暫く眺めている。

(小さい頃、お父様と遊んだ事、思い出しているのかしら?)

彼の眼差しがとても穏やかだったから……葉月はそう思いたかった。

「ミルクがなくて、申し訳ないが? フレンチ君」

和之がブラックの状態で隼人にコーヒーを差し出して向かいのソファーに再び座る。

「俺はそんなに了見狭くないぜ?」

葉月は、父親に威勢ばかり張る彼がおかしくて思わず『くす』とこぼしてしまった。

だけど……

隼人は角砂糖をコーヒーに放り込んでスプーンで溶かしながら……

葉月の反応はお構いなし。

暫く──黙り込んだ。

 

 そして……

「親父。和人の事なんだけど」

『!!』

美沙と話していた事をそのままここで続けるのかと、葉月はまた身体が硬直する。

「なんだ? 美沙が何か言っていたのか?」

なのに和之は慣れた呆れ事……とばかりに面倒くさそうに黒髪をかいて足を組むだけ。

落ち着き払っていた。

「あの……私、着替えてきます」

家族だけの話であろうと葉月が遠慮して立ち上がろうとすると……

隼人にカッターシャツの袖をそっとつままれて下に引っ張られた。

和之も息子のそんな小さな仕草は見逃さなかったようで

葉月に視線だけで『ここにいなさい』と小さく頷くではないか!?

(えーえー……)

父子に『見届けて欲しい部外者』として認めてもらえたのは嬉しいが

聞いてしまったら……葉月は自分自身もどう行動するべきか考えなくてはならなくなる。

そうなると……

自分では否定したいが……

『君の台風が楽しみ』

『じゃじゃ馬台風には敵わないよ』

そう……知らず知らずの内に後でそう言われ兼ねないことに首を突っ込みそうで怖くなったのだ。

 

だけど……葉月のそんな戸惑いはお構いなし。

父子の間で会話が始まってしまった。

 

 「親父はどうなんだよ? 今の和人の状態について」

「髪の色か?」

「色もそうだけど、進路の事とか」

「髪の色は校則違反であるなら一言注意はするが?

した上で改めないのであれば、本人思うところがあるのだろう?

規則だけで注意するだけでは意味がないだろう?

第一、昨今校則については論議は繰り返されているが

和人の場合、差し当たって急速に手を打たねばならないような悪さは何一つしていない。

後は、校則について『守る意味』だがね? それが親に説明できないのに

何故? 子供に無理強いに教え込まねばならないのかだ。

だから……私の中では『保留中』……」

社会人、親としては『ベテラン』の和之がハッキリ答えも出さずに

『保留中』と、とぼけたので……

葉月は思わず小さい笑いをこぼしたし……隼人まで『なんだそりゃ?』と呆れたのだ。

「お父様の仰るとおりだわ」

葉月がクスクス笑うと、和之はにっこり……。

そして隼人もとうとう笑い出してしまった。

「だけどな。一般的に『人が見る目』というものが、どの親も先立つのだろうね?

私だって社員を子供に見立てると、若い営業マンが茶髪だとどうだろうか?という

時代錯誤な心配がある。営業は第一印象であるからね。

アパレルメーカーでもあれば、許されるかも知れないが?」

「日本では特にそういう所はあって、難しいよな?」

隼人も父親の意見に深いため息で同意……親指を顎に宛てて

妙に真剣に考え込んでいるのか俯いた。

「ですが……和人君は今は学生ですし……社会人の第一印象とはまだ違いますよね?」

(あ!……つい)

