あと二日。少しでも前に進んでおきたい。そう思う隼人の足は基地中のあちこちへと動いている。
営業も楽ではなく、変な顔をされたり、鬱陶しがられたり。逆に反論を食らって追い返されることもある。そんな人々から言われる言葉も決まっている。――『旦那がそんなに妻に肩入れするのはイメージはよくない』と。
だがそこで隼人は言い返す。『夫の前に、元より側近であり、今でも大佐嬢の側近の心積もり』だと。だったら何故、工学科に異動を望んだと……。そんな議論を繰り返し、解ってもらえれば同意をしてもらえ、解ってもらえなければ『お話を聞いていただいて、ありがとうございました』で終わり。それで良いと思っている。
今日は少し肩の荷が軽い。そんな議論はおそらく無しで耳を傾けてくれるだろうと思っていたからだった。
本日の、澤村中佐の突撃先は『四中隊通信科』。小池中佐がいるところ。
「お疲れ様です」
「よう、お疲れさん。ひさしぶりだなあ」
静かに仕事に勤しむ男達を従えた隊長デスクに、眼鏡をかけたひさしぶりの兄さんがいる。
四中隊所属時には、大佐嬢同様、良く訪ねたものだった。そんな時、小池中佐はいつもかしこまったソファーへ連れて行かず、自分のデスク前に椅子を置いて向き合って話をする。大佐嬢も同様。肩の力を抜いたざっくばらんとした身内だからこそのスタイルだった。
隼人が工学科に異動しても同じ。そこに椅子を用意される。
そしてこれまた座った途端に、カフェオレが出てくる始末。葉月も言っているが『わかっているみたいにお茶が出てくることが多く、本当にびっくりする』とのこと。外れる日もあるらしいが、工学科に異動してからはアポイントを取ってから訪ねるのでタイミングもばっちりだった。
そんな席で小池中佐とお茶を挟んで、ひとまずの談笑。近況報告。
「今度の小笠原改編で、小笠原は空部隊と陸部隊にまっぷたつに編成し直すだろ。その時、通信科も陸の方に置かれるらしいんだ。そうすると一つの大きな部隊になるだろうから、もしかすると俺は小笠原に残れず、転属ってとこかな。岩国か横須賀か」
ついにこのお兄さんも小笠原を出て行くことになりそうで、隼人はため息を落とした。
「ずっと大佐嬢と一緒に様々な任務をこなして来たのに」
「小笠原自体が、フロリダの『任務で足りない人員の穴埋め部隊』みたいな感じだったから。その任務があるたびに、任務ごとに編成されてしまったから、空部隊も陸部隊もごちゃまぜになって、やっと今回の大改編」
「そうですね。俺も整備員のはずなのに、何故かシステムアップの任務にいかされたり」
「第一中隊はエリート陸部隊で小笠原の顔みたいなもんだった。第二と第三が空部隊。六中隊が教育隊。第四と第五は本当に『足りないものその時に詰め込んだ』みたいな形になっているところ、お嬢とジョイ、山中と海野、それに澤村君が『青年の登竜門』と言わせるまでの結託を任務ごとに切り抜けてまとめ上げてきたからこそ、今回の大改編がやっと巡ってきたと思うんだ」
そして小池中佐は、隼人に言い聞かせるように言った。
「これからは、空と陸でバラバラだ。いつまでも『一緒でやりたい』なんて言うなよ。ジョイと澤村君が四中隊を出て行ったのもそういうことだろ」
「……そうですね」
「だから。俺も小笠原に残って欲しいだなんて言うなよ」
覚悟しているから。そして俺も外に出て大きなところで新しく始めたい。小池中佐も既にそんな決意を固めている。それをこの日目の当たりにした。
「あの、本日はお願いがあって――」
