55.百合の園
マリアが計画した『葉月のバースディパーティ』
人を集めて、葉月にドレスを着せる。
集まる事にはすぐに途中で抜け出し、人前ではほとんど制服姿の葉月。
さて……? 葉月はこの誘いをどう受け止めるのか?
隼人は、そっとマリアと葉月が向き合っているのを見守る。
だが……葉月はいつもの仕事の判断力はどこへやら?
隼人が予想したとおり。随分と動揺して迷っているようだった。
そんな葉月を見て、計画したマリアもちょっと自信なさそうに
葉月から何か言うのを待っている。
「マリアさん?」
「な、なぁに!?」
葉月がマリアを伺うようにジッと下から覗き込むように見つめる。
「その……ドレスって? 中佐が私に?」
「え? ええ! 勿論──。ね? 中佐?」
マリアがニコリと隼人に振ってきた。
「……まぁ、葉月が良いならばだけど?」
隼人は無理強いはしない方針なので、マリアには悪いが濁した。
「……どうしてドレスなの?」
「え? それは……やっぱり、出来れば綺麗な方が良いと思うわ?」
「マリアさんも当然着るわよね?」
「うん……そうね。でも、主役より目立つ事なんてしないわよ?」
「私は、その『目立つ』のが嫌なの」
意外と葉月が自分の思っている事をハッキリと言ったので隼人は驚いた。
「制服の時でも葉月は目立っているじゃない?」
「それも嫌だから、時々、上着を脱いでいるのよ」
「……」
葉月の冷たい反応。
女性としてのマリアとしては、解りかねる『心理』だったようだから
彼女はちょっと困惑したようだった。
でも──。
「ふーん。隼人さんが選んでくれるの?」
葉月がしらけたような眼差しで、隼人をチラリと見た。
「お前が、着るって言うなら。目を皿にして片っ端から探すぜ?」
隼人もシラっと言い返す。
「選べるの〜?」
葉月の挑発的な眼差し!
隼人はちょっとムッとした。
確かに女性物はそんなに詳しくない。
特にこういう『ファッション系』
葉月にはとびきりセンスの良い『従兄』がいつだって、葉月を綺麗に引き出す事をしてくれているから
葉月としては『センスに関して従兄以上の男はいない』と思っているようだ。
「そういうお前はどうなんだよ? 自分じゃ洋服も選べないお嬢ちゃんのくせに」
隼人がそう言い返すと、今度は葉月がムッとした表情に。
「言ったわね!? 前にも言ったでしょう! 私は着せ替え人形じゃないんだから!
皆が勝手に選んで、着せたがるだけなのよ! それが嫌なの!」
「だったら、お前が選んだドレスをプレゼントしようじゃないか?
そっちのセンスを見せてもらおうじゃないか?」
「わかったわ。行くわよ!」
葉月がムキになったとは言え、あっさり言い放ったので隼人は驚きおののいた。
マリアが二人の間で、オロオロしていた。
葉月が、キッとマリアの方に向いたので、彼女もビクッとおののく。
「……その代わり、午前中ね。リリィとの約束は絶対に守りたいの」
隼人に向けていた険しい視線は、マリアにはスッと涼しげに変わった。
「え、ええ……。朝早く出れば……なんとかね?」
マリアは戸惑いながら微笑んでいた。
「それから、明日は無理よ。やるなら平日が良いわ。
私が両親に伝えておくから。招待客も今日の明日じゃ招待されても困ると思うし」
葉月が急に冷静になり、細かく計画について述べるので
マリアが益々戸惑っていたのだが……。
「解ったわ。主催は私なの」
マリアはニコリと微笑んで、葉月に一枚の紙を渡した。
「今から空母艦なの。夕方には帰ってくるから、葉月がどうしても招待したい人だけ
ここにリストアップしてくれる? 招待状を作るのも配るのも全部、私がするからね?」
そうすれば……元々はその気がない葉月も、いつもの妙な頑なな『へそまげ』で
『放棄』もしないとマリアは解っているかのように手際が良くなっている。
「……解ったわ」
葉月はその紙を受け取った途端に、急に大人しくなる。
しかもその紙を見下ろして……気だるそうだった。
(まーったく。ムキになるから引っ込み付かなくなったんだよ)
隼人はそんな葉月をしらけた目で見下ろして、
