28.思惑

「本日午後から当直のフジナミです」

そこに見慣れた男が堂々と立っていた。

管制室の作戦デスク……先ほどまで葉月の父親が悠然と座っていたデスク。

そこに、日本人のパイロットが一人姿を現した。

「小笠原から応援に来たコリンズです」

藤波康夫の向かいに金髪のパイロット、デイブが挨拶を……。

だが……

『あははー!』と……向かい合ったパイロット男二人が笑い出した。

アルマン大佐も厳粛であるはずの作戦会議の場なのに

そんな笑い声を立てたキャプテン二人を咎めようとはせずに

にっこり……見守っていた。

「いやー! 藤波とならやりやすい♪」

デイブは最初に組むフランス側のチームが馴染みの男で満足な様子。

「勿論♪ 私から願い出たんですよ! コリンズ中佐と

一番に組むのは、俺達、藤波チームとね!!」

康夫も意気揚々……アクロバットショーの指導をしてくれた先輩と

久々の顔合わせで笑顔が輝いていた。

葉月はそんな男達に挟まれつつ……

『康夫となら……暫くは上手くやれそう……』と密かに安堵したところ。

「さて……お馴染みのチーム同志でこれからどうするか……

確認をしておこうか??」

アルマン大佐が、簡単な対面挨拶を見届けたところで

静かに作戦図面に視線を戻すと、キャプテン二人と葉月は一緒に表情を固めた。

「次のスクランブルは……岬危険区域にはフランスチームのフジナミに行ってもらう。

フジナミのチームが敵機と接触したのを見計らって……

コリンズチームには……ニース上空を脅かしてもらう。

しかし、コリンズチームは相手国の怒りを買わないよう……適度に侵入してもらい

すぐに空母艦に引き返してもらう……。

岬側を何度も脅かすと、がら空きの東側上空もこっちから脅かすぞ!という意思表示。

フジナミチームには骨折りのスクランブルになると思うが

そこを明日の朝までは、今まで通りこらえてもらおう……。

これから行う、コリンズチームのニース上空へのプレッシャーで

相手国がどのような反応を起こすかは今は解りかねるが……

今回の二手に分かれた作戦の初めだから……今夜のフライトで

明日のフライトの状況も変わってくる大事な作戦だ。

そう思って……馴染みであるフジナミとコリンズチームを

第一陣として選ばせてもらったよ。

御園嬢は……先ほどの調子でニース上空指揮を頼みますよ。

それぞれ……いいね??」

もう……耳に頭に何度も叩き込んだ『作戦』

葉月も康夫もデイブも一緒に顔を見合わせて……

『ラジャー!』……と元気良く大佐に敬礼をした。

「さぁて♪ 次のスクランブルまで腹ごしらえしておくか」

デイブが第一回目のスクランブルが無事に終わった安心感からかそう言い出す。

「いいっすね♪ お互いのメンバー紹介と行きましょうよ♪」

康夫も上機嫌で……デイブと供に食堂に行く気になったらしい……。

「葉月はどうする?」

「嬢もいこうぜ♪ 初指揮……なかなかだったぜ♪

山中も腹減っただろう??」

二人の誘いに葉月と山中は顔を見合わせて……そして……

一緒にアルマン大佐を見つめた。

「平和なうちに行ってきなさい。

私も君達が戻ってきてから部下と行かせてもらうよ」

優しいアルマン大佐の笑顔にもう少しで甘えるところだったが……

「いえ……大佐と一緒に行かせていただきます

山中中佐……先輩達と行って来たら?」

葉月が山中だけでも行かそうとしたのだが……

「いいえ。私も……側近代理ですから……御園中佐と一緒に後で行きます」

律儀な山中らしく葉月の側にいることに徹底する意志を見せた。

そこで康夫とデイブが顔を見合わせて……そして一緒に表情を引き締めた。

「失礼しました……御園指揮官殿……そうでした。

あなたは指揮側の……隊員でしたね。今回は……」

康夫がそう言って低姿勢に退いたので……

葉月は逆に寂しくなったくらいだ。

「……だな。嬢ちゃん……フジナミとは上手くやるから安心しな」

デイブも……いつもの調子で葉月を引っぱり出そうとしたことに反省をした様子。

『気にしなくて良いから……行って来なさい』

アルマン大佐がそう葉月の耳元で囁いてくれたが

葉月は……そして山中も一緒に首を振った。

そう……葉月は今回は現場の隊員ではない……。

康夫とデイブが肩を並べて意気揚々……戦意を高めあいながら

管制室を出ていくのを寂しく見送った。

「ゴメンね……お兄さん……私に付き合わせて……」

そろそろ山中もお腹を空かしているところだろうと葉月は彼を見上げた。

でも……山中はいつもの優しい笑顔をこぼしてくれた。

「隼人なら……きっとお嬢と一緒にいると思うよ。

それどころか……指揮側なら大佐より先に一緒に行くな! って

お嬢を逆に叱っているはずだよ?

