50.悪魔の儀式

 「さぁ──あの男がどれだけ早く手配するか、お楽しみの時間だなぁ!」

『ガシャン──!!』

階段すぐ側の二階のオフィスに葉月は連れ込まれ、奥のデスクに身体を投げられた。

「孫、ゲイリー……入り口にデスクでバリゲートを念のために作ってくれ」

『オーライ……』

「──……私をどうする気なの!?」

葉月が投げつけられたデスクは、科長か班長の席なのか?

他の机を従えるように一番上座にある大きめのスチールデスク。

そこに、腕は後ろに拘束されたまま押し倒されて、林に組み伏せられる。

「どうするも──お互い解りきった事じゃないか?」

美しい男なのに……葉月はその男の微笑みに寒気が走る!

その男の顔は葉月が幼い頃……脳裏に焼き付けてしまった卑しい顔。

『──絶対に……隼人さん以外には屈しないから!!』

抵抗しても無駄と解っていた。逃げられないのも解っている。

負傷した腕からも痛みが走るばかりなので、今は余計に抵抗の力が入らない!

でも──

『隼人さん……あの朝のような反応は他の男には許せない

でも──ゴメンナサイ!!』

葉月は身体を触られることを『覚悟』した……。

後は……隼人が迅速にヘリを誘導してくれるまで何処まで耐えられるかだ。

林が葉月の頬に唇を寄せながら、ナイフを葉月の反対の頬にキラリ……とあてる。

「先程……仲間の男達に辱めてやろうと思ったのに……」

林がそう言いながら、葉月のブラジャーのアンダーラインにまたナイフを沿わせた。

「何故? 切れないかと思ったが。なるほど? なかなか変わった生地で出来ているようだな?」

林が義理兄が差し込んだように、ブラジャーのアンダーラインにナイフの刃を食い込ませて

上に持ち上げたのだが……、生地はそのナイフの刃に連れて行かれて伸びるだけ……

切れることはない。

「それに──随分、体型に合わないサイズで着用しているな?」

ナイフを遠ざけた林は……今度は冷たい手で葉月の下着を掴みあげる。

「…………」

その様子を葉月は唇を噛みしめながら、見つめていた。

額に汗が滲み出てきた。

(お兄ちゃまの力でもめくれなかったけど……それは、瞬時的に防げるだけで……

こんなに従えられたら……力任せに脱がされる!!)

その葉月の予測は、避けられない事としてすぐに現実となる。

「う──!!」

冷たい彼の手が、葉月の背中が持ち上がるぐらいの強い力で

葉月の顎に素早く向かってきた!

キツイ下着を無理矢理めくりあげられて、肌にこすれた痛みで葉月は目をつむった。

目を開けると……林の瞳が爛々と輝き……

自分の白い乳房がとうとう露わになっている!

「思った通りだ? そうは大きくはないが、細いお前にはバランスが良い形だな?

ほぅ──? 左肩に随分派手な傷跡があるなぁ? まぁ……これだけの肌質なら

チャラになるぐらい気にはならないし……なるほど? お転婆の勲章と言ったところか??」

「──!! うう──!!」

その片胸を彼が力一杯に握りつぶした!

「遅いなぁ……お前の側近は……」

彼がニヤリと微笑みながら……葉月の胸の谷間にとうとう……顔を埋めてしまった!

(いや……!!)

覚悟をして解っていたことだが……知らない男、心も許せない男が

自分の身体を味わっている感触はやっぱり、おぞましい!!

葉月の身体全体に鳥肌が立った……。

だが──林はそれを見て葉月が『感じた』と取ったようで

変な洩らし笑いを口元からこぼしながら……葉月の乳房から執拗に離れない!

(お姉ちゃま……!)

こんな事になっていつも頭に浮かぶのは『姉の皐月』……。

 

『レイ! そんな男──受け入れる事ない! 辛抱するのよ!!』

知らない男が自分の胸元でいいように楽しんでいる時……

葉月が見つめている天井からそんな声が聞こえてくる。

『解っている……お姉ちゃま……でも──!! すごく嫌! 今すぐ逃げたい!!』

『レイ──身体が奪われたって……心さえ許していなければいいのよ?