『知らないぞ。俺──』とため息をついた。
「あ! 中佐! 早く行かないと連絡船が出てしまうわ!」
「わっ! 本当だ!」
マリアと隼人はお互いに腕時計を見て、先程まで忙しく動かしていた手を
再び動かし、再度出かける支度をする。
「はぁ」
葉月が白い紙をみて溜息をついていたのが、隼人は気になったが
今から仕事だし……それに、葉月とマリアに任せたのだから
様子を見る事として、声をかけずにマリアと出かけた。
「なぁんか、承知しちゃったみたいじゃん?」
本部の入り口で様子を見ていた達也と鉢合う。
「とりあえずみたいだけどな」
「ま。こうご期待って所かな? 隊長との約束……なんて言おうかなぁ?」
達也が腕組み唸って……帰りづらそうだった。
「リリィとの約束は絶対守りたいから、買い物は朝出発の午前中だって言い張っていたぜ?」
すると、達也も葉月が言いだした提案には期待があったのかニンマリと微笑んだ。
「良かった。リリィだけは泣かせたくないからな。そう言っておく」
「本当にすっかりリリィの兄貴だなぁ?」
隼人がそういうと、達也はちょっと照れたように笑っただけ。
本当にリリィの事を『妹』と思っているようだ。
20歳近く歳も離れているというのに──。
いや? 意外と娘か姪っ子みたいな気分なのかもしれない?
達也は、まだ白い紙を眺めている葉月をちらりとだけ確認して
メンテ本部から去っていった。
『中佐! 早くー!』
先に走りだしていたマリアにせかされて、隼人も走り出す。
「なんだか納得いきませんわ」
波を弾きながら沖合に向かう連絡船。
その船室で、マリアがバインダーを抱えながら不服そうに
外の景色を眺めて呟いた。
「なに? 葉月の事かな? 承知したから良いじゃないか」
隼人はふてくされて言い返す。
するとマリアがそんな面倒くさそうな隼人をじろっと睨んだのだ。
「だいたいにして、中佐があんなハッパのかけ方するからですよ?」
「……」
解っている。
隼人だって、あんな風に突きつけるつもりもなかったのだ。
「私が承知させるって約束だったのに。
結局、中佐が変な事で葉月を煽るから、あんな形で葉月が承知してしまって」
そう……マリアもさることながら……隼人も……
マリアが女性らしく優雅に葉月を誘って、葉月が可愛らしく了承する。
そんな『姉妹風』の光景をお互いに頭に描いていたに違いない。
いわゆる隼人が言うところの女性同士の『百合の園』
マリアが言いたいのは『ロマンスのカケラもない始まりになってしまった』と言いたいのだろう。
「もうちょっと、嘘でも良いから『俺がきっと似合うドレスを選んであげるよ』って
言えなかったのですか?」
マリアの責めに、隼人は『うぇ』と舌を出した。
「あいつがそんな言葉でほだされるタマか?」
隼人の態度にマリアは呆れかえっていた。
「もう……。ランチの時間に言ったこと、取り消します」
「……溺愛云々って事?」
「溺愛は変わりないと思いますが? 大切にしすぎって点です。
皆、妹の様に猫可愛がりしているかと思っていましたが違うみたい?
結局、ああやって『兄弟』のように葉月の事を『こいつは女らしくない』と
日常でからかってみたり、そういう扱いをしているって解りましたから!」
マリアはツンと言い放ってそっぽを向けた。
隼人は、『手強い姉さんが出来てしまった』とヤレヤレと溜息。
「それに、女心を全然解っていませんわね。ちょっとガッカリしましたわ」
「俺のこと? 俺ってそんなもんだけど」
隼人も淡泊に濁しつつ、マリアに抵抗する。
「中佐はとっても大人の男性だと思っていましたけど?
『肝心な所』でなんであんなに意地悪にひねくれるのですか?」
アメリカに来てまで『天の邪鬼的表現』を使われて、隼人は眉間にシワを寄せる。
「葉月の……テレだって解らなかったのですか?」
「テレ?」
「そうですよ……。『選べるの〜?』なんて、葉月の意地っ張りだって解らなかったのですか?」
「……あれ、そうだったのかなぁ〜?」
「そうですわよ。きっと二人だけだったなら……
中佐は甘いことを言って、葉月もはにかみながらのシーンだったかもしれませんわね!
