46.復旧!遭遇!!

 人質が解放された報告を合図に、配線を繋げた通信機を稼働させる……。

電源が入ったデーター板に、いくつかの飛行する『機影』が映し出された!

キーボードのコードをメインのPCにクロフォードが繋げて……

『サワムラ君! ログインしたよ!』

そのクロフォード中佐の声が聞こえたときだった……。

 

『ドドーーン!』

 

「!!」

隼人を始めとした、発電所に入り込んでいた男達が音がした方に振り返る!

発電所室内の壁……天井近くにある窓が『ビリビリ』と震え始めた。

「ついにやったか!? お嬢さんが!」

フォスターが、側にある古びた木箱を積み上げて窓を覗こうとした。

「…………」

隼人は……

『葉月の奴……無事なんだろうか?』

あんな爆破音がする側に……今、隼人の相棒『ウサギ』がいるなんて信じたくなかった。

それ以前に、あんな激しい音がする所に彼女がいて……

側に自分が付いてやることが出来ないなんて……

(なんだよ……何のための『側近』だよ!)

今、相棒の側にいるのは昔、解消したはずの『元・パートナー』

今回の作戦で隼人が『側近』として葉月の為に側にいてやれたことは一つもなかった。

だけれども──

そう……この任務に出て『成功』する事……

それが今後の彼女の為と思ってここまで来たのだ!

ただ……残念なのは……

途中で大人しくして待っていて欲しかった『恋人』が自分のために血を浴びるハメになる

行動をさせる事になった自分の不甲斐なさ……。

「管制……始めます!」

隼人は……躊躇うことなく今度こそ、インカムヘッドホンを頭に装着!

内ポケットに隠して置いた『眼鏡』を失ったコンタクトレンズの代わりにかける。

基地内の防戦ミサイル機能のセッティングも終わった!

データーのアンテナもこの新しいシステムで動くようにセットした!

(俺が今から葉月にしてやれることは……空から迅速な救援隊を基地に誘導すること!)

先程、フォスターが『空の管制が復旧しても応援隊が来るまでには時間がかかる』と

葉月からの交信に返事をしていたが──

爆破をしたと言うことは、犯人が葉月の側にいると言うことだ!

例え、強者の海兵員の二人がついていても……

この基地を乗っ取った『大ボス』だ!

そんな奴の魔の手が葉月に忍び寄っているのと同じだ!

葉月の側にいてやれない口惜しさは……自分が出来る使命で返上する!

隼人は機材の前に座り込んで、周波数合わせに入る!

「手伝おう! 空の管制はともかく機材操作なら出来るから。ミラー一緒に!」

「ラジャー……中佐!」

やっとセッティングできた機材の前に通信班の男3人が並んだ。

「こちら……復旧管制。応答願います」

口元に引き寄せたストローのようなマイクの先をつまんで……

隼人は右手は周波数を合わせながら、そっと緊張をしながら呟く。

「母艦管制……応答願います」

『……ら……くう……かん……』

ザーザーと流れる雑音の中から、男性の英語が途切れ途切れに聞こえてきた!

(もう少し……下か?)

隼人は周波数の細かい数字を感覚だけで計算して……

「こちら……岬復旧管制! 母艦、応答願います!」

徐々に声に熱が入る。

「サワムラ君! データーに……何か現れたぞ!」

データーを観察していたクロフォードが復旧に専念している隼人の肩を掴んだ。

「……」

隼人としては、復旧第一声を一番に送りたい所で、集中力を妨げられるのは困るところだが。

「何処の範囲に? 国外ですか?」

「ああ──もしかして? 対岸国機が夜が明けて動き出したのかも知れないぞ?」

「構いません。 もう、入れちゃって下さい」

「え!?」

隼人はクロフォードと中隊先輩のミラーが同時に驚いても、お構いなし。

隼人の冷たい眼鏡の横顔を二人の外人先輩が唖然と見つめている。

「どうせ、偵察でしょ? 昨夜、向こうも手痛い目に犯人にあわされているから……

下手に手を出せば、また狙い撃ちされることぐらい解っていると思いますから……後で……」

隼人の落ち着き払った判断に、何故かクロフォードと先輩ミラーも妙に納得したようだ。

とにかく、第一声を届けて空母艦とマルセイユ本基地と管制を繋げなくてはならない。

国外侵入機の追っ払い仕事はそれからだ!