なんだかんだと、父子の会話に入り込んでいる自分に葉月は思わず我に返るが……

「だからね……今は様子見で。何故? 和人がその様な髪の色を望んだかであることだね」

「うん、俺もそう思う」

父子は葉月の言葉も既に自然に取り込んでいるので

葉月は益々戸惑ってしまったのだ。

「じゃ。俺も様子見。美沙さんは今すぐなんとかしろってうるさいけど。

『家長様』と同意見ならホッとした」

「なーにが。こんな時だけ『家長様』だ」

「なんだよ。重要な時にはそこだけ尊重しているのに」

「そこだけだと?」

また、父子の憎まれ口が始まって葉月は再び無言の苦笑い。

だが、父、兄の今後の意向は同意で固まったらしい。

「進路については……本人次第というのは当たり前だろ?」

隼人が次ぎの議題に移る。

「勿論だ。兄に勝手にやらせたから余計にな!」

和之の鋭いお返しに隼人がまたふてくされたが……

「その通り」

あっさり認めたらしい。

だが……そこで一時して隼人が言葉を溜めてから……そっと一言……

葉月もドキリ……と、する事を言い出す。

「……会社は?」

恐る恐る隼人が言うわけも……葉月は何となく解って一緒に緊張。

だけど、和之も深いため息をついたにはついたのだが……

「成り行き任せだ。それに……まだ若い者に譲るほど老いたつもりもないしな」

「そっか」

隼人が父の勢いを確認してホッとしたように微笑んだ。

だけど……

「でも……親父。俺の気持ちはこの前伝えたけど……

和人が望むなら……その様にしてあげてくれないか?」

『!!』

葉月はまた、他人である自分の目の前で

あっさり『家督相続』について口にする恋人におののいた。

「ああ。まぁ──和人次第だがね? どこまで本気やら?

だから、ヤツの進路も見定め『保留中』……」

「なーるほど。流石、親父」

「お前に誉められても嬉しくも何ともないわ」

「あっそ」

相変わらずで葉月は、先程の一言挟んだ後は、入る隙はナシ。

それで何となく安心。ただ聞いているだけなら差し支えないだろうと……。

『ふぅん。流石、お父様。ドンとしていて……慌てない、慌てないって事ね』

葉月は思わず、隼人の横で腕組んで唸ってしまった。

今後の中隊管理の上で参考にしようとか考えていると……。

 

父子の話は落ち着いて静かにコーヒーを味わう空気だけの中……

『くぅ……』と小さく葉月はお腹を鳴らしてしまったのだ。

 

「えっと!」

思わず赤面したのだが……

「そっか。そう言えば……朝、マンションで食べたきりだったな」

「これは気付かなかったね!? 先程のお茶でお菓子も出さずに」

そろって二人が紳士になったので、葉月はさらに頬を染めてしまった。

「俺も腹、減ったな。何か作るよ」

「で、でも……お夕食があるし」

「小腹埋める程度だよ。それに、お前、なんでも結構食べるだろ?」

「失礼ね! 人を大食らいみたいに!!」

そこでやっと二人の男が似た声で揃って大笑いするのだ。

「今度こそ、着替えて来いよ? 俺、キッチンにいるから」

「私も手伝う! 隼人さんこそ着替えたら??」

葉月がいつもの調子で突っかかると……急に、隼人が黒髪をかいて父親を見つめる。

『あれ?』と、葉月も和之を見つめた。

「あーうん……っと……親父、俺が寝る部屋だけど」

「ああ。一緒で構わないのじゃないか?」

「そっか? じゃぁ……俺の部屋……今は?」

「和人が使っているから、問題なし」

「そう」

和之はシラっとコーヒーをすすって平然と同室泊を許したので葉月はびっくり!

(えー! 流石に今日は隼人さんは自分のお部屋で寝ると思ったのに!)

だが──隼人の部屋は弟が今は使っているとの事。

そうすると隼人の居場所がないから……『母の寝室で』と言う事らしい。

なにも言い返せなくなった。

(でも! でも! 美沙さんは何て思うかしら!!)

 

そう戸惑っている内に……

「葉月、行こう」

隼人が……しかも、父親の目の前で葉月の手を取って引っ張るので驚いて……

「お、お邪魔しました。お父様。模型、有り難うございます」

プラモデルの箱を大切に小脇に挟んでお辞儀をすると

いつもの優しい微笑みを浮かべる和之。

「なんの、なんの! とにかく夕食までゆっくり隼人と休みなさい」

『息子と一緒にどうぞヨロシクやってくれ』と言われたようで

葉月はさらに頬を火照らせてしまった。

それをみて余裕の父子はそろって可笑しそうにクスクス笑うだけ。

 

『ああ……ダブルって感じ』

 

敵わない兄様が二人いるような錯覚を起こしてしまったのだ。

 

 

 「ねぇ! お洋服汚れるから、このままでいいわよ」

和之の書斎を出て、隼人に先ずそう言った。

「って……お前、着替えるつもりあるのか?」

「お夕食には着替えるわよ!」

「…………」

ムキになっている葉月を見下ろして隼人がクスリと笑う。

「なんだよ? さっきから怒りっぽいなぁ?

