51.パパ葛藤

 すっかり明るくなった宿舎の廊下を隼人は一直線! 全速力!!

『はぁ……はぁ──なんでなんだ! どうして葉月はあんな目にばかりあうんだ!』

隼人は、そうして走りながら一生懸命に考えていた。

一つは──

あまりにも正義感が強すぎる事。

そして──

隊長という立場……。

正義感については、姉の事件がそうさせていると解る。

幼い自分が何もできないまま姉に守ってもらったという……

あの時、姉を助けられなかった自分をこうして恩を返すように走らせているように……

隼人はそう……葉月と一緒に走り始めて感じていたのだ。

だが、隊長という立場……は?

『隊長なら……男達に任せてジッとしていればいいのに!!』

しかし──

今回は葉月の単独潜入で『軍側』の動きの流れが良い方向に向かったのは否めない。

それに──

葉月が来てくれなかったら……隼人は絶対に死んでいた。

『はぁ──はぁ……』

──帰ったら……こんな任務が来てもお前が腰を据えられるような部隊を作る!!──

そんな新たなる『目標』が隼人に芽生えた!

──それから……もっと……自分を大切にするよう教える!──

まだまだ……!

──もう……女としてこんな苦渋は二度と味あわせない!──

『俺が──そうなるように固める!!』

隼人の瞳に何故か……涙が浮かんできていた。

こんな事になるのなら……天の邪鬼な事などせずに、

彼女をもっと甘く愛してやれば良かった。

もっと──彼女の事……心の奥まで開いてみせたかった。

まだ知らない……彼女が躊躇っている沢山の『秘密』

受け入れてあげるようにもっと彼女の側にいられるように……。

『確かに俺は──仕事で一緒の葉月も好きだ!』

それが今までは第一だった。

だけれども──

それもこれからも崩して行くつもりはなかったが……

こんなに女の身体を盾にして、無茶ばかりしている彼女は哀しすぎる!

こんな事……繰り返してきたのかと……

自分で自分を傷つけて……周りの犠牲にばかりなって……

結局最後に葉月はやっぱり一人で傷ついて……

それで──『氷の令嬢』にすまして収まる。

せっかく好きになった男にも心も開かず、自ら閉じこもって……

身を引いて……一人になってその繰り返し……。

今回もきっと!!

『こんな汚れた私なんてもう──相手にしないで!』

そうして……ここの所やっと開いてくれた心を閉ざして

葉月は隼人の為に身を引くような気がしてならない……。

そして──隼人が最近、強く思っていること!!

『それで? 付き合っている男から離れて……

お前が心に宿している訳の解らない『男』の所に戻って……

その男は……お前をウンと慰めてくれるって寸法なんだな!?』

だんだん見えてきた!

『その男! 何処の誰だ!? 絶対に今度は渡さない!』

そんな男に奪われてしまうくらいなら……

葉月がその男の所に行ってしまうぐらいなら……

少々の男としての屈辱……他の男に触られまくった事など水に流してみせる!

悔しさの矛先を被害者である葉月に向けたところで……

葉月を手放したところで……

結局、葉月がいなくなることが一番隼人にとっては大打撃!

『俺が見つけた野ウサギなんだ……やっと俺になついてくれた野ウサギなのに……』

──訳の解らない影だけ漂わす男に、連れて行かれるモノか!!──

隼人は歯を食いしばって、一生懸命に走った!

 時間は……朝の8時が来ようとしていた。

隼人は全速力で走り抜けて……発電所の扉に再度到着!!

「ハヤト!? こんどは、なんだい??」

何度も戻ってくる隼人を目にして、またブリュエ管制長が驚き振り向いた……。

だが──隼人は、管制長には何も告げずに……彼の背に飛びついた!

「貸して下さい!!」

「あ! 何のつもりだ?? ハヤト!!」

ブリュエが頭に付けているインカムを隼人は取り上げた。

周りにいた管制員も待機しているトッドとミラーも……驚いた顔を……。

「空母管制! 空母管制!!」

ヘッドホンを奪うなり……ブリュエを押しのけて交信を始めた隼人を

みな──『唖然』と眺めている。

『こちら母艦管制……』

「こちら──岬管制、サワムラ! 至急、御園中将に取り次いで欲しい!」

『そちらで何か? こちらから総監に報告する』

(くそ! 俺の用件の取り次ぎなんて仕事外だ……直接オヤジさんに知らせたいのに!)

