16.渚の変化
父親の説教が始まると身構えた隼人は
父の口から出てくる言葉に気合い充分迎え撃つ覚悟をする。
この緊急時に、葉月のまんまと乗せられてのこのことやってきた父親だ。
そして、コーヒーを一口飲んだ父がため息混じりに話し始める。
「馬鹿者。 葉月君に散々気を遣わせたお前が悪い。
この緊急時になって私を呼ばねば取り返しがつかないかも知れないと
思いを募らせて、追い込まれて……。
隼人から私を紹介して欲しいところを順序をひっくり返して
横須賀の叔父さんを頼り、従兄の右京君まで引き出して、
私を呼ぶことになった葉月君の気持ちを少しは男として考えんか!」
父親の説教に、隼人はまたムッとふてくされてしまったが……
「ちょっとまて!? 右京さんがなんだって!?」
「彼が私が乗る便の席を手配して、横浜の会社まで迎えに来てくれた。
おまけに、横須賀の基地内で昼食までご馳走してくれたんだぞ。
白いBMWに乗ってなかなかの『御曹司気取り』だったが、
エスコートは素晴らしい品良い男性だったぞ?」
隼人は、サッと血の気が引きそうになった。
葉月の叔父よりも、どちらかというと隼人は『右京』に気遣っている。
その恋人を日頃気にしている『兄貴従兄』が
自分の妙な意地張りのために、父親を迎えに行ったというのだから。
「……。お兄さん……どんな人……?」
隼人は思わず、まだ会わぬ右京のことを、
自分より先に会ってしまった父親に探っていた。
父も息子の心が解るのか、妙に見透かしたようにニヤリと微笑む。
隼人は、思わず構えてしまった。やはり……父には適わないのか??と。
「昔から品の良い父親にそっくりな芸術家と言ったところでね。
顔なぞ、葉月君にそっくりな男前だ。音楽隊の隊長らしい威厳もある。」
「昔から知っているのかよ!?」
「当たり前だろ。私は、横須賀の訓練校にずっと出入りをしているのだぞ?
お前がフランスのミシェール校長のご自宅でつつがなく訓練校生活が
出来たのは、誰のお陰だと思っているのだ??
あの御園准将……葉月君の叔父様の紹介があってこそじゃないか?
御園とのご縁がこうして出きるとは思わなかったが
元々の筋を正すとそうゆうこと。お前が葉月君に尽くすのはいわば恩返し。
それをまったく……こんな風に御園側に迷惑をかけてけしからん息子だ。」
ちょっと、一言隼人が喋ると、十倍になってご最もなお返しが返ってくる。
隼人は、黒髪をむしゃくしゃかきながら始終ふてくされるだけだ。
そのうえ……まだ、父親は続ける。
ここぞとばかりに、やっと顔を合わせた息子に言いたいことを叩き込もうと……。
「葉月君のために叔父様も右京君もそりゃ大層、私に気遣ってくれて。
それに対して、おまえはなんだ?
葉月君の気遣いを無にしようとして……。少しは大人になれ。
私を追い返すなら、葉月君のいないところでせんか!
ほらみろ……彼女今頃落ち込んでいるぞ??
恋人の父親の目の前で、あんな女をやらなくてはいけなくなったと。」
意外と……隼人の恋人に寛容なので
それはそれで……『彼女を気に入ってくれたのかな?』と安堵したが
いちいち、『けしからん息子』と言うところが益々腹が立ってくる。
しかし……確かに父親の言うとおりだった。
葉月の『じゃじゃ馬台風』はいつものことだから呆れるが、
彼女の目の前であんな息子の姿は見せる気は今までもなかった。
(しょうがないだろ!? いつも葉月の台風がいけないんだ)
そう自分にも言い訳たいところだが……。
今頃……葉月が落ち込んでいるの父親の見定めには
ちょっと、男として驚きだった。
「落ち込むかよ? あのじゃじゃ馬が……。」
これもいつもの『天の邪鬼』
父の言うとおり……確かにあの葉月の事……。
いつもは内向的で大人しいところがあるのに
いざとなるとものの見事に立派で生意気なお手並みを発揮する。
それが彼女らしいのだが、隼人としてはどちらも『本当の彼女』と
見ているが、どちらかというと『しっとりお嬢様』の彼女の方が
今まで多く見てきたから……。
その彼女があの様な『爆走』をしてしまったのも
彼女らしいとはいえ、やはり……『思わずやってしまった』と言うところ。
確かに……『落ち込んでいる』かも知れない……。
天の邪鬼な息子のことは、重々解ってか和之はため息をついて
サンドをトレイに置いてまた、コーヒーを一口。
「隠しても無駄だ。お前……葉月君の自宅に入り浸っているのか?