何を置いても、隼人が今すぐにしたいのは……『救援隊の要請』なのだ!

でも……

「サワムラ君……良いのか? こっちに本当に近づいてきたぞ!?」

「中佐……国内で反応している機体はどの位置で……どのぐらいいますか?」

隼人がクロフォードの心配提案も、サラッと『却下』……。

呆れたトッド=クロフォードは、ため息をついて……データーを見つめ直した。

「東側、ニース沖に母艦……そこの近辺に3機ほど固まって空を巡回しているようだな」

「そうですか……でしたら、復旧の声が届けば……それがすぐに飛んでくると言うことですよね」

「だろうね?」

隼人はさらに周波数を細かく慎重に合わせる。

周波数の数字をキーボードで何度か打ち込み、ダイヤルなどを合わせてみる。

『応答せよ! 岬復旧班か!?』

「!?」

初めて! クリアな声が隼人に耳に伝わった!

いざとなって……声が出なくなった……。

この瞬間のために……皆が一晩もかけてかけずり回って、命の覚悟を決めて……

葉月は血を浴びて……康夫は瀕死の状態に追い込まれたのだから!

「こ、こちら──岬復旧管制……サワムラです」

思わず声がうわずってしまったのだが……

隼人のヘッドホンから……

『Yhaa!!』

『やったぞ! とうとう繋がったか!!』

そんな歓喜の声が遠い声で様々な声色で聞こえてきた!!

空母艦の管制員たちの声──

隼人は彼等が喜んでいる声を聞いて思わず微笑んでしまった……。

だが──問題はこれからだ!

すぐに表情を引き締めて気を取り直すと……

『ご苦労! こちら空母艦管制……空軍指揮のアルマンだ』

隼人も知っている、フランスの上官……『大佐』と解って益々ホッとする!

「有り難うございます。早速ですが……待機させている救助隊を岬に誘導します。

そちらからの応戦指示お願いいたします……只今、対岸から3機接近中……

侵入不許可の交渉を始めます。その後、マルセイユ本基地と交信を復旧させます」

『そうか! 対岸国も朝が来てまた……偵察に来たか!!

わかった! 岬に進行するよう、御園総監の指示を仰ぐ……それから──』

そこで、冷静に交信をやりとりするアルマン大佐の声が急にくぐもった。

隼人もすぐに察した。

「私の上官ですか? 御園葉月なら……散々暴れ回ってその上今は……

逃走をしたとかいう犯人と接触した様子……ですから! 早く救助隊を送ってください!」

『!! なんと! フォスター隊長は何処に!?』

「彼は私達の復旧を成功させるために、護衛についています。

皆、それぞれの役目で精一杯なのですよ! ですから!!」

『わ……わかった! すぐに総監に知らせる。対岸国との交渉……頼む!』

「ラジャー! 大佐!」

「来たぞ! サワムラ君! 境界線ギリギリだ!」

データーを担当しているクロフォードが隼人の『復旧宣言』が落ち着いたのを見計らって

また、肩を掴んで揺らす。

「侵入機、侵入不許可……交信始めます」

隼人の声に、クロフォードとミラーもそれぞれの通信機に構えた。

「こちらフランスエアフォース、岬管制……只今、そちらの機は国境に接近……。

不許可──後退せよ」

侵入をしてこようとする機体の通信周波数を捕らえて隼人は交信を投げかける。

「サワムラ君──まだ、前に進んで来るぞ」

「不許可──後退せねば、こちら防御システム作動、ロックする」

隼人は昔習ったマニュアルにしたがって、手元の防戦システムに手をかける。

データーに映し出されている1機をまず照準を合わせて……ロックをかけた。

「これ以上、侵入する場合は攻撃をする。後退せよ」

『リビアエアフォース……了解』

そんな英語が耳に入ってきた!