たとえ、職場でも、もうちょっと中佐が葉月を上手くリードしてくれると……
そう思っていたのに……!」
マリアは『幻滅』とばかりに、始終プリプリと怒っていた。
(俺はそんなんじゃないって)
隼人も溜息をついた。
だが──
(確かに……テレだったかもしれないなぁ?)
その点は『迂闊だった』とちょっとばかし反省をした。
隼人の一番痛い所。
『兄様には適わない新参者』と言われたようで
葉月は兄貴達と隼人をあからさまに比べたわけではないのに……。
隼人はちょっとこの頃こういう事に『敏感』なのだ。
あの謎の男も『兄様』らしいから──余計に。
それで、つい……あんな挑発的になってしまったのだが?
「さて……いよいよ最後の見学になりましたわね」
空母艦に到着して、甲板に上がるまでのエレベーターに乗り込むと
マリアは先程の事はどこへやら……。
いつもの輝く笑顔で仕事の顔になったので隼人もほっと頬をほころばせる。
『あいつ……今頃、白い紙を見て溜息吐いているんだろうなー』
隼人は遠く陸にぼんやりと見える基地を眺めた。
夕方になり、最後の空母艦見学も終了した。
隼人とマリアはちょっと急ぎ足で本部へと向かっていた。
お互いに『どうなったか?』という気持ちを抱えながら──。
本部に戻ってみると──葉月はそこにはいなかった。
『逃げたかもな』
隼人は目を細めて、そう思った。
マリアはちょっと慌てながら臨時席へと向かって行く。
「あ、あるわ」
マリアの席に、葉月に渡した紙が置いてある。
マリアが手に取ったので、隼人も覗いてみた──。
『そちらに全てお任せします。お願いします』
それだけ……筆記体の英語で記されていた。
「なんなの? もう──」
マリアは益々困惑したようだった。
「俺の日々の苦労……ちょっとは解った?」
隼人がニヤリと微笑むと、マリアはフンとそっぽを向ける。
「そうきたなら、遠慮はいらないって事ね!」
マリアは紙をクシャリと握りつぶした。
「……まぁ、そういう事になるだろうね」
全然退かないマリアに隼人はたじろいだが……葉月の言葉は
まさに『そっちにお任せ』なのだから『遠慮はいらない』とも取れる。
もしかすると?
マリアが諦めるか『手加減してくれる』と甘えているかもしれないが?
(この姉さんは……手強いぞ? 葉月)
隼人は見守る方針だから、マリアが勢いづいても、もう止めようとも思わなかった。
「こっちでリストアップしちゃうから!」
マリアはそういうと仕事そっちのけで招待客リストと称した
葉月の書き置きに向かい始めてしまった。
「仕事……忘れないでね?」
隼人は苦笑いをこぼしつつ……そのまま放っておいた。
『ジャッジ中佐に……アンディ達……』
マリアのつぶやきを耳にして、隼人も訓練後のファイルバインダーを開く。
「中佐? 秘書室の皆さんと葉月ってどれぐらい親しいか解ります?」
「さぁ? ジャッジ中佐ぐらいしか印象ないけど?」
「じゃぁ、ジャッジ中佐以外は保留。フォスター隊長の所はどうでしょう?」
隼人はちょっと不安になってきた。
『内輪以外』にもマリアが念頭に置いているからだ。
「隊長のご家族なら平気だと思うけど? ドレスとなると他のメンバーはどうだろうね?」
「これは達也に聞くことにして……」
マリアはサラサラとリストアップして行く。
「ドナルドとかはダメでしょうか?」
「……どうかなー」
葉月がヴァイオリンを弾くと言えば、ドナルドは喜んで来るかもしれない。
そう思うと……隼人は昔の葉月とドナルドの話を思い出し……
『そうなれば、いいなー』とふと思った。
マリアもこんな気持ちなのかもしれないと、ちょっと共感が湧いてしまった。
マリアがブツブツとリストアップしているのを、隼人はもう相手にするのはやめることにする。
こっちも考えれば、考えるほど、色々な事が浮かんできてしまうからだ。
そんな中──。
「サワムラ君? 可愛いお客さんが来ているよー」
ドナルドが隼人を席まで呼びに来た。
「え?」
隼人が本部の入り口に目を向けると……
金髪の小柄な女の子が立っていたのだ。
(トリシア──!)