「只今、犯人狙撃の準備中──そちらに報告行っているのでしょう??」

『二陣隊長から経過は報告を受けている』

「人質は──誰かも!?」

すると──やっぱり既に報告済みなのか……空母艦側の管制員が躊躇った沈黙を……

「お願いです──御園中佐の為に……父親である中将に取り次いで下さい!!」

『了解──暫く待機せよ』

(なんだよ──娘が捕らわれていて……心配じゃないのか??)

隼人は達也が言うとおり……これじゃ、葉月が可哀想すぎると改めて思った。

勿論──職務上……この場合は『父娘の関係』は取り沙汰してはいけない。

そう思ったから、隼人は職務人らしく、葉月に同調して父親には直接報告しなかった。

だけれども──達也に目を覚まされた……!

きっと彼は……ずっと見てきたのだろう……。

葉月と父親の亮介が……軍人であるが為にこのように『距離を作って父子らしくなれない』事を……

隼人だって気が付いていた。

なのに……葉月は自分のことを棚に上げて、

隼人と横浜の父親である『和之』との距離を縮めさせてくれた。

(自分がそうだから……俺にそうしてくれたのか?? 葉月?)

そう思うと……なんて……不器用な娘なんだろうと思う……。

誰だって自分のことに必死なはずなのに……人のことばかり手を焼いて……

自分のことはまったく『放置状態』

達也はそこを今の恋人である『隼人の役目』と推してくれたのだ。

そんな事を推してくれた彼も……『不器用』

本当は自分が昔なじみで……元・恋人である葉月に一番に、そうしてあげたかったはず……。

『側近でなく……葉月の男として何をしたい?』

その問いの返事は……

今すぐ頭にあるのは『彼女を助けたい』

その後、頭に浮かぶのは『いつも笑って……幸せでいて欲しい』

きっとその想いは……隼人も達也も一緒なのだろう……。

だけれども、今『男として手を下す』のは達也じゃなくて『隼人』

そのちょっとした後押しと『ヒント』を達也がくれた……。

 

──『今……葉月を襲っているこの状況は……きっと17年前と一緒なんだ!』──

 

それを……達也はすぐに察した。

だから……『亮介をすぐに呼べ』と隼人に提案した。

提案されて隼人もすぐに悟った。

『いつまで経っても女が一番頼っているのは……パパ』

葉月の口からは一度も聞いていないが……

きっと、17年前……姉の皐月と悪状況に置かれていたとき……

2人の姉妹は『パパ』の助けを待っていたに違いない……。

だけれども……現実的にアメリカにいた『パパ』は来なかった。

幼児だった葉月は姉の皐月以上に『絶望』したに違いない。

『パパは来てくれなかった!!』

その『絶望』は、今の状況でも葉月は解っているのだ。

『父様は将軍で総監だから……簡単には娘として扱ってくれない』

だから、『後で私から父に連絡する』……犯人にはそう言っていたが

いざ、その時になっても……

今、自分自身を犠牲にしたように、葉月はまた……じゃじゃ馬以上の『捨て身』をする!

隼人の脳裏のそんな『予感』を達也が刺激した。

今の隼人には……達也のように勇ましい確実な『射撃の腕』もない……。

一人飛び込んで部屋に突入する気持ちはあっても『確実性』をもたらす能力もない。

だけれども……

『オヤジさんが動けば……なんとかなるかも!?』

そんな気持ちがある。

その将軍としての『重い腰』を『一隊員』が無謀にも直訴して動かす。

これは……葉月の側近……そして『男』として隼人しか出来ないのだ!

通常なら……『一隊員の無礼、非常識』として取られる所は……

そこは葉月の男として、側近として隼人の『説得どころ、腕の見せ所』であるのだ。

隼人はヘッドホンを耳に推しあてたまま、なかなか空母艦から返事が返ってこない時間を

長く感じては……どう言って説得しようかと、落ち着きなく待っていた。

亮介が達也の狙撃が始まる前に来るのは今となっては時間的に無理。

でも、達也の狙撃が『失敗』した後……今度こそ亮介が必要だ。

『成功』しても……

葉月はきっと……あの山本に襲われたように

無理して自分自身を『犠牲』にした反動で『精神的ダメージ』を負うに違いない。

その後のケアは、勿論隼人も全力を尽くすつもりだが……

『そうじゃ……ないんだ! もっと根本的な事なんだよ!