俺だって……今回の役目、全うしたいからね……。

本当の側近でないからって甘えるつもりはないし……

お嬢? そんな顔するなよ……俺が話し相手になってやるよ?」

おいてけぼりされた葉月の気持ちをそっと察してくれたようだった。

早朝のスクランブル……

昼前の葉月初指揮のスクランブル……

管制室のパイプ椅子に葉月と山中は大人しく腰をかけた。

管制員も静かなレーダーを見つめて……

葉月も空だけは綺麗で静かだとそっとその風景を眺めた。

「ああ。軍が買い取った漁船が動き始めましたよ?ボス……」

ニース港近くで回遊する白いクルーザーの甲板。

紺のスーツの上に紺のコートを羽織った金髪の男が

双眼鏡でそれを確かめて一言呟く。

「そうか……いよいよ今夜か」

クルーザーの狭い船室から姿を出さない男がそっと甲板に

顔を半分出した。

黒い長いコートを羽織った男は戦闘服姿。

クルーザーの操縦席にも同じ格好の栗毛の男。

金髪の男以外は外にでようとしなかった。

「ボス……葉月様……どうするのでしょうね?」

金髪の男……『ジュール』が囁く。

「さぁな。一手間だからしゃしゃり出てこないことを祈るな」

『ボス』……純一が静かに呟いて船室に姿を消した。

「そりゃ。そうですよね? 私もそう思います……。

一応……葉月様仕様の戦闘準備は整えましたけどね?」

ジュールのその話しかけにボスの返事は返ってこなかった。

(まったく……どっちが本心なのやら……)

ジュールは双眼鏡を降ろしながらため息を一つ……。

ジュールとしては、令嬢が指揮側に大人しく居座ってくれていることを

願っているのに……。

後輩の『栗毛のエド』は……

『ジュールも過保護だな。葉月様がどんな闘志を秘めた女性か知っているくせに。

彼女は軍人なんだ。上に行くことが彼女の栄光じゃないか』

そう言う……。

その男らしい『エド』の意見にボスは傾いた。

だけれども……

『アイツは俺達を裏切った男だ! 俺達が始末を付けるのが当然。

去年俺とエドを欺いて……ボスを殺そうとしたのだから!

俺達を欺いた制裁は受けてもらわないと困る。

裏切り者がたまたま軍を相手取って、事を起こして

こちらが手が出しにくいからって……

軍側の葉月様を使って密かに始末をしようなんておかしいじゃないか!?』

ジュールはそう後輩のエドに反論……。

『ふぅ……』

直属の部下の意見が真っ二つ……。

いつものように……黒髪のボスが静かにため息をついた。

『俺達が残した後始末は後始末……。

オチビ……葉月の事はまた別問題。

軍が絡んで、葉月が出動する……仕事が二つになったようなモンだ

とにかく……オチビが外にでてくるような事になったらサポートはしないとな

まったく……手間がかかる義理妹だ……』

エドの意見もジュールの意見も両方ともボスは受け入れた。

『俺は義理妹が軍人であるときは、女と思っていない……

むしろ……アイツの姉貴と一緒……ちいさな弟だ』

だから……令嬢が大人しくしていれば黒猫側は軍に感づかれないよう

『裏切り者の後始末に徹底』

令嬢が勇ましく外に飛び出そうとした時は……

『栄光への導き』をサポートする決心をボスはしているのだ。

ジュールだって……今まで兄貴分であるボスと大切に見守ってきた令嬢。

その令嬢の『栄光』を無にするつもりもなければ

彼女がそれを望んでいるなら手助けをしたいと思っているが……

(なにも無理して外にでなくても……貴女はジッとしているだけで

充分……その力は持っているし……)