官舎に連絡しても一向に電話には出ないしな。
葉月君とも少し話したが、彼女も出来た中佐だ。
お前の上官として、私の探りはスルリとかわしてな。
26歳の女性には見えないと彼女にも言っていたところだ。」
(ふーん。 葉月らしいところだな。親父の前でも中佐って訳か)
そこは隼人も信頼していた。
そうでなければ、葉月という上官について行こうなんて
フランスにいる頃から思っていないはずだから……。
彼女がそこの線はきっちり引く女性と見極めて一緒に仕事しているのだ。
しかし……『彼女の自宅に入り浸り』
これを出されると、隼人も男として辛い……。
だからといって『その訳』を語ると長くなるし、
御園令嬢と付き合っていることを父親に公表しなくてはならない。
そうなると。また、ややこしい……ここは、今は何とか避けたい気持ちだ。
「男として……女性の家に入り浸り。これはどうかと思うが……」
やはり……父は険しい顔つきで説教を始めた。
もう……限界だ。
思いっきり、突っぱねてここを出ようと心が燃えたときだった。
「自分が決めて彼女を守っているなら、大切にしなさい。
彼女ほどの令嬢がお前の官舎に入り浸るようになっても
大切に育ててきた御園親族に顔が立たないしな……。
そこは良きとして、そこまで彼女と一緒にいたいなら解っているな?
『御園と付き合う』……その覚悟あって彼女をお前は選んだと。」
隼人はそんな父親の考えが……自分と全く一緒で驚いて……
和之の方に向き合って息を止めてしまった。
「オヤジ……どうしたんだよ?」
和之はそんな息子の驚き顔に、キョトンとしていた。
「どうしたとは??」
「いや……。てっきり……反対かと……。」
「何をだ?」
『彼女との付き合いさ。 俺を実家に戻したいのだろう?』
隼人はそう言いたいが心の中で呟いた。
葉月と一緒にやって行くと言うこと……。
御園の側にいると言うこと。
それは、軍人生活を全うすることを意味する。
隼人は、父親が実家の家業を手伝わせたい。早く軍人を辞めろ。
そう言うと思っていた。
すなわち……
『今はともかく、御園嬢との付き合いは程々に。
彼女にはもっと良い相手が、隼人には隼人なりの相手が……。』
そう説教されるかと……島に来てからもそう思っていたのだ。
だから……。
実家の環境も含めて、その彼女との付き合いにイチャモンを付けられる。
そう思って実家を避けてきたと言うのもあった。
なのに……今の父親の言葉。
『覚悟はあるな? 彼女を大切にしなさい……。』
それはある意味……『澤村を捨てろ』とも聞こえたのだ。
勿論、『お前は異物、弟は異母兄弟、母親は継母』
だから『捨てろ』という意味ではなく……。
良く解釈すれば『男の独り立ち。跡は継がなくて良い』と取れたのだ。
すると……和之がため息をついて一言。
「隼人。 私がそんなにお前を拘束していると思うか?