言いにくいが、そう切り出すと彼が分かり切った顔で『ああ』とため息をついた。
「聞いている。海野と先頭に立って『署名』を集めているんだって?」
「はい」
その署名を集めているものを差し出すと、笑顔ではなく苦い顔をされた。
「うん。俺は同意だからサインしておくな」
「ありがとうございます」
丁寧に万年筆を引き出しから出してくれ、一覧に氏名を躊躇なく記してくれる。
だが最後に。万年筆のキャップをする中佐に言われる。
「誰もが後押しする気持ちはわかるよ。筆頭がコリンズ中佐とミラー中佐というのも心強いな。けどな……『あの人』には通用しないと思うんだ」
「ダメモト承知の、アピールのようなものですから」
「こういう『人の気持ち』が仕事に入り込むのことに嫌悪を持つような、そういうシビアな男性なんだよ。俺、訓練生の時に同世代で見ているから知っているんだ」
小池中佐のため息が再び。
「あの頃からめっちゃシビアだったぜ。普通、同期生だと仲間意識強くなるもんだけど、結果を出すためなら学生だからって容赦ない切り捨ても厭わず、無駄を嫌う。そういう主義の男だからな。なんつーの、親父さんの細川中将の方がおっかなくてもまだ奥底の人情が滲み出ている方で。息子、長男の方はそれもないロボットみたいな人だよ」
「ロボット――? うちの奥さんみたいな?」
「いや、会えばわかる。あんまりたてつかない方がいいぞ。様子を見てからにしたほうがいい」
署名書を中佐がこつこつと指でつついて、念を押した。
「それほどに厳しい方ですか」
二日後、その業務隊長がやってくる。細川中将の長男である『細川大佐、横須賀業務隊長』が。
「ほんっと。今まで小笠原にいなかったタイプだから、気をつけてくれよ。なんか胸騒ぎが止まらないんだよ。この前から」
だから。若い大佐嬢に、側近の達也、そしてどこまでも大佐嬢をたててサポートしている澤村が。若さを武器に大胆なことをして立ち回って、細川大佐に叩かれないかを心配してくれている。
その目で彼を見てきたというお兄さんがこの動揺ぶり。
通信科を出て、隼人は小池中佐が署名してくれた用紙を眺めた。目標数のまだ半分にも満たない。
それは、御園大佐嬢をこの改編に合わせ『女性でも将位へ』という運動に同意してもらう為の著名用紙だった。
思うほど、その仕事は進んでいない。その上、達也と共に発起人としているので一部では『家族近親者同士の私情だ』という批判も既に受けていた。
・・・◇・◇・◇・・・
そして。ついにその日がやってくる。
「横須賀本部にて、業務大隊本部長隊長である細川正義大佐だ。昨日付にて小笠原の業務隊へ転属という形で異動してきたばかりだ」
いつもの大会議室。そこにロイ中将を筆頭とした小笠原幹部が集合。金髪の若き将軍の直ぐ隣に、眼鏡の冷めた目つきの男性が座っている。
「大佐。挨拶を――」
今は未だ上司であるロイに促され、どこか不服そうな面持ちで黒髪の男が立ち上がる。
「横須賀から参りました細川正義です。よろしくお願いいたします」
たったそれだけ。その後の言葉を待っている会場がシンとした……。
他に自己紹介は無し。しかも愛想笑いも無し。すぐに着席をしてしまった。
それを横で見ていたロイが腕を組み、ため息。彼がマイクを手に持った。
「あー。既に存じている者も多いかと思うが。細川大佐は、数年前退官された細川良和中将の長男である。このたび、父親の中将の側に転居し退官後の中将と暮らしはじめたところだ。島内で分からないこともあるかもしれないので、生活面でも皆の協力を得られたらと思っている」