解った……ウサギさんは腹ぺこなんだ……」

そういって耳元に口付けられたから、さらに葉月は驚いて身を固めた。

「ど、何処だと思っているのよ〜!」

「なんか今日のお前、面白いね〜♪」

いつもは平然顔の氷の彼女が、いちいち過剰な反応をするのが

隼人には面白いらしい。

(だって……ウチと違うんだもの!)

葉月がむくれても、隼人はいつもの『からかい兄様』で階段を颯爽と降りていく。

いつもの明るい頼もしい隼人の背中を確認して……

葉月も一応ホッとして階段をついてゆく。

 

 キッチンにはいると美沙はいなかった。

そこを隼人は悠々と入って慣れたように冷蔵庫を開ける。

彼のすごいところは、冷蔵庫を一目覗いただけでメニューが浮かぶところだ。

葉月は、その時はいつも『ワクワク』……何を思いついてくれるのか……。

「軽めにカルボナーラでどうだ? 簡単風だけど」

「隼人さんのカルボナーラ大好き♪」

隼人の手にはベーコンと卵、そして生クリーム。

それをテーブルに並べ始める。

「パスタはこれか?」

美沙がキッチリと整理をしているらしく、外国雑貨風のパスタ保存ガラス容器を

隼人は早々に発見。

「私が茹でる!」

「じゃ。俺はソース担当」

二人で白いカッターシャツの袖をまくって、ステンレスのキッチンに並んだ。

 

リビングには昼下がりの日差しが、燦々と入り込んできて

静かな時間。

いつもの小笠原のキッチンにいるようなムードに葉月は溶け込んだ気分。

よそのお宅のキッチンにも関わらず、彼が隣にいるだけですっかり気持ちが和らいだ。

 

葉月は鍋をもらいうけて右手一本で水を張る。

隣で隼人はタマネギの皮を剥き始める。

 

「葉月……」

「なに? お塩ある?」

「あ……ああ」

隼人は塩の在処もきちんと解っていて、迷うことなく手にする。

その塩の入った容器を葉月に手渡しながら……

「親父とね……ああやって意見を確かめ合うって。最近なんだ」

「え! そうなの?? すっごい息が合っているわよ?」

「解っているから、確かめ合わないのが……父親と息子かもね」

「…………」

「親父も……平然と俺と話していたけど。内心……驚いているんじゃないかな?」

「そうなの?」

いや……葉月もそう言われるならば……解る。

去年の秋。

小笠原に来た隼人は父親すらも拒絶していたのだから。

あの様に話すことはあまりなかった事は簡単に予想はつく。

それが……あんなに息のあった会話と意見。

やはり……父子であって……

だからこそ、隼人が言うように

──『いちいち言葉にしなくても解っている』──

で……済ませてきたのだろう?

「だけど……気兼ねなく話せる事は、良いことかもね。

やっぱり『言葉』はある程度は必要なんだね……。

これも……葉月が教えてくれたよ」

「またまたぁ〜」

葉月は思わず苦笑いをこぼして……照れ隠しにワザと鍋に顔を背けた。

「そうだろ? 御園中将じゃなく『パパ』として、話せるようになって葉月はどうなんだよ?

葉月がパパを取り戻したから、俺も……親父を取り戻したんだ」

「…………」

今度は……隼人が顔を背けて……まな板の上でタマネギを刻み始める。

「……違うわ……。パパを取り戻してくれたのは……隼人さんじゃない!」

『自分は何もしていない!』

いつも自分の為に駆けずり回ってくれている隼人にそこまで言わせたくなかったから

葉月はかなり真剣な顔で……怒ったように隼人に突きつけていた。

でも──

「だったら……」

隼人も包丁を動かす手を止めて……真っ直ぐに葉月を真顔で見下ろしてきた。

「親父を取り戻してくれたのも……『じゃじゃ馬』だろ?