隼人がサッと席を立つと、マリアも気になったのか席から振り返った。
「あら? トリッシュじゃない?」
本部員の許可をもらって、トリシアが作業服姿のまま入室してきた。
「お疲れ様です。サワムラ中佐」
トリシアが隼人の前まで来て丁寧に敬礼をした。
「お疲れ様──」
トリシアの緊張した顔に……隼人の鼓動が早くなる。
『返事をしに来た!』
そう思ったから──。
「決めてくれたのかい?」
隼人がそっと微笑みかけると、トリシアが俯く。
マリアも席に座ったまま、緊張した面もちで見守っていた。
「あの……今日、お話を頂いたばかりで申し訳ないのですけど……」
「う、うん……」
トリシアのちょっと気後れした微笑みに隼人はとても緊張した。
「あの後……全然、頭の中……他のことが考えられなくて……」
「そ、それで?」
暫く、俯いたトリシアとそれを見下ろす隼人との間に沈黙が漂った。
そして──
「キャプテンに、そんなに頭がいっぱいになるほどなら日本に行ってしまえって……
怒られてこちらにお返事に来ました」
トリシアがニッコリと微笑んだ。
でも、隼人はハッキリとしたトリシア自身の気持ちを彼女の言葉で聞きたい。
「つまり……それって?」
「ですから──。自信がないから、ご迷惑はかけたくないと最初は思っていたのですけど。
どうやら……気持ちは行きたくて、行きたくて仕様がなかったみたいです、私……」
トリシアの頬がそっと染まって、輝く笑顔を隼人に向けてきた。
「中佐、未熟者ですが宜しくお願いいたします!」
はつらつと、トリシアが元気いっぱいに隼人に敬礼をした。
「あ、有り難う! トリシア!」
「トリッシュ! 決めたのね!」
隼人とマリアは顔を見合わせて、笑顔をこぼした。
「頑張ろうね。トリシア!」
「はい! 中佐!」
隼人が右手を差し出すと、トリシアがはにかみながらそれを握り返してくれた。
週が明けてから、トリシアのキャプテンと正式交渉に行く話をして
その日はトリシアはメンテ本部を出ていった。
トリシアは……
「ミゾノ大佐……いらっしゃらないんですね? ご挨拶したかったわ」
葉月がいないのを残念そうにして去っていった。
「中佐! おめでとうございます! 二名、がっちり決まりましたわね!」
マリアの激励に隼人は『サンキュー』と笑顔を返す。
隼人は早速、小笠原で結果を待っているロベルトに報告のメールを出す。
ロベルトは……最初は女性メンテ員の引き抜きを始めた隼人に戸惑っていた様だが……
『すごいアシスタントをつけちゃったみたいだね?
ハヅキが選んだアシスタントのお薦めなら、間違いないね。
それに……僕は一般的なリスクを心配しただけで、サワムラ君ならやれると信じているよ。
君のお手並み、同キャプテンとして拝見だ』
そんな返事が返ってきた。
本当に彼は良きライバルであって、先輩であって……
隼人は心強くもそして……キャプテンとしての闘志も湧いてきている。
ここフロリダで徐々に──。
もうすぐ……俺はキャプテンになる。
ジャンやロベルトと同じラインにやっと立てる。
一年前に怖じ気づいていた自分なんて何処にももういない。
皆と一緒に走るこの爽快感はもう手放せないところに来てしまったと──。
定時近くなって葉月が再びやって来た。
「お疲れ様。終わりそう?」
あれだけ隼人とマリアをヤキモキさせたのに、なんともサラッとした顔で現れたのだ。
当然、隼人とマリアは予想外で言葉が咄嗟に出てこなかった。
「ああ、そうだ──。トリシア=マクガイヤーが転属OKの返事をくれたよ」
まず、隼人はそれから報告。
「本当!? 良かったわね! おめでとう──中佐!!」
葉月も心よりの祝福の笑顔をこぼしてくれて、隼人もホッとした。
「……逃げたかと思ったぜ?」
隼人は小声でそういって、マリアの方をチラリと見た。
葉月も隼人が何をほのめかしているのか解ったのか、ちょっと視線を逸らされた。
逸らされたのだが、葉月がちょっとふてくされたように呟いた。
「……逃げないわよ。逃げたら、今までと一緒じゃない?