お前が『フランスに行きたい』と喚いたときは快く送り出した。
『フランスにいたい』これも、15年そうさせた。
『彼女と一緒にいたい』……ここまで来たらもう何も言えない。」
父親のその言葉に隼人は……
何も言い返せなくなってそっとうつむいた。
父の言う通りだった。
隼人はその点は、今まで自由にさせてもらっていたのだ。
最初はフランス留学は大反対された。
しかし……父は自分と同じ工学を選んだ息子の意志を最後は尊重してくれた。
その父に対して……
『どうしたんだよ? そんなこと言うとは思わなかった……』
これはやはり。隼人の思いこみだったと……。
父の中では隼人はとっくに『独り立ちさせた息子』と見ているなんて……。
隼人は今までなら……いつもの天の邪鬼で
思ってもいない言葉を本心とは裏腹に口にして反抗しているはずだった。
フランスへ旅立つことを必死に止めた継母の彼女を
『俺が出て行くと追い出した継母と思われるから引き留めるんだろ!?』
そして……
隼人の面倒をよく見てくれたあの黒髪のミツコにも……
『俺が社長の息子だから一緒にいるのか!?』
彼女が心の中で描いていた『結婚』の夢をうち砕いた一言。
ただ、一緒にいることが出来れば良かったのに……
彼女が『そろそろ横浜のお父様に会いたい。社長なのでしょ?』と。
隼人の家族を羨望の眼差しで欲していたのでつい出た言葉だったが……。
二年も同棲してくれた女性にはひどい言葉だったに違いない。
強気のミツコもさすがにショックだったらしく部屋を出ていった。
出ていった後、隼人が引き留めること、呼び戻すことを
信じてそうしたのだろうが、隼人は限界に来ていたので連れ戻さなかった。
それがミツコの計算外で、別れた形になったので
別れた後もあのようにつきまとわれていたのだ。
その事はともかく……。
隼人の『人を傷つける、天の邪鬼暴言』
継母の『美沙』は、隼人の鋭い言葉に背を向けてそれっきり。
元・恋人のミツコも隼人の言葉を聞いて部屋を出ていった。
そして……
『親父に会わす為に、交換条件で身体を投げ出したのか!?』
一番大事なはずの葉月にすら……そんなことを。
『弱虫! これだから男は嫌よ!』
(……。俺の天の邪鬼に向かってきた女も初めてだったな……)
隼人は、葉月の刃向かってくる少年のような眼差しを思い出して
フッ……と、一人反省を込めて微笑んでいた。
だから……今は今までの15年間とは違う。
父親へ反抗する意志は、父親の諭してくれる言葉でもうなくなった。
葉月に先ほどしたような、無駄な天の邪鬼はもう出来なくなっていたのだ。
「そうだった。俺は自由気ままな長男だからな。」
「今頃気が付いたか。馬鹿者。」
シラっとコーヒーをすする父親に隼人は息子としてまた『むっ』としたが。
「言っておくけど。俺は軍人辞めないぞ! 従って会社も継がない!」
「大馬鹿者。フランスで何を学んだ?無駄にするのは男じゃない。」
隼人は今度は『バカ』に『大』を付けられておののいた。
「15年もフランスにいたのに、若教官など安易なところでのらりくらり。
教官など身体が動かなくなってからにせんか?
女性の葉月君が身体張って一部隊をまとめてきた事思うと
フランスでのお前は、軟弱教官以外何ものでもないわ。」
それには今度はもっと『むっ!』としたのだが……
最もすぎ、隼人もそう解ったから『島』に来た。だから本当言い返せない。
「せっかく……外国で工学を修得したのだ。
それが今回多いに役に立つと重任に選ばれた。
しっかり、皆の役に立って必ず帰還しなさい。」
隼人の一の言葉に十の説教をしてきた威厳ある父親が
急にしんみりと……サラダをフォークでつついて……
消え入りそうな声でそう言ったのだ……。
「親父……。」
そうして『男として』見送ってくれる意志でこんな離島まで来た。
それだけで……もう……隼人は充分……
『澤村和之の息子』に戻ってしまっていた。
やはり……血を分けた『父親』
それだけで……息子に戻れるのに、隼人はずっと帰省せずに避けていただけ。
隼人も手元のフォークを止めていた。
雨上がりの渚の風がそっと……テラスにいる父この間を通り過ぎる。
少し荒い波打ち際の音が暫く二人の間に流れる。
「そうだ……隼人。一つこれを……」
そう言って父はジャケットの内ポケットから何かを取り出そうとしていた。
父が隼人の目の前、テーブルの上に出したもの……。
白い毛布のような生地の巾着袋だった。
「なに?」
「お前の着任を知って、『美沙』が作った物だよ。持っていって欲しいと……。」
昔、恋焦がれた『姉さんママ』の彼女が父に持たせた。
それを知って、隼人はまた、途端に顔を背けた。
「いらない。」
(また……俺に良い母親気取りかよ!?)
