折り畳み式の机が並んでいる中、二人が入室をすると研修生達のざわめきがピタリと止まる──。
そんなあからさまに静かになった雰囲気も意に介さないといった様子の隼人は、葉月を入り口に残してサッと教壇に行ってしまった。
「ボンジュール」
隼人が教壇で生徒達に無表情に挨拶を一声──。
葉月も、もう──研修生達のそんな様子は気にならなくなり、既に『教官モード』にシビアに切り替わった隼人同様に、神経を講義に傾ける。
そんな葉月が、教壇に立った隼人からまずは感じ取りたい事は……。
(日本人の教官。どれだけの先導力が養われているかね?)
『ジャップ』とか『イエローモンキー』とか。
フロリダでもそう言って日本人はバカにされやすかったりする。
葉月も、ハーフの父に比べると“日本人寄り”の顔立ちなので、時々そうして見下される経験を何度かしたことがある。
そこも今回、澤村大尉に対しては『見所』として定めてきていた。
机が並ぶ懐かしい教室風景。
葉月もこんな風景にとけ込んでいた時代があった。
そんな教室を、目線で一回り眺めてみる。
まだ幼さが抜けきっていない葉月より若い青年達。
頬が赤い白人の青年。
身体がまだ出来上がっていない彫りの深い顔立ちの青年。
そんな青年達が、いっせいに入り口にたたずむ葉月に視線を送ってくる。
葉月がいつも警戒する眼差しで──。
「紹介しよう。本日から、このクラス、並びに他の研修でのために『日本小笠原総合基地』からいらした“ハヅキ=ミゾノ”中佐だ」
今まで、二人の間では当然日本語が標準語だった。
その彼が、急に流暢なフランス語を話し始める。
十五年いるだけある。葉月よりも、そして康夫よりも、ずっと綺麗な発音のフランス語。
もう、フランス人そのものと言ってもおかしくなく、葉月は見習わなくては──と、すっかり感嘆していた。
しかし、その感嘆の気持ちに浸るのも束の間──。
『ミゾノ』の一言に、やっぱり生徒達がどよめいた。
「ご存じの通り。フロリダ本部中将のお嬢さんだ。中佐はあの最新基地の中で、今は一個中隊の中隊長代理を務めておられる。さらに、一つのパイロットチームに所属していらっしゃる。フロリダ特別校の出身者でもあるので、みんなにとっても良い勉強になると思う」
隼人の紹介があんまりにも素晴らしいので、葉月は何処かに逃げたくなるほどだった。
「中佐」
だけれど、落ち着いて紹介をしてくれていた隼人が、急ににこりとした笑顔を見せる。
そして教壇の横に『おいで』と言ったような手振りで葉月を誘っていた。
つまり自己紹介をしろと言うことなのだ。
それは当然なので、葉月はたくさんの男性の視線に心の中では怖じけつつも、いつもの落ち着きで隼人の横に進んだ。
気のせいか? 隼人が、教壇の上から心配そうに見ている気がした──。
・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・
少し不安になる──。
あれほど警戒心を漂わせて、肩書きを嫌っているお嬢さん。『素直に自己紹介してくれるのだろうか?』と──。
康夫から聞かされてきた彼女を、隼人の想像のみで姿を描いていた時は、『周りの思惑など関係なく、とんでもない事を平気でやらかす』とも思っていたものだから、その点では未だ『未知数』だ。
何も起きない事を心で祈りつつ──しかし、隼人のそんな心情の大部分では、ここで『情けない姿』をされるという心配が勝っているのが『正直な所』だ。
なにせ、ここは気心知れた『島』でもなければ、なじみの『康夫』の前でもない。
中佐と言っても26歳の女の子ではないか? 昨日の『意地を張ったような彼女の嘘』を再び思い返せば、先輩としてちょっとは案じてしまう所だ。
若い訓練生の手前、さらに『これから彼女と仕事をする』と決めたからには、始めが肝心だから困る……。隼人は、固い表情のまま、立ちつくしている彼女を静かに見守っていたのだが──。
「小笠原から参りました、ハヅキ=ミゾノです。至らない『ただのいちパイロット』です。宜しくお願いいたします」
隼人の心配とは裏腹に……。
きちんとした声……その声がとても落ち着いた重みを持っていたが、でも、ちょっと甘美な響きを残していて……。フランス語も、そうつたないわけでもなく、はっきりと丁寧──。
彼女がそうして声を発しただけで、隼人はハッとさせられ彼女に見とれていた。
そこには、先程の打ち合わせで一瞬のまれかけた時と同様に、どっしりとした品格を凛と放つ女軍人がいたからだ。
『葉月は、時々、妙に人を引き込むんだ。あれはなんだろう? 持って生まれた素質かな。得なヤツ』
康夫がいつもそう言っていた。