その続きを心でも呟くことが出来なかった。

でも……そっとジュールは呟いた。

『貴女は幸せな女性になるべきなんだ……“ばあや”のように……美しく』

ジュールはエドと違って……

葉月はやはり『令嬢そのもの』なのだ……。

葉月が愛する男を守るために外にでて行くその勇敢な女心

それは……純一が知ってはいてもジュールにはまだ理解が出来ないところだった。

「ジュール……とにかく一式、いつでも装着できるように準備しておけ

エド……船を……もう少し目立たない岸側影にでも移動してくれ」

船室から煙草の煙がなびいてきてそんなボスの声が……

ジュールもエドも静かに『ラジャー』と返事を返した。

上流社会の匂いを漂わせた回遊中のクルーザーには

ありとあらゆる装備が積み込まれているなど……誰も気が付かないほど……

優雅にフランスの青い海を堪能しているかのよう

白いクルーザーは悠々と昼下がりの海原を滑り出した。

昼過ぎ……空母艦の側に買い取りを済ませた民間漁船が隣着。

フォスター隊はすぐに夜間侵入に備えて装備を積み込み始めた。

「ウンノ!」

短く刈り込んだ金髪の先輩に呼ばれて達也は振り返る……。

「なんスか? 隊長」

「お前……ライフルは何を持っていくつもりだ?

まさか、あの重たいスナイパーを担いでいくなんて言わないだろうな??」

「あーあ! 持っていきたい所っすけど……崖を這い上がるんだ

そりゃ。むりっしょ??」

「…………」

先輩が達也の顔を眺めてなにやら躊躇っていた。

先輩が言いたいことが、達也にもすぐに解った。

達也は……『射撃の名手』でフロリダ本部の大会でも何度か優勝した実績がある。

もちろん……小笠原にいたときもその栄光は手にしていて……

『射撃』に関しては、皆の信頼を得ていた。

スナイパーライフルは重たいから、今回は自分の得意技の出番はなさそうと……

フロリダから持っていく許可は得たが任務内容がそうはさせないので突入には

置いていく心積もりだったのだ。

フォスターも、『重たいから邪魔になるぞ』と最初は言っていた。

でも……『一応、母艦までは持っていこう』とも言った。

第一陣の突入隊に選ばれたのに……犯人狙撃でなくて

通信班の『護衛』

それはフロリダの中でも『トップ』を誇る『フォスター特殊部隊』の隊長としては

納得していない心情の揺れを現すフォスターの判断だった。

だから……金髪の先輩は……

『邪魔だから置いて行け』は優秀な隊長として口で言うだけで……

心の何処かでは、達也がいつもの向こう見ずで『嫌だ! 俺の武器、絶対持っていく』と

無茶を言って持ち出して……チャンスがあれば犯人を狙撃するという

『口に出来ない本心』を抱いていることを達也は既に見抜いていた。

「フォスター隊長……俺だって持って行きたいっすよ?

でも、今回の一番の勤めは通信科の護衛で……暗殺じゃない」

「なぜ? 御園中将は……犯人を追いつめないんだ?」

「あー……そう言えば」

達也はどちらかというと目の前にあることでまっしぐらになるタイプ。

言い付けられたことを『全う』することに意味があって

その向こう側にある事は気にしない性格。

でも、先輩の『クリス=フォスター』はさすがにチームのキャプテンだけあって

そんな情勢的思惑には敏感なところがある。

「あれでしょ? とにかく今一番困っているのは空の管制が取れないこと。

システム奪取、回復が一番最初に望むこと。

だから……犯人はともかく、システムが起動してから

第二陣などに人質救出を任せたでしょ? その時に犯人を狙撃するとか

そう思ったから……今回は俺の狙撃の腕は必要なしでは?」

先輩にそう言うと……彼はとりあえず『そうだな』と納得したようだ。

(今の俺には……犯人がどうなろうと関係ないんだよ)

達也は、納得して漁船船内にいるメンバーに装備準備のチェックを

機敏に指示するフォスターの背中を見つめながら思った。

とにかく『目の前のことだけに集中するタイプ』

達也の頭の中には……

先ほど、少しだけ解り合った何が出来るか解らない男……

『澤村隼人』の事で一杯だった。

彼に何が出来る? 彼がちゃんと崖を上がれるか?

彼がちゃんと銃を握れるのか??

数字しか解らない『システム野郎』だから心配でしょうがない。

それでもし……運悪く命でも落とされたら……

また、あの精神不安定な葉月が狂うじゃないか、苦しむじゃないか?と……

(まったく……葉月を手なずける男が現れるなんて、予定外だったぜ!)