17年前の葉月が一番して欲しかった事は……』

──『パパ! 助けに来てよ!!』──

これだ……これの『傷』をすこし埋めてやることなのだ!

そうでもしないと……それが埋まらないから……

『私──止まると息が詰まりそうなの……』

あの夕暮れ──『緑の葉っぱ』をつまんで微笑みながらそう言った彼女……。

誰も助けてくれないから……いや、葉月一人がそう思いこんでいるから……

誰も頼らずに、甘えずに……だから、自分一人で何とかしようと『無茶』をする。

そんな事……

『もう──やめさせるんだ……! これで最後にするんだ!!』

隼人は急に強くそう思い始めていた──。

今──隼人がこうしてインカムを頭に付けて……彼女の父親を待っているこの間でも……

『はぁ……あ──』

彼女の……意志に逆らった『吐息』が耳にまとわりついた!

(くそ──俺の……俺にやっとなつきはじめた『野ウサギ』なのに──!!)

拳を握って、唇を噛みしめる。

葉月がそう、覚悟していたように……隼人も『覚悟』をしていた。

葉月は今──隼人の知らない男の手の中……何かを絶対されている。

その──徐々に込み上げてくる『口惜しさ』そして『怒り』……。

 

『またせた。 アルマンだ』

隼人の耳にやっと届いたその声は……期待はずれの人物の声……。

隼人の瞳は、炎が宿ったように燃えさかって輝いた。

そこにいたブリュエも……トッドもミラーも……一瞬息を止めたほど……。

隼人の握られた拳が震えていたのだ!

『ガン!!』

隼人が自分がやっとセッティングした通信機材の電光パネルを叩いた!!

「ハヤト! 落ち着くんだ……とりあえず言いたいことはアルマン大佐に言ってみては??」

「そうだよ。サワムラ君……そこから将軍の耳に入れてもらうんだ」

ブリュエとトッドも解っている。

隼人が『非常識』を心得ていてでもやろうとしていることは……

『側近』として、それ以上『葉月の男』として……彼女の為に父親を呼ぼうとしている事も……

だが、2人の先輩は……そう、解っていても隼人の背に寄ってきて戸惑っている。

「…………」

暫く……隼人が唇を噛みしめたまま……黙り込んでいた。

その沈黙を……側にいる管制員と先輩達が見守っていた……。

だが……

「大佐──……中将に……いや……『オヤジさん』に……伝えて下さい」

隼人が静かにそう呟く

『なにをだね?』

「彼女を追い込んだのは……『オヤジでも何でもない……人の親じゃない、鬼の将軍』だってね!

もう!! 構いません!! 彼女がどうなっても僕たちで何とかします!!」

『ハヤト!?』

顔見知りでもあったアルマンが隼人を昔通り『名前』で呼び止めたが……

『ガシャン!!』

隼人は、インカムを頭から外して乱暴に電光板に叩き付けた!!

「ハヤト──!」

ブリュエが慌てて、インカムを手にとって頭に付け直した!

「大佐……お願いです……ミゾノ中将に伝えて下さい!

お嬢様は今……あの卑劣な男達に何をされているか解らない状況で……

皆……彼女が『犠牲』になったから……他の隊員が助かったのでは??

犯人は『甘くない』事……私はこの数日間、目の前で見てきました……。

知っているでしょう!? 奴らのせいで私は……私は……

『フジナミを撃ち落とす』行為をさせられたんですよ!??

彼女は十二分に……中佐としても中隊長としても……もう、身体を張っている!

これ以上は……これ以上は……今度こそ……私達、男の手で救わないといけないのでは!?」

ブリュエが隼人の代わりに『取り次ぎ』に必死になってくれたその姿……。

隼人はそれを見て……改めて我に返った!

「ここで投げ出して……自分の役目をすぐに諦めるのかい?」

トッドが息を切らしながら興奮していた隼人の肩を……なだめるようにさすってくる……。

(そうだった──! せっかく海野中佐に任されたのに!!)

これを成し遂げなかったら……

隼人は狙撃の責任を背負っている達也と違って……『ただの男』になってしまう!