その途端に──

「サワムラ君……後退していったぞ!」

「やった! これで、フランス側が復旧したと報告してくれるだろう……

後の始末は上層部にお任せですね……さて──」

今度はマルセイユ本基地との交信復旧だ。

それも空母艦と復旧したと同様に……交信が繋がった途端に歓喜の声が伝わってきた!

『マルセイユ管制……! 直ちに、国境警備の空軍隊を出動させる!

岬周辺の管制を宜しく願う』

「岬管制──了解!」

岬の管制は今は小さな発電所が首脳として、隼人の手に委ねられる。

空は徐々に数日前の平和な『フランスの空』に、戻ろうとしているところだった。

そして──マルセイユからこんな声も……

『ハヤト! フランス基地出身の英雄だな!!』

「え!?」

どうやら……フランス基地時代に顔見知りだった隊員が管制塔に詰めていたらしく

隼人はまだ誰がそこにいるか考える余裕はなかったが……

その一言にかなり驚いたのだ。

それはともかく──

「フォスター隊長……どうですか? 二陣と、ダミー班の様子は……」

隼人は今から救助隊を誘導する前に、外の様子を把握しようとした。

「……二陣からも御園中佐からも交信が届かないが……」

フォスターは先程から、天井近くの窓を何度も眺めにあがって……

『もう、護衛はやってられない。女の中佐に任せてばかりいられない』と

外に出たくてうずうずしているようだった……。

「どうですか? 僕が指示を出す立場ではないのですが……

どうやら、主犯グループは仲間を盾にして逃走したとか……?

敵の数は確実に減っていて、今はその主犯格のみ……。

ここの警護は数人にとどめて……ダミー班の援護に行ってみては?」

隼人の静かな提案に……フォスターが躊躇って動きを止めたのだが……

「テリー、クリフ……護衛を頼んでも良いか?」

隊長が部下に申し訳なさそうに尋ねる……。

「隊長──行って下さい。外部隊員のウンノと女性の中佐が一番の獲物を捕らえているのじゃ……

僕たちが何をしにここに来たのか解ったモンじゃない」

「そうですよ! 行ってください! ジェイ、お前も隊長のアシストで行って来い!」

「……先輩……」

一番若いジェイが、どうやらフォスターとは一番に気があっている様子は

通信側の隼人達にも解っていた。

「いこう! ジェイ! どうせ、サムとウンノだけじゃ絶対に手が足りないはずだ。

それに──……」

フォスターがそこで口ごもった。

「うちの『じゃじゃ馬ウサギ』は手が着けようがなくお転婆ですよ?

暴れ出したら、敵とどうやり合うか解ったモンじゃないですからね」

隼人がデーターを眺めたまま『シラッ──』と呟くと

何故か周りの男達は震え上がったようだった。

「……そんな事言って……本当は自分が一番心配して、駆けつけたいくせに……」

先輩のミラーが意味ありげに隼人に微笑みかけた。

「……サワムラ少佐……管制の仕事で大変だと思うが……

彼女は必ず……私が助けてくるよ!」

フォスターは、振り向かない隼人の背にそれだけ叫んで……

ジェイを連れて発電所を飛び出していった!

「……サワムラ君……辛いところだね」

クロフォードがそっと肩を今度はさすってくれたのだが……

隼人は静かに微笑んで、うつむくだけ……。

(いいさ──俺と葉月は元々空軍……。

そのやるべき最後の仕事を葉月は俺に託してくれたんだから……)

「サワムラ! マルセイユから編成隊が飛んできたぞ!」

ミラーの声で、隼人はまた元の表情に。

「こちら岬管制──。先程、対岸国機が後退……。2時の方向へ──」

『ラジャー! マルセイユ・グランドウィング、フライト661。直ちに国境線に向かう!』

「661。ラジャー」

『こちら空母管制──。救援隊が向かった。滑走路誘導願う』

「岬管制──ラジャー!」

『こちら、救援隊ナンバー10』

「12時の方向にマルセイユフライト661。接近中、通過まで待機せよ」

『救援隊ナンバー10。了解』

空は元のフランス領域に完全に戻りつつあったが、

最後の仕上げのためにやはり騒々しいままだ。

隼人の元に次から次へと通信が入ってくる。

(管制を一人でやるのは初めてだ……。実習で何度かやったきりなのに……)

現場本番、しかも任務ときた!