澤村という男を少しは認めた物の……

やっぱり急に腹立たしくなってきた。

葉月を良く理解できる男は『海野達也、俺だけ』……そう思っていた。

なのに……達也は自ら『騎士役』を降りたから……自分もいけない事は解っているし……

『離婚』だって、別に葉月のためにしたわけじゃないが……

やっぱり、葉月にそう簡単に新しい『側近』が

意外と早く見つかったことは予定外の他何でもなかった。

狙撃の腕があるのに、人質救出の第二陣に割り込まず

第一陣の『護衛班』に割り込んだのも……

まず、前線で成功を収めて、もう一度現場隊員として返り咲くための

一番最初の良い大仕事と思ったからだ。

これで、成功すれば……次の異動希望が取りやすくなる。

すぐには……小笠原に帰れなくてもだ。

傷つけてしまった別れた妻のいるフロリダにはもういる資格はない。

義理父だったブラウン少将……直属の上司にこれ以上迷惑はかけたくない。

自分の力でもう一度外にでて、それで……新しく、今度こそ新しく……

自分なりに『やり直したい』から……だから第一陣前線突入を達也は願い出た。

いろいろな思惑は達也にもある。

でも……犯人云々は二の次。

とにかく……

達也にとって一番輝かしかった葉月との小笠原時代。

達也の一番の栄光の日々。

それを……守って取り返すために……

そして一番大事な……元・恋人……今でも大切な女の為に

傷つけて捨ててしまった葉月の為に……

その想いしか今はない。

『お願い! タツヤ!! パパと一緒にいればいいじゃない??