俺にどつかれるのを覚悟で。内緒で小笠原に呼んでくれた……」

隼人の黒い瞳が……真剣に煌めいた。

「…………」

それでも葉月は腑に落ちなくて困った顔をしていると……

「お互い様。パスタは二人で100グラム。半分こ、ハーフ&ハーフ……。おやつヴァージョンだ」

隼人にそっと背中を叩かれて鍋の方に向かされた。

彼は鮮やかにタマネギを刻み始める。

「うん……半分こね」

葉月もそっと微笑むだけ……。

言葉にしなくても通じる大切な物だってある。

それはきっと……『大切』ではなくて、二人にしか解らない『かけがえのない』事……。

なんでもお互い様。

『ハーフ&ハーフ』

急に実感が湧いた……。

そっと二人で静かに調理を進める昼下がりの対面キッチン。

お湯が沸く音。

彼がボールに卵を開ける音。

それだけ……。

でも……お互いに目が合うと微笑んでいた。

 

 

 二人だけでそんな静かな時間をそっと味わっていると……

「お! なに!! いい匂い!!」

廊下側からはいるキッチンの入り口からそんな男の子の声。

 

「あ! 和人? お前、帰り遅いんじゃなかったの??」

「んー。まぁね」

あの生意気そうな少年がとぼけた顔で立っていたのだ。

「よ!」

その後ろから……男性がまた一人……。

 

「お、伯父さん!」

隼人の口から出た言葉に……葉月はまたびっくり硬直!

「いや〜……御園嬢のお土産にいつものアイスクリーム店に行ってみれば

和人にばったり出会ってね……」

「伯父ちゃん! 余計なこと言うなよ!」

和人の片手には、細長い手持ち付の紙箱。

それを和人はふてくされてテーブルに置いたのだ。

 

 

『この方が!? 昭雄伯父様!?』

 

 隼人と良く似ていた! きっと隼人がその年になったらそんなではないだろうか?

と……思える顔つきだった。

(やっぱり……隼人さんは母方似なんだわ!)

改めてそう思えた。

艶やかで張りのある……歳の割には活き活きとした黒髪。

そしてぱっちりとしたまつげの長い黒い瞳。

そして……穏やかな笑顔。

でも……違うのは……

そう和之とは違って地味な雰囲気の男性だった。

──『隼人君は伯父様似かも知れないわね? 大きな目に長いまつげ、思い出すわ』──

──『控えめで本当に和之さんの横でひっそり微笑んでいて、いかにも技術屋さんって感じの人よ?』──

母の言葉を思い出して……

『ママが言ったとおり!』と……葉月は唸った程。

服装は小綺麗だったが、和之ほどの洗練さは感じられなかった。

だが、本当に『職人気質』で生きてきた誠実さが伺えたのだ。

そんな穏やかな男性の『にっこり眼差し』と、葉月はバッチリ視線があった。

「やぁ……本当に和之が言ったとおりだね! 横須賀校長にそっくりだ」

大きな瞳を輝かせて、なんとも優しい笑顔。

この笑顔は和之の余裕で寛大な大人の微笑みとは異なる『優しさ』を葉月は感じた。

「そうそう! 彼女の従兄であるお兄さんにも今日会えたんだけど

彼女とお兄さんもそっくりだったよ!」

隼人も急に……伯父さんには屈託ない無邪気な笑顔をこぼしたのだ。

久し振りの再会だろうに……全然、違和感がない。

「は、初めまして。御園葉月です……。

あの……叔父がいつもお世話になっていると両親からも聞かされています。

母ともお会いしたこともあると……」

葉月がそっとお辞儀をすると、『ほぅ』とした深いため息が聞こえてくる。

「いや……貴女のお母様とお話した事は、昔のことですけれど

印象深く心に残っておりますよ?

あの様な女性と触れることがあまりない物ですから。

今日はそのお嬢様が来られるとお聞きして、和之に無理言って押し掛けてしまいましたよ」

「伯父さん、独身なんだ。葉月さん、気を付けた方が良いよ?」

和人が面白そうに葉月にそう言うのだ。

「こら、和人。余計なこと言うなよ!」

「あはは! いいんだよ。隼人、本当の事、本当の事!」

 

『独身!?』

葉月はまた、びっくり!

あの沙也加母の兄。

あの和之の人生を押してきた『親友』とも言うべき会ってみたい人物。

彼の尊敬する伯父が『澤村精機・専務』のおじ様が……

 

『独身……』

 

甥っ子二人に挟まれて、子煩悩に笑い合っているのを

隼人の後ろから、なんだか変な違和感を感じて、葉月はただ、眺めるだけだった……。