ロイのフォロー。そこは礼儀正しく、言葉少ない細川大佐は着席しているが深く一礼をする。
余計なものは要らない。そんな彼のスタンスを見せつけられた気になる隼人。
「では、早速――」
ロイの合図でリッキー進行の会議が始まる。
隼人は、もうすぐ退官するマクティアン大佐の隣で、工学科としてまとめた大改編に対する計画書を側に控えていた。その下には、影の側近としての最後の武器も。
今から各部署での大改編に対する計画と対処を提案する。隼人はマクティアン大佐と共にまとめたのだが……。さて、あちらの奥さんはどうしたことやら。離れた場所で同じ空部将校の第二中隊隊長マクガイヤ大佐と、今まではお目付で保護者役でもあった五中隊隊長のウィリアム大佐と手元の書類を眺めてあれこれ最終調整中のよう。
「まずは、業務隊より全体を改編する場合の提案書を今から配りますので――」
業務隊が大まかなアウトラインを提案する。それをみて、現場の各中隊、工学科や通信科の各付属小隊からの提案を出し合い、摺り合わせ調整していく段取り。それがついに始まる。
その一番の『アウトライン』をひとまず線引きして提案するのが業務隊。その中には人事もおそらく……。基地全体隊員達の予測は、フロリダからやってきた大御所の大佐達がついに帰る時が来た――と言ったところ。つまり、工学科で言えば老先生と親しまれたマクティアン大佐が帰国するのが決定しているように、第一中隊のフォード大佐やウィリアム大佐、もしかすると葉月が空部隊を指揮するのにとても頼りにしていたマクガイヤ大佐も帰国する内示が出るかもしれない。
だが。その書類が配られている最中、誰もが息を呑んだ。業務隊の説明へと移るその瞬間、マイクを握ったのは現業務隊長の中佐ではなく、今日初顔合わせが済んだばかりの、細川ジュニアだった。
「では。決定事項ではありませんが、小笠原を上手く整えるためにはこのようにするべきではという業務隊からの提案をご説明させていただきます」
隼人の目の前にもその提案書が来た。嫌な胸騒ぎ。これが小池中佐が言っていた、『胸騒ぎ』?
めくった提案書。つまりこれは『新任、細川ジュニア』の提案――ということになる。彼の初めての采配、しかも将来の連隊長と白羽の矢が立っている男の腕の見せ所。
会議室全体、それが脳裏に駆けめぐった男達がそれをざっと流してみた最後。誰もが息引く驚きの表情を見せた。それは隼人も――!! とんでもないことが提案されている! しかも男達の目線が一斉に、大佐嬢へとざっと集中した。
それはロイも驚いたようだが……。彼はふっとおかしそうに笑うと、隣にいる細川ジュニアに言った。
「なんだ、正義。おもいきったなあ」
そしていつもの大らかなロイの笑い声が会議室に響いた。
「なにか。可笑しかったですか」
そして彼の冷めた眼鏡の眼差しがロイへと降りていく。
だが隼人は震えていた。この細川ジュニア、誰の反応も構わず本当にやる恐ろしい男。そしてやっぱり葉月は彼に嫌われている。
何故なら――。そこに『御園葉月大佐、横須賀へ異動』の提案がある!
最後の人事欄に、細川ジュニアが提案したのは、全中隊長の総入れ替え。すべての隊長がそれぞれの新しい基地へ異動。その中に当然『御園葉月』の氏名がある!
他のおじさん隊長達は、もう重要ポストから降りていく年齢だから良いかもしれないが。葉月はこの小笠原でも動かぬ重要管理官だと見なされていたのに。なのに、その葉月が……!