彼は『ふん』とか言いつつも、そんな彼女に惹かれているらしい。
隼人は『それが、なんぼのもん』と、あきれて聞き流してきたわけだが──康夫のその言葉を、今、肌で感じた。
大げさだが……? ちょっと鳥肌が立った。
彼女と幾分か慣れ親しんだ隼人がそうなったのだから、当然、生徒達も、彼女が放ったものに、既にのまれているようだ。
先程まで『教育実習に来た新米教官?』と言うささやきを、隼人は耳にしたのだが、若い女性が隼人の紹介によって『幹部将校』と聞かされただけでも驚いただろうに、その後直ぐに目の前で、本人自ら発する『身分証明』の様な気品を見せつけられては、何とも戸惑うしかない──と、言った様子のようだ。
場内のシン……とした静けさ。
それに葉月も気が付いたのか、助けを求めるよう『大尉……』と、日本語で隼人に問いかけてきた。
隼人も、そこでハッと我に返る。
「ああ……。それでは、中佐はそちらへどうぞ」
隼人も、そそくさと教壇を降り、パイプ椅子をドアの前に開いた。
そして、そこに葉月を促す。
葉月が、そこにしんなりと腰をかけるところも、何処か『御令嬢』ぽい。
だから、日頃は女っ気が少ない生徒達も見入っていた。
(うーん。これが授業の妨げにならないと良いけどな〜)
生徒達の集中力は、一人の女性に集まってしまい、隼人は少しやりにくいと感じた。
これが女と仕事をすると言うことか? と、再び不安を感じてしまう……。
よく見ると、お嬢さんもやはり額に少しの汗をにじませていて、警戒しているのが判った。
そこで隼人は教壇に戻って指揮棒をのばす。そしてバンバン! と、教壇を叩くと、やっと生徒達が催眠から覚めたように隼人の方に向いた。
「では、一昨日の続きから!」
昨日はすっぽかす為に、勝手に自習にしてしまっていた。
葉月も、隼人の指揮棒の合図に従って、手元に借りた講義本を開く。
まとまらない、生徒達の集中力。まとまらない生徒達の視線。
隼人はそれを感じたのだが、彼女もそれに気が付いているようで、隼人に時々気兼ねした目線を送ってくる。
だが、隼人はそれを振り払うかのように、いつもの調子でいつも以上の気迫で講義を始めた。
・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・
葉月は自分が来た為に、講義室の空気がいつもと違う物になっているのだろうと感じていた。
だが、隼人は……『澤村教官』は、そんな落ち着かない状況にも構わず、ものすごいスピードで講義を始めていた。
黒板に走るフランス語で書かれた専門用語。
彼の口から流れ出る、早いフランス語。
確固たる教官の声に、生徒達が次々と教官が作り出すペースへと戻っていった──。
あっという間に、葉月を物珍しそうに見ていた視線は何処にもなくなり、生徒一人残らず、澤村教官の講義に向き合っていた。
そんなふうにまとまった生徒達の集中力はともかく──葉月は、その隼人の講義を進めるスピードに驚き、面食らっていた。
まるで、自分が苦労してついていったあの英才授業、フロリダの学生時代の授業かと思うばかり。
日本の『島』にも、叔父がいる日本のエリート校『神奈川・横須賀訓練校』にも、これだけの授業が出来る教官は熟練の『老教官』ぐらいじゃないか? と思いたくなるぐらい──。
それほどの勢いだ。
そうして戸惑っている葉月の目の前で──。
先程まで、葉月の方に集中していた生徒の意識を、隼人は『あっさり』と、さらっていったのだ。
(すごい……!)
今まで嫌だと思っていた注目を、こうも簡単に冷静にさらっていった隊員は初めてだと思った。
その上、『日本人のハンディ』は少しもちらつかせず、生徒達からも信頼の念が滲み出ていた。
生徒達の集中力が見事にまとまっていく……。
葉月は息を呑んでいた──!
もう、これで充分だ──。
ロイが何かしら調べて、埋もれた人材と認めたに違いないと納得をした。
だけれども……康夫が何故? 自分の補佐をする優秀な先輩を、ライバルの葉月にすんなり勧めてくれたのか?
大尉は何故? フランスにとどまっているのか?
あれほど立派な教官の心構えが言葉が出るのに、向上心が無いはずがない……。
(そういえば、遠野大佐……が。上に行かない訳を言おうとしないって言っていたわね?)
葉月は、ふと──亡くなった上司の言葉を思い出していた。
今度は、新しい疑問に辿り着いてしまった。
『それを、おまえが見届けろ。そして、説得をしろ』
(うーん、ロイ兄様……)
またまた……! 青い眼を冷たく光らせるロイ兄様のご指示が、言われてもいないのに頭をかすめる。
(ううーん。これはやっぱり、二ヶ月はかかるかも?)