『お願いです!!』

ブリュエがなんとか取り繋ごうとしていると……

 

『細川だ……私が聞こう』

ブリュエの耳に静かでドッシリとした声が届いく。

「ハヤト! オガサワラの中将だよ!?」

ブリュエがヘッドホンを外して、隼人に差し出した。

(細川中将──)

それなら……少しばかり、亮介の存在に近づけて気がして……

隼人は、またブリュエの手からヘッドホンを受け取って頭に付けた。

「細川中将! オヤジさんに伝えて下さい! 彼女の元に来て欲しいと!!」

『…………何故だ? 総監は今、包囲隊、狙撃隊、救援隊、救助隊、空域警備編成隊……

すべての動向に目を光らせていてそれどころではない』

いつもは怒鳴ってばかりの鬼将軍の静かなお達しでも……

(娘の危機が迫っていても、それ以外で……それどころじゃないだと〜!?)

隼人はやっぱり……頭に血が上る!

「じゃぁ! 『細川のおじ様』だから、遠慮なく申しあげますよ!!」

頭に血が上っているから、細川に怒鳴られる畏怖など、もう何処かにすっ飛んでいる。

隼人のそんなムキのなりように……隼人が勢い良く叫ぼうとしたその時……

『落ち着け……澤村。私的な事をいうなら『日本語』でいわんか?』

その……静かな『諭し』に隼人はまたハッと急に我に返った。

振り向くと……そう、ここには日本語が全く分からないフランス人か……

小笠原で片言の日本語しか喋ることの出来ない先輩達だけ……。

そして──空母管制室も……ほとんどが『フランス人』だ。

「興奮していて……申し訳ありませんでした……。手短に申しあげます……」

隼人がいつもの平淡な顔に戻ったので……

周りにいたブリュエとトッドもホッとしたようだった。

 

そして──こちらは、空母管制室。

「総監に聞こえるように、外に音を出せ」

ヘッドホンをしている細川は、側にいた管制員にそう告げる。

『ラジャー将軍』

ヘッドホンをしなくては聞こえない音が……管制室内のスピーカーから

部屋全体に聞こえ始める。

『去年──細川中将も覚えていらっしゃるかと思いますが……』

日本語で語る隼人の声が管制室に響いた。

細川はヘッドホンをしてそっと振り返る……何故なら……

後ろの海面図を広げている作戦デスクの上座には……

『亮介』が……隼人の取り次ぎ要望を『拒否』し続けるままそこに君臨していたのだ。

亮介は……いつにない硬い表情で、彼の顔からはいつもの陽気な雰囲気も消えていた。

細川は解っていた。

本当は心の底では……また、娘がどうしようもない『悲劇』に巻き込まれているのに

『将軍』、『総監』、『父親』の狭間で揺れ続けていることを。

『亮介……いいのか? 澤村が呼んでいるぞ?』

先程……そう声をかけたのだが。

『私は、総監だ。勝手に飛び込んだ女中佐の顛末など、知ったこっちゃない』

先程……『もう娘と思わない。御園を背負った息子が飛び出していったことにする』

そう──彼は『覚悟』を決めていたから……

気持ちは揺れても、総監としての立場を破ろうとはしないのだ。

でも──

扇子を広げて、いつもは見せない妙に緊張感を漂わせたその男の顔。

『中将……レイがどうなってもいいのですか?』

側近のマイクもいつもはからかってばかりの上官が

滅多に見せない神妙顔で黙り込んでいるから、少しばかり遠慮がちに進言していたが……

無言で扇子で頬を煽るだけ……。

マイクの後ろには、ただ見守る事しかできない

心配顔の『山中』と『デイブ』が、立ちつくして様子を伺っているところ……。

だから──細川はその親友を眺めながらも……隼人が上手く説得しようとする言葉を

亮介に自然に届けようとしたのだ。

 