隼人の額に黒髪がはりつく。

息をつく間もないほど、マルセイユ本基地、空母艦、救援隊、フライトチームから

次から次へと隼人の耳に『管制指示仰ぐ』の声が届く。

葉月がどうなったかさえも、考える余裕がないほどだった。

 『ゴホ……ゴホ!』

砂埃がまだ舞い上がる中……、紺の戦闘服を着た一行が力無く起きあがる。

「大丈夫か?」

「だ……大丈夫……」

葉月も咳を洩らしながら、彼の胸の下から力無く半身をお越しあげた。

目の前で、黒髪をかき分けながら葉月を見下ろしている男。

スッと鼻筋が通っていて、顔は薄汚れていたが美しい黒い瞳で見つめている上に……

その大きな手が、葉月の栗毛にまとわりついた砂埃を、懸命に払ってくれた。

「は……犯人の姿を確認しないと……」

葉月はその優しい仕草は……もう、自分の物でないと解っている。

それに──葉月にはもう、そうしてくれる相手がいる。

今の『恋人』とは違う……でも、良く知っている懐かしい手先に戸惑ったばかりに……

それを避けるかのようにすぐにそんな事を口走っていたのだ。

だが、相手はそこまで繊細じゃない男であるのも知っていた。

「そうだ! 負傷でもして転がっていればこっちのモンだ!」

目の前のことにとにかく、まっしぐらな性格なのだ。

解ってはいるが、そんな達也の『こざっぱり』が葉月は好きだったのだが

『しんみり』の一つもない男らしさに、やや苦笑い……。

すぐに葉月の身体の上から立ち上がって、サッと一番に扉に向かってしまったのだ。

「小池兄さん……大丈夫?」

まだ咳をして立ち上がらない小池を心配して葉月が声をかける。

「ゲホ……ああ……大丈夫。あーさすがに、本番現場は迫力もスリルも違うなぁ……

お嬢と一緒だとなおさらだ……」

「それだけ言えたら、平気ね」

相変わらずのお兄さんの口調に葉月はむくれて自分も立ち上がる。

「富永さんも大丈夫?」

「ああ──お嬢と一緒だと寿命が縮まるとは、中佐から聞いていたけど……ゲホゲホ……」

「なによ? そんなに言うなら四中隊から出てみる!?」

「なんだよ……冗談だってば! お嬢はすぐにムキになる!」

同世代の富永にまでそう言われて葉月はプリプリ怒りながら

心配した二人をサッサと置いて達也の後を追う。

通信隊員の二人が葉月の後ろで『クスリ……』とこぼしたのが聞こえたが

葉月は『シラ……』と無視。

達也とサムは既に銃を構えて扉から一緒に首半分を出し、『電話交換室』へ向けて警戒していた。

「どう?」

二人の背中に葉月もそっと寄り添って……

サムと達也の胸の下をくぐって……廊下から顔を出してみた。

煙に巻かれてまだうっすらと白いもやがかかっている廊下……。

その向こう──壁は黒くすすけていて、電話交換室の扉が小さな炎でくすぶっているのが見えた。

焼けこげた匂いが、急に葉月の鼻を突く……。

紺の潜入服の袖で葉月は鼻を覆った。

「気配がないな……」

達也が緊張感を漂わせて呟く。

「ドアから一度出たんだ……負傷して倒れているなら外廊下のはずだが?」

サムも自分が仕掛けたトラップに反応があったから……そう予想したようだが……?