ロイが再び笑う。
「御園大佐嬢を横須賀に異動とは、誰も予想していなかったんじゃないかー」
いかにも『それやると、お前も新天地で猛反発を受けるぞ』とロイが遠回しに言っているように隼人には聞こえたのだが。しかしあちら様も表情も変えずなんのその。
「でしょうね。ですが彼女は今でも十二分に優秀な将校ではありましょうが、いつまでも同じ基地では成長もされませんでしょう。ここはひとつ、優秀だからこそ大きな国際基地である横須賀へ。一年、二年、違う環境での経験も必要かと思いまして。それから小笠原に帰ってきてならば、かなりの戦力となることだろうと期待しての提案です」
「まあ、もっともだな」
ロイも言い返さない。誰も言い返さない。もっともな言い分を、冷たい横顔で淡々と説いた細川ジュニア。確かに、他の将校はそうして各地を廻ってきてステップアップしていくのだが。しかし『大佐嬢は優秀だから』と口では言っているし『今後に期待』と言っているが『帰って来もらう』などと断言もしていない。これはまさしく『都合良い追い出し』ということでは!? 隼人の心が熱く渦巻いてくる。
「ちょうど。今まで彼女を大事に育てられたフランク中将も卒業と言うことで、フロリダに帰られるのですから。ここは彼女も新境地で新たなる先輩と接していくのもよろしいかと。まだ若いことですし。本来なら岩国かフロリダにでも行っていただきたいところですが、これでも彼女の家庭環境を考慮し横須賀という近場で譲ったつもりでございます」
譲ったつもりとはなんだー! ついに隼人の心の中は爆発寸前までメーターの針が振り切る。
いや、俺――。落ち着け。もし葉月が男でも、大佐で隊長を担っているならあって当然の辞令でもある。これが家庭の男主なら、家族を引き連れて転居、あるいは単身赴任というところ。なのに彼女が女で母親で子育て中で、しかも夫と共に同じ基地で勤めているから『では。母として妻としての家庭環境を考えて、この辞令はなしにしましょう』というのは、やはり許されないのだろう。
ここでもし反論したならば……。隼人は手元に隠し持っている『署名書』にそっと触れる。……もし、これをこのまま提示してしまえば……、細川ジュニアに大笑いされるだろう。『女も将官に? でも女だから母として妻としての立場を考慮して定例の辞令は却下しろ?』。その矛盾に気がつかぬ夫で元側近だと大笑いされる。イコール、大佐嬢も笑われるわけだ。
――しまった。この署名書をいま提示すれば、『それなら夫も妻の昇進のために同意だな』と言われるに違いない。逆効果だと隼人は愕然とさせられる。
「――以上、業務隊からの提案です」
思わぬ切り込みを見せた細川ジュニアのやり口、隼人が動揺しているうちに業務隊からの説明が終わる。
提案書をロイがざっと眺めている。現連隊長がどうのような見解を発するのか、誰もが様子を窺っている。だが先ほどまで大らかに笑っていた連隊長も一変、中将としての厳しい横顔を見せている。
「どうした。次、進めてくれ」
細川ジュニアの思わぬ提案に、ロイはもうなにも言わなかった。
『いいのか。このままで』。誰もが無言で顔を見合わせた。
「では。次は――」
ホプキンス中佐が進行を続ける。各部署の提案、計画。陸部を担ってきた第一中隊フォード大佐も帰国予定。『最後の置き土産』としての陸部隊の改編を述べる。
その中、隼人は空部隊の大佐達と共にいる葉月を確かめる。解っているが、あの奥さんに『動揺』などあるはずもなく――。いつも通りの澄ました顔をしていた。むしろ側にアシスタントとして控えている達也の方が動揺している。何度か隼人の方を見て、そっと首を振り何かを暗に伝えようとしている。
解っている。達也も同じことを感じたのだろう。『兄さん。やばい。その署名書をいまは出すな』。きっとそうだろうと思い、隼人もそれとなく頷き返す。
そんな男二人の焦りなどなんのその、葉月は配布された提案書のページを何度もめくって繰り返し繰り返し内容を確認しているようだった。
「それでは。次は、空部隊の提案をどうぞ」
筆頭のマクガイヤ大佐の異動はまだ決まっていない。さて、空部隊はどう話をつけたのか。たとえ夫妻でも互いの部署でどのような計画を打ち出したかは内密だった。
だがここでも。思わぬ光景を幹部の男達は目にする。
「では、空部隊の提案を説明させていただきます」
マイクを握ったのは筆頭のマクガイヤ大佐ではなく、御園葉月嬢――。
「あちらも、若手に譲ることにしたんだね」
隼人の横にいるマクティアン大佐が小さく囁いた。だが、その老先生がマイクを持って立ち上がった葉月を見てどこか楽しそうな顔。
「これは、空部隊もなにやら大きく打って出てきたってことだな」
お嬢がなにかやる。ここで引き下がるものか。そう言いたそうな馴染みの老先生が、にやっと細川ジュニアを見た。
今度はこちらのなにをやらかすか解らない奥さんに胸騒ぎ!