本当に愛してくれる男は絶対に……見届けても許してくれるから……』

『お姉ちゃまにとって……それが純兄ちゃまだったの??』

『そうよ……』

『隼人さんは──??』

そう問いかけると……姉の声は聞こえなくなった……。

やっぱり──自分が作った幻と……

自分なりの姉がそう答えるだろうという問いかけに過ぎない……。

「さて──これだけ『優しく』すれば……先程のような事はないだろう?」

林が屈辱の表情を刻んで、額に汗を浮かべている葉月に笑いかける。

彼の手が、また、きつめのショーツに向かって行く──。

『お兄ちゃま……何処にいるの? 助けて──!!』

そう──結局……最後に葉月が必要としているのは……

やっぱりこの男なのだろうか??

 

 『ボス──構わないのですか?』

『構わない……好きなようにさせろ』

『ですが──お嬢様……あんなに嫌がっているじゃないですか? 可哀想で……』

通路の通気口から……林一味が立て籠もった部屋の天井に

黒猫ファミリーは移動……。

その通気口から、林が葉月を弄ぶのをそこでしっかり見届けていた。

いつもは、仕事に冷静なエドも……さすがにスチールデスクの上で展開している

屈辱的な葉月への林の行為に顔をしかめて……通気口鉄格子から顔を逸らした。

だが──純一は、一時もそこから目を逸らそうとはしない。

悔しそうな表情も露わにしない……。

エドも良く知っている……。

『黒猫ボス』がいかにあの義理妹を大切に見守って……

いつだって……どの男が彼女に取り憑いても……去っていっても

最後にはこのボスが、手元に戻してしまうことも……。

『ああ──……嫌!!』

大切な妹があんなに辛抱しているのに……

きっと義理兄の助けを頭に描いているだろうに……

表情も変えずにそれを見届けている『ボス』にこそ……エドは『ヒヤリ』としたほどだ。

『ボス──いいのですか?? 本当に今度こそ、お嬢様を奪われますよ!?』

エドがそっと口元の通信マイクで小声で囁くと……

また……ボスは余裕に『ニヤリ』と微笑んだのでまた『ゾ!』としたのだ。

『知っているだろう? 俺以外に何人の男がオチビを欲しがって触ってきたか……

俺はそんな事は昔から何度も見届けてきた……

林もその一人に過ぎない……触りたければ、好きなだけ触らせろ。

冥土の土産だ……最後に少しだけ女を触らせて逝かせてやる』

その言葉にもエドはまた震え上がった……。

『しかし──ボスはそれで良くても……お嬢様が傷つきますよ!?』

『──いつもその後は、数倍のケアにて……』

そこで……ボスがまた照れくさそうに黙り込んでしまった……。

『プ……』と、エドは思わず笑いそうになって一生懸命に堪えた。

『数倍のケアにて愛してやるのだ』と言いたかったのだろうが……

そこを言い切れない不器用な男であることもエドは心得ていたので……。

『そうでしたね? いつもそうでしたよね??』

エドは純一にそっと微笑んでいた……。

純一はまた元の険しい表情にて……林の行為を眺めている。

(林──お前の欲求が満たされるほど……ボスの仕返しは大きいぞ?)

エドも表情を固めて、再び通気口下の『性的格闘』の現場を見届ける。

表情は崩さないボスではあるが……そうして冷静に見届けているほど……

心の中で静かに炎をくすぶらせ始めているのがエドにも通じてきた……!

 

「どうした!? まだ物足りないのか!?」

「誰がアンタなんかに……簡単に許すと思っているの!??」

葉月のショーツの中に既に林の冷たい手が潜り込んで……

良いように撫で回されていたのだが……

葉月もホッとするのだが……やっぱりこんなおぞましい男の『愛撫』など

『不感症』の自分には『物足りなくて当たり前』であったのだ。

今度は林の顔に、焦りと屈辱の表情が刻まれる!!

「身体も……訓練されている女がいたとは!? 誰に訓練された?

まさか──父親か? それとも──」

「そうよ! 最高の男に訓練されたのよ!」

それは……『訓練』など嘘だが……そう言ってやりたい気持ちだったから葉月は叫んだ。

 

 『フフ……ハハ……』

『ボスったら……』

元部下の林が……『ボスの女』でもある葉月を従えられないその姿。

純一としては、殺されかけられて裏切られた『ボス』としては

義理妹によって、まず『一矢報いた』気持ちなのだろう……。

それも義理妹が『最高の男』などと叫んでいるのが

まさか林が『殺して正解』と思いこんでいる『黒猫ボス自身』とは夢にも思っていないだろう。

純一としては『これは、愉快』以外の何ものでもないようで、

そんなことで笑って楽しんでいるのでエドとしては呆れるところだ……。

『さて──工学小僧はなにをしているのかな? そろそろ手配できても良い頃だ』

純一が黒い戦闘服の袖をめくって時計を眺めた。

『エド──ジュールはどうしている?』

『あ──はい……只今……』

 

『ジュール? 何処にいる??』

『宿舎屋上の──貯水タンクの影だ……フロリダの一陣隊が集まって

射撃の位置取りを編成し始めたところだ……』

『わかった。ボスに報告する』

『エド──お嬢様は??』

ジュールは……この光景をおそらく冷静に受け止められないかも知れないから……

ボスはジュールだけ外に行かせたのではないか??