彼女が母親面するほど、嫌になったから横浜の家を出たのだ。
彼女は、隼人の母親じゃない。
隼人としては、ずっと『姉さんママ』でいてくれた方が気が楽だったのだ。
だから。また母親として自分を送り出そうとする彼女に腹が立ったのだ。
「その中には……『ヘソの緒』が入っているそうだ。」
「!!」
隼人はそれを聞いて、父親の顔を見た。
父は、穏やかにそっと微笑んでいた。
「沙也加のヘソの緒を出せとせっつかれて何事かと思ったが……。
それを持っている間は、隼人と沙也加は繋がっている。
きっと沙也加が隼人を守ってくれるとね。」
その継母がしたこと……やってくれたこと。
今それが、隼人の今までのすべてを覆すかのように目の前にある。
彼女は、変わったのかも知れない。
隼人が家を出ていった後、変わったのかも知れない……。
自分だけが、変わっていない!
そんな置き去りにされたような気がした。
いつまでも15年前と同じ気持ちを抱いて抜け出していないのは『自分だけ!?』
隼人はそんな焦りを継母に突きつけられたような気がした。
隼人が望んでいたことを……継母の彼女はしてくれたのに。
『隼人ちゃんを守ってくれるのは……隼人ちゃんを産んだ本当のお母さんだけ。』
ふんわりとした黒髪をなびかせて、華やかに微笑む彼女が浮かんだ。
彼女は、適わぬ故人『沙也加』に今は抵抗していない。
だから……ヘソの緒……。
沙也加が残した身体の欠片に隼人の安全を託す。
隼人が願っていた『継母は継母』の気持ちがそこに表れていたのだ。
隼人は……額に汗を浮かべていた。
自分だけ……『思い込み』。そして『変化なし』
まるで『過ち』を自分から認めたような緊張感だった。
変化がないから、葉月が来て……変化を求めなかった隼人を揺さぶって。
彼女の『風』に乗せられて隼人も『変化』を始めていた。
でも、家族との『変化』は未だに求めていなかった。
しかし……隼人のいないところで……隼人が殻に籠もっている間。
継母の『美沙』は、もうとっくに『変身』を遂げているのだ。
自分一人……情けない愚か者のような気がしてきた。
隼人は、うつむきながらその『驚愕』を噛みしめて……
その息子の様子を心配気に見守っている父をやっと見つめる。
そして……ふわりとする白い生地の巾着を手に取った。
「……。俺とおふくろを繋げていた物か……。
美沙さんは……やっぱり一児の母親。そんなこと思いつくなんて……。
わかった。有り難く持って行くって彼女に伝えてくれ。」
隼人がその巾着を胸ポケットにしまう姿を和之はこの上ない笑顔で喜んでいた。
「それから……隼人。和人も心配していた。
奴にだけでも良い。弟に電話でもしてくれないか?」
隼人の異母兄弟。 歳が離れた弟は可愛がっていたが
そう言えば。『暫く、ご無沙汰だったな』と思った。
「実は、受験生になったものの、状態が思わしくなくてな……」
父が疲れたようにため息をついて、うつむいた。
それを聞いては歳が離れている兄貴も心配になる。
「どうして? 思春期だから何かあったとか?」
「…………。」
父はなにやら躊躇っていたのだが。
「こんな離島まで来たんだ。もう言えよ。俺にとってはたった一人の兄弟だし。」
弟を思う息子の言葉に頼もしさを感じたのか、和之がやっと話し始める。
「隼人。お前にも解る気持ちかと思うが……。
いいか? お前のせいだと言うんじゃないんだぞ?
すべては私の選んだ人生のしわ寄せだ。
和人はな……兄貴のお前が帰ってこないのは
『継母の子供がいる自分のせいだ』と最近言い出していてな。
フランスにお前がいるときは『仕事』だと今までは誤魔化してきたが
国内に帰国しても帰省しない兄貴を待ちわびて……
多感な年頃だしな……。ここの所そう言っては美沙にも反抗している。
お前のせいじゃない。若い後妻をめとった私の力量不足だが……
声だけでも……和人にかけてやってくれないか??」
隼人はそれを聞いて『ショック』を受けた。
自分の意地張りがなんの関係もない弟に降りかかってしまったからだ!