私……言ったでしょう? 『やり直す』って……まず、手始めにね。『食わず嫌い克服』って所?」
そんな風に素直に変化した自分が気恥ずかしいのか?
葉月はとぼけようにして、ちょっと生意気な顔でツンと鼻を上に向いていた。
「……葉月」
隼人は……やっぱり、葉月を信じてマリアを止めなかった事が正解だったと思った。
マリアが言うとおり……今まで、先回りして葉月を守りすぎていたかも知れないと。
勿論、今までの葉月なら、守ろうが後押しをしようが……
こんな事は言える状態じゃなかっただろうが……。
『あなたの為にやり直すの』
あの言葉が……真実だと本当に思えてきて
隼人は今にも葉月を抱きしめたい衝動に駆られた。
ここは職場だから……必死にそれを押さえるのに精一杯な程──。
「マリアさん……お任せしてごめんね?」
「え? ううん! 私が言いだしたんだもの!」
「私が選ぶとちょっとしか思い浮かばないの……。
マイクとアンディ達ぐらいしか……ごめんなさい」
「いいのよ……。きっとそんな事だろうと思って……準備もかって出たんだから」
葉月のすんなりとした顔に、マリアも先程の『困惑』も何処かへ消えてしまったようだ。
「さっきね。秘書室に帰ったらパパがいたから、報告したの。
パパも大喜びで……『マリアが主催ならリチャードとマドレーヌも呼びたい』って言っていたわ」
葉月がにこやかにマリアに伝える。
「本当に!? 勿論! 私のパパとママも喜んでくるわ!」
マリアも思った以上の手応えに嬉しさが隠しきれないようで、ついに立ち上がった。
「みて? 葉月! これだけどうかしら?」
マリアが自信が持てたのか、葉月にリストを見せる。
隼人も、もう……大丈夫だろうと思い、そっと微笑んでノートパソコンに向かった。
「うん、秘書室は主席側近のマイクに任せれば、判断してくれると思うわ」
「解ったわ。ジャッジ中佐に聞いてみるわね」
「フォスター一家も? リリィが喜ぶわ。メンバーも隊長と達也に任せるから」
「解ったわ♪ 他にいる?」
「……」
葉月がちょっと戸惑いながら隼人を見て……そして、ドナルドを見つめた。
「……うちに来てくれるかしら?」
そこに……葉月がドナルドのために『弾きたい』という気持ちを持っていることを
隼人は悟って驚いた。
将軍宅に、ドナルドが抵抗なく来てくれるかという心配も──解った。
「俺が……誘うよ?」
そういうと葉月がニッコリと微笑んだ。
「出来たら……エディも呼びたいの。せっかくだからトリシアもどうかしら?」
マリアが思いもしなかったメンバーまで出てきて
隼人とマリアは一緒に面食らった。
どうやら葉月はエディに関してはかなり警戒がないようだった。
それもそうだろう?
エディは最初から葉月の事を『大佐殿』なんて思っている様子でもなく
だからといって『整備一本』の男で女と男云々は念頭になさそうで
しかも……『空の私、甲板の俺』という関係が既に確立しているようだったから。
「いいじゃないか? トリシアは先輩のマリアが誘って……
エディはお前が誘ったらどうだ? 丁度いい、今後の為の親睦も深められるし」
「うん──そうする」
葉月の素直な調子に、マリアの顔は嬉々とした笑顔が耐えられない様子。
「ねぇ! メイクと髪結いは私がしてあげるわよ?」
「え?」
葉月がちょっと驚いた顔をマリアに向けた。
「……あ、ごめんなさい。また調子に乗って……」
マリアは喜びのあまりついそういったようで、我に返ったのかスッと退いてしまった。
でも──
「嬉しいわ……。姉様にお任せ」
葉月が輝く笑顔をこぼした。
「葉月……」
マリアの琥珀色の大きな瞳が潤む。
マリアは感極まったのか、そのまま葉月に寄ってそっと抱きしめていた。
「マリアさん……?」
「……やっと、解ってくれたの……ね?」
隼人はやっと『百合の園』を見届けられたような気がする。
隼人はそっと窓辺に振り返った……。
空母艦が夕暮れの中、白く見える──。
皐月姉さん……見てくれているかな?
そんな風にそっと微笑んでいた。