エドはそう思ったから……

『ボスと今側で見守っている……腕に怪我はしているが無事だ』

『そうか──解った……射撃隊の動向を見守る』

『了解──』

そしてエドは純一にジュールの行動を報告したのだが……

側で会話を耳に挟んでいた純一には何もかもお見通しのよう……。

『ジュールに今の状況を教えなかったのは……上出来だ──エド』

ニヤリ……と、微笑み返されてエドとしては……

(ジュールぐらいの過保護さもたまには必要かと思うけどなぁ?)

下でまだ展開が止まない光景を眺めてエドはため息をついた……。

 

「兄貴──そんなに手こずっているのかよ?」

「強情なお嬢ちゃんらしいなぁ」

バリケートを組み終えた仲間の2人が、葉月が組み伏されているデスクに寄ってきた。

「あー……可愛い胸しているじゃない? 惜しいな!」

孫が葉月の寝姿を見下ろして舌打ちをした。

「兄貴? ルビーと交換してもいいよ?」

ニヤリと孫が林にルビーをちらつかせたのだが……

「孫──『薬』があっただろう?」

林がそういって孫を静かに見つめたのだが……孫が驚いた顔をした。

「ええ!? あの秘薬を『兄貴』が使うわけ?? 嫌がっていたじゃないか??」

孫が驚いてそう叫んだのだが……

「林が秘薬を使うなんてな……よっぽどだな?」

「うるさい! この女……絶対に言う事を聞かす!!」

林が異様にムキになっているので孫も渋々……胸元から何かを出した。

(え?? 何!? 何されるの??)

さすがに葉月も不安を覚えた……。

「はぁ──色男の兄貴でも堕ちない女か……俺じゃ役不足ってところだったかな?」

孫が胸から出した茶色の小瓶……。

蓋はスポイトのようなモノが付けられていて、それを受け取った林が

そのスポイトを手にした……。

「ゲイリー……押さえていてくれ」

「オーライ……」

葉月の頭に大男のゲイリーが回ってきて葉月の頭を固定した!

「さぁ──お前も一度俺を受け入れれば……そう悪くもないと思えるだろうさ……」

「く! なによ! それ!!」

「まぁ──簡単に言うと……『男が欲しくなる薬』と言っておこうかな??」

(──!!)

アメリカ育ちの葉月はそれだけでもう……解った!

最近は日本の女性ファッション通販の雑誌でもその商品は時々目にするようになった。

だが──目の前の男は『闇男』

通販で売っているような『お遊び感覚』の製品など持っているはずがない!

いってみれば『闇モノ』の……『麻薬』に近い物だと解ったから──

「孫──こいつの口、開けさせておけ」

「はいよ♪ どう変化するか見物だね♪」

今度は孫に口を無理矢理開けさせられた!

(いや──! 絶対……嫌!!)

だが……怯える葉月の表情を楽しむかのように……

悪魔のような微笑みを浮かべた林に……その怪しげな薬を舌に一滴、二滴……落とされてしまった!

その『悪魔の儀式』が終わった途端に、ゲイリーと孫は

何かを解ったかのように……葉月から離れた。

それどころか……林まで……葉月から離れた……。

葉月の頭がしびれたように……ぼぅ……となりかけた……。

(ああ……なんなのこれ??)

まるで、気持ちよくアルコールが身体に浸透して、身体がふわりと舞い上がる感覚……。

(話には聞いていたけど……こんな即効性があるわけ??)

 

『はは! 大人しくなったよ? どう? 俺の薬♪』

『肌に赤味が差した』

『もう少しかな?』

 

そんな男達の声も……遠くに聞こえ始めた。

妙に身体が火照ってきた!

 

『これが──隼人さんの時だったら良かったのに……』

ふと目をつむると……もう、あの朝のように優しい隼人の肌が幻となって浮かんでくるだけ……。

 

 『ボス──……これは……マズイのでは!?』

『く! 林の奴……工学小僧……まだか!?』

通気口内で、黒猫一味もその『卑劣な展開』に焦りの色……。

(葉月──!)