葉月も見たところ、気配もないし……

電話交換室の周りは爆風でガラス窓は吹き飛んでいるし、壁は特に真っ黒になっている。

廊下にはその爆破の跡具合しか確認が出来なかった。

「逃げたとしても……どうやって??」

葉月がそっと達也を見上げると……

「ここで待っていろよ。じゃじゃ馬──。サム、行ってみようぜ?」

「オーライ──」

二人の海兵員は、小銃を構えて壁伝いに部屋を出ていってしまった。

二人の立派な男の背中が葉月の視界から遠のいて行く。

「気を付けてよ……」

大きな声は、万が一敵が無事だった場合のため出せないから……

葉月はそっと自分に聞こえるだけの声で囁き、見守るだけ……。

「どうだよ?」

小池と富永も部屋の入り口にやってきて葉月の頭の上から廊下を覗いた。

達也とサムは、電話交換室の側まで行ってしまい……

葉月は反射的とはこう言うことか?

また、腰から銃を抜いてロックを解除する。

そして小池と富永を後ろに下げて……自分も頬の近くに銃を構えた。

「!?」

『来いよ!』

達也が声には出さないが、葉月に向けて手招きをした。

「ここで待っていて? 行ってくるから……」

「いや……一緒に行こう」

小池が富永と頷きあって葉月の後をついて来るという。

小池と富永も慣れていない配給された銃を手にして……

そっと3人揃って部屋を出た。

静かに達也の元に向かい途中。

サムと達也は、電話交換室をおおっぴらに覗いていた。

そして通気口にも銃を二人揃って向け、警戒を──

さらには……窓ガラスが吹き飛んだ外まで上から下から二人は調べていたのだ。

それを眺めているうちに、葉月達3人は海兵員男2人の所に辿り着く……。

「気配もない、跡形もない」

達也が葉月が側に来るなり、一言呟いた。

「でも──この部屋が壊れる程度の爆破だから……

遺体になっていたとしても……人の身体が粉々になるほどの威力はないわよ?」

「やだな。お嬢の口から、そう生々しい表現」

富永が同世代故か、ガッカリしたように葉月の背中でため息をついた。

「諦めろよ。元々、こういう女なんだよ。なぁ──は・づ・き!」

達也が『ニヤリ』と微笑み見下ろす。勿論、葉月は面白くなさそうに『プイッ!』とそっぽを向く。

だけれども──

そう……『鬼』になった自分すらも……達也は受け入れてくれたのだ。

達也は知っているのだ。

そして──昔、出逢ったときに彼は初めて葉月の中の『鬼』を見たときがある。

それでも尚……

『フロリダの特校を卒業したら、絶対、小笠原のお前の部隊に入隊してやる!』

そういって『約束』を守ってくれた男だった。

隼人と近づき方は違ったけれど……

彼はそうして葉月の『優』も『怒』も、見届けて見守ってくれてきたのだ。

なのに──

葉月は、またそんなを数年ぶりにあった元・恋人の横でふと考え込んでいた。

「……!?」

葉月がまた窓辺に振り返る!

「!?」

葉月の次には達也が反応して2人がサッと揃って砕け散ったガラスをブーツで踏みながら

外窓から遠ざかって銃を構えた!

ふたりの息揃った反応は、昔なじみの小池が一番良く知っていた。

小池は富永の襟首を掴んでさっと窓辺から遠ざかる!

サムは葉月の横について達也と彼女を挟むように窓辺に銃を構えた!

 

『ズキュン!!』

「ぐあ!!」

 

その声は、富永を背中に守っていた小池の声だった!

「小池先輩!」

富永が自分を盾にして守ってくれた小池の負傷に驚いて

すぐさま倒れた先輩の側に跪いていた。

 

葉月達は驚いて、横へ少し離れた位置に避難していた小池達に振り返り……

「お兄さん!」

「小池兄さん!!」

達也と葉月が駆け寄ろうとした時……

小池は左足……太股から血を流して、膝を床に落として悶えているところ!

その小池の姿を遮るようにして、コウモリのように黒い物体が

窓の外から『ヒラリ』と音もなく飛び出してきた!

 

「気配取りはさすがだが……二度同じヘマはしない性分でね?」

 

『!!』

葉月と達也の目の前に『威風堂々』とした黒コートの長身の男が不敵に微笑みかける。

艶やかな黒髪に切れ長の目。

そして……戦闘屋にしては繊細そうな白い肌。

『この人が……林!?』

その男が何故か達也を通り越して、彼の背にいる葉月を見据えたのだ。