「和人が!?」
無邪気だった弟も、もうすぐ高校3年生。
これから大事な時期だ。
隼人もそうだったが、複雑な家庭環境は一番敏感に思う年頃だ。
それに……父が……『私が選んだ道のしわ寄せ』
そういって、息子二人に申し訳なさそうに弱い顔をするのも心が痛んだ。
そんな顔をする『親父』が今まで以上に年老いて見えたのだ。
『そんな!!』
自分が殻にこもって……自分は何か欠けた人間。
だから自由気ままにしてきた間に、そんなところに飛び火をしているとは……
『思いもしなかった!』だった……。
そんな兄貴には隼人とて、なりたくない。
本当にあの小さな弟がいたからまだ……
『異物の自分』でも横浜の家にいられたのだ。
小さい頃、弟が可愛くてミルクを飲ましたり、おむつを換えたこと。
飛行機の模型を作ってやったことを思い出す。
弟が瞳をキラキラと光らせる度に隼人も嬉しかった。
だから……真一が隼人に甘えてくるとそんな風に……嬉しかったりしたのだ。
「わかった。今夜、横浜に電話する。」
隼人のハッキリとした声と眼差しを見て、父・和之はホッとしたように微笑んだ。
「悪いな。 お前にそんなことさせて。」
「いや……。これくらいで和人が良くなるならなんにも……。」
「兄貴だな。お前も」
父の穏やかな微笑みがまるで『ご褒美』の様で隼人も照れくさくなってくる。
「当たり前だろ!」
隼人はそう言い捨てて、大きなサンドを勢い良くかぶりついて誤魔化した。
時計が19時半を過ぎようとしていたので父子は急に食を進める。
その途中で、父が急に『クスクス』と笑い出したのだ。
「なんだよ。まったく……気持ち悪いなぁ!」
「いやいや……私も大抵のことでは驚かない歳になったが……
久しぶりの『スリリング』だったと可笑しくなってなぁ!」
それが……葉月の『じゃじゃ馬爆走』の事だと解って……
隼人は自分のことのように、恥ずかしくなってきた。
「まったく。毎度のことだよ。振り回されてばかりさ。」
隼人がふてくされながらコーヒーを飲むとまた父は面白そうに笑う。
「いやー。もう少し若かったらなぁ。面白かっただろうなぁ。」
「どうゆう意味だよ?それ??」
「お前と入れ替わりたいぐらいだ。彼女なかなか美人だし。
飽きさせないだろうなぁとおもってな! さすが中隊長、感心した。
『警察キップが怖くて隊長つとまるか!』ってなぁ……。
お前がオロオロしている姿も見物だったな!!」
『アハハ!!』と笑い飛ばす父に、隼人は益々恥ずかしくなる。
その上。 『俺と入れ替わりたいだとぅ!?』
こんな爺さんまで、その気にさせる恋人に驚きが隠せない……
というか……
(エロジジイ……20歳も若い妻をめとったくせに!!)
男としてはなかなか女性観察力があり、
力量がありそうな父の意欲に隼人は呆れたのだ。
「沙也加もあんな風に強気だけは天下一品の頑固さがあって……
普段大人しい女だったが、いざというときは瞳を輝かせてなぁ……。
そんな事……思い出させる女性にあったのも久しぶりだ。」
(おいおい……おふくろと重ねるなって言うの!)
隼人はそんな父に苦笑い。
しかし……『おふくろに似ているかぁ……』
父の思い込みとしても……隼人は母を良く知らないが
そうなってくると自分がやはり求めていた女性なのかと不思議な感覚に陥った。
複雑な心境だった。
とにかく……父はあの『爆走お嬢さん』を目の当たりにしても……
逆に、気に入ってしまったと言うところらしいので隼人はそれで良しとした。
それで……安心すると自分も妙に可笑しさがこみ上げてきた。
『いい? 少佐。お父様にしっかりご馳走するのよ。命令よ!!』
そんな生意気加減は誰を目の前にしても、
いざというときはやらかす彼女が彼女らしくて隼人も笑っていた。
(あーあ。アイツの台風にまた上手く乗せられちゃったなぁ)
一つ借りが出来てしまったと……隼人は風に吹かれながら
最後の一口を、波打ち際の白波を眺めながら頬張った。
『いやー! マスターご馳走様でした。美味しかったですよ♪
お店の雰囲気も良いですね〜懐かしい曲が流れているし!』
コーヒーのおかわりを注ぎに来たマスターに父は愛想良く話しかける。
隼人は、もう……お構いなし。
テーブルに頬杖をついて、安心したようなマスターと目を合わせて微笑んだ。