黒猫のジュンがとうとう沈黙を破ろうと決したのか銃を構える!

エドもその隣で、銃を手に構えた!

 「管制長──!!」

隼人はやっと発電所に到着──!!

「ハヤト!? どうしたんだい??」

やつれた姿で電光板をヘッドホンをつけた姿で見つめていたブリュエが振り返った。

「犯人の要求で……ヘリを一機……そこの目の前の広場に誘導して下さい!」

「……!? それが奴らの『条件』って事かい?」

「棟舎と宿舎の前に戦闘用ヘリを一機……それ用意して……

窓際に姿を現すところを、宿舎屋上の射撃隊に狙わせる!

それを御園中佐が狙っているんですよ!

早く誘導しないと部屋に連れ込まれた彼女が何をされるか──!!」

隼人の慌て振りを目にして……そして葉月がおかれた状況に……

そこにいたクロフォードとミラーも驚き、表情を固めた。

「わ──解ったよ……ハヤト……すぐに滑走路のヘリを誘導する」

「頼みましたよ!」

隼人はそれだけ言うとサッと発電所をまた飛び出して……

今度は宿舎に向かう!

発電所隣の宿舎の裏口が目に留まってそこのドアを開ける。

ドアをくぐって、廊下を走って階段を捜した。

階段に差し掛かって一気に屋上に駆け上がる!!

屋上にでるドアが開けっ放しになっていて、そこから男達の声がさざめいて聞こえてきた。

暗い階段を……青空が垣間見える明かりが差し込む出口へと駆け込む!

「海野中佐!」

隼人が叫ぶと……屋上では……フォスター隊が皆這いつくばって、

コンクリートで射撃のフォーメーションを組終えた所だったらしい。

「バカ! 敵に居るところを悟られるだろ!? 頭を下げて低い姿勢で来いよ!」

そこの声が聞こえたのは……一番後ろの位置から……。

黒髪の達也が一人……誰よりも後方に位置取ってライフルを

うつぶせの態勢で組み立てているところだった!

隼人はハッと我に返って……自分も匍匐前進で達也の居る位置に

腹這いで近づくことに……。

「葉月は!?」

達也はかなり大きめの黒いライフルを組み立てながら囁いた。

「犯人に──あの二階の隅の部屋に連れ込まれた」

「──!? それで??」

「戦闘用ヘリを一機用意するのが、奴らの条件……ヘリが来たら下に降りる事になっている。

その上──葉月の父親にも連絡しろって──それは手配していない」

「って事は……ヘリを用意する条件を飲み込んだのは葉月だな??」

(なんでわかるんだよ!?)

隼人はやっぱりこの男は……葉月と良く通じているのだな?と驚いた。

もしくは──

(似たもの同士っていうのかな?) とも、思えてきた。

「そうだ──葉月がそう素直に犯人の条件を飲み込むように促したのも……

おそらく、窓辺に誘い出すためだ……だから──さっき発電所管制に頼んできた」

「御園のおっさんへの連絡は?」

「葉月が……ヘリが準備できたら自分からすると……」

「それでいいのかよ?」

達也が隼人を冷たいしらけた視線で見下ろした。

「え? でも──ここで将軍を巻き込んだら……余計に葉月にもオヤジさんにも不利になると思って

犯人はオヤジさんから、葉月に対する身代金を要求するつもりだ。

葉月は──きっとオヤジさんに迷惑はかけたくないと思って……

自分が連絡すると言ったのも……すぐに父親には連絡するなって意味だと思って……」

「そりゃな……葉月サイドから考えれば……それで葉月はいいだろうさ?

でも──オヤジさんはどうだろうか? それから……葉月の『本心』もな……」

達也が重そうなライフルを肩にのせて……そしてその上に『遠方スコープ』を取り付けた。

(葉月の──『本心』??)

「少佐──側近として葉月を上官として立てているその行動は正解だと俺も思うぜ?

俺もたぶん──昔はそうしていた……そうじゃなくて……

今──『兄さん』が出来ること……男として……女の葉月にしてやって欲しいから」

「…………」

「もし……『側近』でなくて……葉月の男としてなら……今どうしたい?」

達也はスコープをつけ終わると……

今度はスポーツバッグの中から、黒い四角い『スタンド』を取りだした。

そしてもう一つ……ドリルのようなピストルも取りだした。

「女は……いつまで経っても一番頼っているのは『パパ』なんだよ

将軍とその部下としての娘──その固い『しこり』

この任務という状況の中で崩してやるのも……『兄さん』の役目なんじゃないの?