そしてそれは、空部隊からの提案書が配られる間もなく、いきなり葉月が口火を切った。
「空部隊からの提案は改編と同時に、新たなるフライトチームの発足、いえ『雷神』の復活を提案いたします」
会議室全体がざわめいた。勿論、隼人も唖然とした――!
だが葉月は周りの様子も意に介せずとばかりに、先へ行く。
「発起人は、フライト雷神の元パイロット、シアトル湾岸部隊で空部隊長を務められております『トーマス准将』。その准将とかねてより計画してきたものを、この改編で小笠原のものにしようと考えております」
しかも。実際に『雷神パイロット』だった恩師がバック。お嬢ちゃんの無茶な暴走でハッタリ計画とは言い返せない状況に固めている様子。
葉月の側にいるマクガイヤ大佐もどこか得意げな笑みを浮かべている。あちらの空部隊隊長で密かに計画進行をしていたようで、隼人も絶句……。
それでも細川ジュニアはまったく動じず、変化はない。だがロイがまた笑う。
「ほう。伝説のフライトチームを師匠と共に復活させるか。しかもシアトル湾岸部隊空部隊准将殿は、その元祖雷神のパイロット。その大御所が動くとなると……」
ロイがちらりと細川ジュニアを見る。彼の反応を確かめたようだが、こちらはなんの動揺もなし。そしてロイは再度、マイクを持って向かっている葉月に投げかけた。
「だがー。大佐嬢は転属……という運びになっているが? その点、御園大佐はどうするつもりなのか」
義兄妹のように過ごしてきた兄様ではなく、ロイが一部下である大佐嬢に真顔で突きつけた。
葉月がマイクを口元に持っていく。その返答を皆が固唾を呑んで見守っている中――。
「空部隊があればどこでも立ち上げる所存です。ですが、わたくしの希望はわたくしを育てていただいた『小笠原』で。ちょうど、これからのベースを作ろうというところ。新しいフライトチームを組み込むなら今しかないと思っております」
「横須賀に転属――とあるが」
一時、沈黙し葉月はロイ中将に返す。
「致し方ありません。上層部にてトーマス准将とお話しいただき、『雷神第二隊』は何処で誰がどのようにして立ち上げるかお決めくださいませ。わたくしはそれに従うまで。あくまで、一大佐でございます故」
冷めた眼差しで淡々と言い切る葉月の言い分を聞き届けると、ロイが『くく』と笑いを噛みしめ肩を揺らしている。
「発起人のトーマス准将が御園大佐しかおらぬ――と言えば、この雷神第二隊とやらは、小笠原ではなく横須賀に行ってしまうってことか」
「最終決断は、上層部にお任せいたします」
その時、隼人は見た。『判断は任せる。どうにでも煮るなり焼くなりしてくれ』とばかりに、葉月が堂々とたきつけたのは現連隊長のフランク中将ではなく――。真っ直ぐに次期連隊長候補の『細川正義大佐』へと向かっていた。
それを銀縁眼鏡の、負けず劣らず凍った眼差しを大佐嬢に向けている細川ジュニアがいた。
甘ったれ姫を追い出そうとしている男と、甘ったれかどうか見てから言えとばかりに『小笠原に有益』となる大きな謀をひっさげて対峙する大佐嬢。
小笠原に有益になるということは、今後、連隊長を引き継ぐ細川ジュニアにしてみれば『おいしい話』ということになる。ここで葉月を追い出すと、それを逃がし横須賀に譲ってしまうことになる。
追い出すのか追い出さないのか、そっちで決めろ。葉月から賽を投げた。さあ、細川ジュニア。どう決断する? 今度、幹部達の視線はそれでも動じないジュニアへと注がれていた。
売られた喧嘩は買っておけ。火花など暑苦しいものは皆無、二人の冷気が会場を凍らせていた。
Update/2011.9.13