いまでも愛しているあなたに何かあったら……

お願いだから前線なんか行かないで!!』

「マリア……」

心に残している女を思い出しながらも……

達也はそっと……別れた妻の出発前の声を思い出した。

彼女は泣いて達也を引き留めた。

結婚したときは『第一側近職』

危険な現場任務は一切無かった。

優雅な職にいる夫に安心していた妻。

優雅で緊張感が萎えて行く結婚生活……。

『マリア……俺はこうゆう男なんだ……俺は現場に戻りたいんだ』

『何故!? こんなに良い地位にいる幕僚じゃ満足行かないの??』

離婚の発端は……そこだった。

もちろん……妻は葉月の事も口にした。

『彼女をまだ愛しているのね!!』

葉月と恋仲だったことも解っていて結婚してくれた妻だった。

結婚生活の3年間……一度もマリアが言わなかった一言だった。

そこから……隠していたお互いの心がもつれていった。

あっという間だった……。

『結構……上手く暮らしていたんだけどな』

でも……第一側近の『地位』は達也が自分で手にした物じゃない。

葉月のお陰でなったもの……彼女が与えてくれた『役』だから

無駄にしたくなくて……だから第一側近職の役目を精進してきた。

でも……

『聞いたか? タツヤ。ミゾノ中佐が中隊長に任命されたそうだ』

義理父ブラウン少将の『報告』に……達也は心から喜んだ。

でも……数日経ってから、訳も解らない『虚しさ』に襲われた。

『アイツは自分で頑張っている……俺なしでも……

葉月をあそこまで伸しあげるため……一緒に頑張れる男……

横にいる男は何故?? 俺じゃないんだ!!』

新しくついたという『側近』をこの時初めて羨ましく思った。

そして……押し込めたはずの小笠原の日々が心に押し寄せてきた。

ジョイに……山中の兄さんに、後輩のデビー=ワグナー

豪快なコリンズ中佐に……そのパイロットのメンバー達。

可愛がってくれたロイにその妻の美穂。

そして……

『達也兄ちゃん! どっか連れていって!!』

可愛らしい栗毛の少年……真一の顔。

その仲間達がいかにして葉月と供に日々を精進して……

そして皆の象徴『御園葉月中佐……中隊長』を誕生させたことか……。

その仲間じゃない……。

もう、自分はその仲間ではないのだ。

それが……急に『虚しくなった』

その中に自分がいないことが……。

『なにやっているのよ。そこでメソメソしているなんて達也じゃない』

透き通る栗色の……ガラス玉の瞳を輝かせる彼女が……

達也の心の中で急に鮮明に蘇ってそう言っている……。

それにも3年間心を閉ざしてきた。

『ああ! やってやろうじゃないか! ええ?? 葉月』

そう心に『ケリ』がついてから……妻と『亀裂』が生じた。

妻のことだって愛していた。

達也の転がりおちた心を名前の如く……包んでフロリダで迎えてくれた女性だ。

でも……達也は片づけていないまま……彼女と結婚した。

だから……今になって『後かたづけ』をしようとした。

勿論……『マリア』も連れて行くつもりだった。

しかし……女の心に対して達也の決心は酷い物だったのだ。

だから……

元々、『国際結婚』 籍を入れるなどの手続きは面倒なため……

『結婚』と言っても……籍は入れなかったのだ。

だから……離婚をすると言っても『同居者と別れる』と言うものだった。

籍を入れておけば……こんなに簡単にマリアとは離れなかったかも知れないが……。

「ウンノ?? ライフルどれ持っていく?」

急に肩を叩かれて、達也はハッと我に返った。

「ああ……はい。テキトーに手に馴染む物を〜」

いつもの調子でかーるく微笑んでみた。

だが、肩を叩いた金髪の先輩は複雑そうな表情……。

「ウンノ……サワムラ少佐に喧嘩売るなよ」

「なんスか!? 俺、そんな子供じゃないっすよ!!」

「睨んでいただろ? ミーティング中……

お前はわかりやすいな。今もマリア=ブラウンの事考えていただろ?」

見抜かれて、その通り……。

達也は思わず……『ギョ!』として焦ってしまった。

益々、分かり易い達也に先輩フォスターが苦笑い。

「残念だったな。ミゾノ中佐にはまったく近づけなくて!」

「いやだな〜〜! 俺はそんなんじゃないっすよ!!

誰があんなじゃじゃ馬!!

先輩は知らないかもしれませんが、ほんっとうに手が掛かって

憎たらしい女なんすよ! 疲れたから別れたんですからね!!」

と……心にも無いことを言ってみたが……

「ああ。どうもそんなカンジの女性だったね〜……

でも、どうしてかな?? 彼女、品があって父親と同じなんか解らないような……

威厳もあって……よく見ると結構可愛いしなぁ……笑うと可愛いだろうなぁ」

フォスターには勿論、妻と子供がいるが……

達也は、やっぱりそうして男の目を引いてしまう元・恋人に

誇りを感じつつも……

(なんだよ〜。。葉月の事、良く知らないくせに!)

と……別に何も特別な感情を抱いたわけでもない中年の先輩に

少しばかり……『嫉妬』

すると……また、フォスターがニンマリ。

「安心しろ。俺には女房も娘もいるからな! お前を差し置いて取ったりしないからさ♪」

そこも、見抜かれて達也の身体の体温は急上昇!

「だ! だから!! 言っているじゃないっすか! アイツとはもう……!!」

達也の身の回り、恋愛沙汰はかなり有名な話。

まぁ……達也も隠す主義でもないし、気にしない質なのだが……

「おーい! 見ろよ!! 生意気なウンノが真っ赤に照れているぜ〜♪」

「せんぱーい……」

フォスターが漁船船内で銃器準備に追われているメンバー達に

からかいの声を投げかけた。

達也も『生意気小僧』といつも言われているがさすがに焦った。

『あはは〜! 本当だぁ! 見物だな〜!!』

割り込んでチーム内に入ってしまったが……

他のメンバーともだいぶうち解けた。

そこ……達也の上手い性分なのだ。

『ゴー!!!』

空母艦の甲板からそんな轟音が漁船船内に聞こえてきた。

皆が一斉に狭い船内の窓から甲板を覗いた。

達也も……フォスターと一緒に窓辺へ……。

「F−14だ。フジナミチームがスクランブルに出るようだな」

「康夫が……」

達也はまだ、顔を合わせていない悪友が飛び立つ姿だけ眺めた。

そのF−14が飛び立った後、慌ただしくF−18が飛び始めた。

「フジナミとコリンズ中佐の二枚刃で空は作戦を組んだようだな」

フォスターが呟く……。

「……前のスクランブルは昼前でしょ?? 結構、頻繁だなぁ」

達也は、朝に夜に間が無く飛び立つ戦闘機を眺めながらため息……。

同期生の一人は『空を飛び』

もう一人の同期生は管制室で『空軍指揮』

既に任務活躍中だった。

達也も久振りの『現場任務』……

同期生達が華々しく活躍している現場を見ると血が騒いだ。

「先輩……俺達もきっと……」

達也の黒い瞳が煌めく……。

隣にいたフォスターはそっと微笑んで達也の肩を叩いた。

「久振りの現場だからって先走るなよ……落ち着いてやれ」

そういうと……フォスターはメンバーが揃えている銃器の確認へと

達也の側から離れていった……。

『見てろよ! 俺だって……!!』

達也は、お得意のスナイパー以外の銃器を手にするため……

メンバーの輪の中に戻った。