今の俺には『説得力』ないから……兄さんが呼びかければ……

迷っていてもオヤジさんはすっ飛んでくると思うぜ?」

達也はそう淡々と隼人に語りながら……

『ドス! ドキュン!!』

黒くて四角いスタンドをコンクリートに置いて、四隅に空いている穴に向けて

そのドリルを打ち込んだ。

そのドリルは『ボルト打ち込み』のピストルだったようで……

スタンドを固定するためだったらしい……

『ドキュン! ドスン!』

達也がそのドリルでボルトを打ち込むたびにコンクリートの欠片が飛んで隼人の眼鏡にも当たった。

『いつまで経ってもパパ』

それを耳にした隼人は──達也の淡々とした『狙撃準備』をジッと眺めて……

『パパ──パパ!』

葉月が──山本に襲われたとき……隼人じゃなくて……パパを呼んでいた葉月の事を思い出した!

「俺──……」

「早く行って来いよ……オヤジさんすっ飛んで来るって!

将軍とか総監とかそんなもの……捨てたって来てくれるって……」

達也は固定したスタンドに、大きくて重たそうなスナイパーライフルをセットした。

「……わかった──やってみる!!」

 

『バラバラバラ──!!』

達也と隼人がいる宿舎の屋上……向かいの2棟棟舎の上空にヘリが姿を現した!

「隊長! 犯人が要求したヘリだそうだ!

二階隅の部屋──そこの窓際から下に降りる手はずだそうだ!」

達也がフォスターに隼人の伝言を報告!

フォスターとジェイは屋上の手すりスレスレにライフルを構えている。

その二列目に、サムとクリフとテリーが構えて……

一番、遠距離を狙える『スナイパー』を構えた達也が皆より遙かに離れて……

全員がヘリが着陸しようとしている二階の隅の部屋に銃口を向けた!

「澤村少佐──さっきは『葉月は撃たない』と言ったけど……

万が一は葉月が死なない程度に撃ち抜くつもりだ」

達也がその部屋をスコープから覗いてそう呟いたので……

亮介を呼ぼうと去ろうとした隼人は……驚いて止まった!

「何でだよ!! 腕はいいだろ!? 犯人の頭狙えよ!」

すると──2人一緒に腹這いに並んでいたのだが……

達也に戦闘服の肩を引っ張り上げられて……スコープの中を覗かされた……

『!!』

その光景──!!

「葉月が奪われるくらいなら……アイツ事撃って男は殺す!」

達也の頬が引きつって……なおも彼の黒い瞳が怒りに炎を燃やしている!

そして──達也が手にした『弾丸』を目にして隼人は益々戸惑った!

その弾丸──長さが5〜7pもありそうで太さは男の指ほどある!

ちょっとした小さなミサイルのようで……

(そんな弾で……葉月を犯人とともに撃つかも知れないっていうのか!?)

と──『ヒヤリ』としたのだが……でも……そう……それを上回った気持ちが……

隼人にも──!!

その丸いスコープの中で映し出された映像──……

葉月が3人の男に押さえ込まれて……しかも! 肌が先程より露わになっているのを確認!

「今すぐ──側にいる手下の男から狙撃する

『兄さん』も俺の気持ち解るだろ? 奪われるぐらいなら……

葉月が一番嫌がることを『受け入れさせられる』前に……

葉月を傷つけても……男達は早急に始末したい!」

そこの達也の『決意』──その許可を葉月の恋人である隼人に求めているのが解った。

隼人は戸惑ったが……葉月がこれ以上怪我するのは躊躇った。

身体に……また一つ傷が増えるかも知れない……あんな『弾丸』で撃ち抜かれたら!

でも──達也の言うとおりだ!

それよりも──男に無理矢理身体を言う事聞かされる方が

葉月にとっては『重傷』なのだ……いや! どの女だって!!

「わかった──狙撃には口は出せない……任せるから……」

「そっちこそ──オヤジさん、動かしてくれよ」

「わかった! グッラック! オヤジさんが動いたらこっちに戻ってくる!」

「グッラック! 良い報告待っているぜ!」

隼人と達也はお互いに『グッドサイン』を出し合ってそこで別れた。

隼人は──再び……発電所へと通信をするために戻る!

「隊長──! チャンスがあればいつでも俺は撃つぞ!」

「わかった──援護する……外すなよ! ウンノ!!」

達也はスコープに目をあてて……肩には重く長いライフルを構えて、

指は引き金にかける!

早朝の岬──

潮風の中──フォスター隊の目の前にヘリが激しい風を巻き起こしながら着陸しようとしていた。