『去年──葉月がロッカールームで襲われたとき……』

妙な話が急に始まって……細川も『ドッキリ!』

「こら! 澤村……何を言い出すんだ! その話は──!!」

そう……葉月の要望通り……小笠原内で収めたので

本当にフロリダにいる父親の亮介には細川は報告しなかったのだ。

「葉月が……襲われた?」

細川はその訝しそうな親友の声に……ヒヤッとして振り返る。

亮介が扇子を『パチ!』と……閉じて……細川を見据えたのだ。

だが……空母管制室の様子など知るはずもない隼人は続ける。

『彼女が……僕が助けに入るなり……僕に抱きつくなり……言った言葉なのですが……』

「良和……なんの事だ? ロイからもジョイからも……聞かされていない。

葉月に何かあった場合はすぐに知らせる約束なのに?」

亮介が……硬い表情のまま……『ゆらり』と立ち上がる。

陽気な彼がマイペースに大胆な発言をするときも恐ろしいのだが……

本当の『恐ろしさ』は陽気な彼が『本気で怒った時』……。

久振りに見る親友の『本気』に流石の細川も表情が硬直した。

『その時……彼女が僕に言い続けた言葉……誰にも言っていないのですが……』

細川と亮介が視線を絡ませているその間も、隼人の語りは管制室に響いた。

「良和? 彼が話しているのは何のことだ??」

「す……済まない……。実は……澤村の言うとおり……

ちょっとした事で男が入らないはずの女子ロッカールームで葉月が襲われて……」

「それで!? そんな事になったら葉月がどうなるか解っているだろ!?」

亮介は上座の席から、勢い良く細川の元に走り寄ってきた!

『──パパ──と……』

隼人の声が、細川の襟首を掴もうとした亮介の耳に届いた。

『彼女は……僕の名前じゃなくて──パパ──と……

ずっと怯えた声で……そう呼んでいたんですよ!』

「──!?」

隼人のその声に……細川に突っかかろうとした亮介の手の動きが止まった。

「……葉月が?」

「……嬢が……あの時……そんな事を?」

2人の将軍は顔を見合わせて、お互いに息を止めた。

『彼女! あの時すごく幼児返りしたみたいに……

今度だって絶対に同じようになりますよ!!

その時オヤジさんが側にいるのといないとのでは全然違うと僕は思うんですよ!

僕じゃなくて……お父さんなんですよ! 彼女が今だって本当に来て欲しいのは!

それに犯人は彼女が『任務指揮総監の娘』と解って……

『父親に連絡を取れ』と彼女と交換する条件でそう提示してきています。

彼女……それを飲み込んだけど、すぐにはお父さんには知らせないで

後から自分から連絡すると犯人に約束したけれども……

彼女、絶対にお父さんに迷惑がかかると思って頼らないと思うのですよ!』

「なに!? 犯人はそんな条件も出してきたのか??」

細川も驚いて、隼人に返事を返した。

その横で……亮介も驚いて……

「良和! 貸せ!!」

やっとその気になったのか、細川の頭から無理矢理インカムを取り上げた。

「隼人君! その話は本当か??」

『……お父さん……』

やっと父親が返事をしたので隼人のホッとした柔らかな声が亮介の耳に……。

『お父さん! お願いです! 時間的に無理があるので彼女の元にいる犯人を

将軍にやっつけてくれなんて言いません!

それは狙撃班にいるフォスター隊に任せます!

でも──海野中佐は彼女と犯人が接近しすぎているからいざというときは

彼女ごと、犯人を狙撃するといっていますよ! 彼女……負傷する危機にもあるんですよ??

すぐに治療が出来る設備を動かして……お父さんが彼女を迎えに来てくださいよ!!』

「……」

亮介が戸惑っている……。

細川も解っている……。本当はすぐに飛び出したいのだが……

総責任者として、『中核』である作戦場……この空母艦をすぐ飛び出す総監など聞いたことがない。

亮介が不在になって指揮に差し支えが出たのなら……それも由々しき問題になる。

だから──

「亮介、私が行こう」

「え!? 良和が??」

細川はいつもの無表情で落ち着いて親友の驚き顔を眺める。

「その犯人とやらに葉月の父親だと思わせれば良いのだろう?」

細川はこれは『総監』の為に進言したことでもあるが……

その裏、実は……冷ややかに父親である彼への『カマかけ』でもあったのだ。

その『カマかけ』に擁護する男が一人……

「では? 私はその父親将軍の側近らしく細川中将に付き添って……

レイの元に行かせていただきますよ?」

マイクがこれまた、細川のように『シラッ』と上官に告げた。

そして……もう一人。

「私は今回は御園中佐の『側近代理』。彼女を迎えに行かせてください!」

マイクの後ろに控えめにしていた山中まで……前に出てきた。

──さぁ? どう出る? 御園亮介──

細川は、親友の戸惑っている顔を、焦れったく見守った──。