葉月は、すっかり……澤村隼人と言う男に取り憑かれてしまっているようだ。
少なくとも『興味が湧いてきた』ことは間違いない。
その上、やっぱり一筋縄ではいきそうもないお兄さんの『説得』に気が重くなってきた。
そうして、ハイスピードの講義が進んでいく。
(これなら……。あの航空学書を織り込んだ濃密な授業も、余計なことにはならないわね)
このスピードに生徒もついていっているし、大尉の押しつけで終わらず、時間の無駄なく吸収されて行くだろうと、見定めて安心をした。
(立派だわ……! やられちゃうな〜)
葉月は久々に骨のある隊員に出逢えて、いつの間にか微笑んでいた。
これは、葉月が持つ軍人としての血がそう騒がせていた。
などと──感心ばかりしていた時だった。
隼人の流暢なフランス語が止まった。
手元のテキストも畳んだ。
まだ、終業時間でなく、生徒達も葉月も首を傾げてしまい、腕時計を見下ろした。
「せっかくだから。ミゾノ中佐から色々なお話を聞きましょうか?」
(えぇ!?)
葉月は隼人の抜き打ちにビックリ!
今度は隼人に試されている……!?
「どうぞ。お願いいたします。御園中佐」
隼人の笑顔が、人を試すよう『にやり』とした笑みではなく、この上なく『にっこり』笑顔だったので、よけいに怪しく思ってしまい、葉月は怯みそうになった。
しかし、ここで怯んでは『島』にいる中佐の名が泣く。
葉月は、ため息をついて立ち上がる。隼人がそれを見て、意味深な笑顔で教壇を降りた。
生徒達が少しざわめいている中、葉月は教壇に上がる。
表情を変えずに日本人らしく一礼をしてみた。
「何か……質問があれば」
話を偉そうにする気は無く、思うところをぶつけてもらおうと葉月はそっと呟く。
冷たい表情の葉月に、生徒達も戸惑っていたが……。
一人。金髪の青年が立ち上がった。
「中佐。初めまして。中佐はどうして軍人に?」
『島』の話でもなければ、『軍人』としての話でもない質問。
つまりは『女性』として何故なのか? と言う質問だ。
それが狙ってる範囲から出てしまっていると判断したのだろう? 隼人が口を挟もうとしていたが、葉月は教壇の上から手で制した。
今は『どんなにされても』葉月の心の中に『女性』という意識は薄まり、『中佐』と言う人格になっていくように慣れている。
その葉月の『姿』を悟ってくれたのか、隼人は直ぐに引き下がってくれる。
葉月はある意味『予想済み』で慣れている質問に、淡々と返答する。
「それは、皆さんもご存じの通り。私の家族はなにかしらこの軍に関わっていますから『自然に』……という所ですね」
これは本当の所は表向きの『いつもの答』であるのだが……。
金髪の青年は、それらしい答に納得したのか腰をかけた。
次にまた一人、席を立った。
「中佐は女性でありながら、何故パイロットに?」
「たまたま……でしょうか? 視力が良かったのもありますでしょうし、運良く適性検査も合格できましたから……」
「今まで、女性として一番ご苦労されたのは?」
どうあっても女性として軍人になったことにしか、興味が湧かない様子。
葉月がふと教壇から隼人を見下ろすと、彼は『失敗した』とでも言いたそうな渋い顔をしていた。
しかし葉月がそれでも落ち着いて対応していることには安心してくれているのか? 止めようともしなかった。
だから、葉月はそのまま──自分よりちょっとだけ若い彼等が欲しているだろう返答を、自分なりに告げてみる。
「苦労は、皆さんと同じに、同じ分だけ。女性だからと言って何ら変わりはありません。強いて言えば、やっぱり身体的なことでしょうか?」
『身体的』──。
そこにはやはり性的なニュアンスが含まれ、そして彼等もそれを感じたのだろう。
そこに急に過敏に反応し、生徒達がちょっと面白がり始めた。
「訓練校では、当然──! 男性と共に宿泊訓練も?」
ちょっとしたヤジの口笛まで聞こえ始めてきて隼人の表情が一瞬固くなったようだが、葉月はなんのその、顔色を一つも変えず、ざわつく若者達の前に向かっていた──。
・・・*・*・*・・・ ・・・*・*・*・・・
『訓練では男性と寝食を共にする』──。
そこで、なにか『面白い事でも起きたのではないか?』──生徒達が、女性の葉月に対して、『セクシャル』なニュアンスを含めた問題に身を乗り出している。
隼人としては、もっと……『大きな基地で、どのような軍人生活をしているのか?』、はたまた『どのような心積もりなのか?』、そんな事を質問して欲しかったのに、まったく! 子供じみたありきたりな質問を連ねた教え子に蹴りを入れたい気持ちになってくる!
それでも教壇の上にいる彼女は、無表情に動じてもいない。
ざわざわと浮き足立っている『男の子達』の様子もなんのその、あってないような顔を決めて、彼女が話の続きを淡々と始めた。
「勿論。そうでなければ、厳しい訓練を積んできた男性達に失礼で、不平等でしょう?」
彼女は、そこで初めて不敵な微笑みを、僅かに浮かべていた。
生徒達を逆に挑発しているようにも見えてきて、隼人は初めて──『じゃじゃ馬の片鱗』を見た気がする。
そんな『挑発的』だから、生徒の方も調子に乗り始める。
「それで? 中佐は嫌な思いは一つもなかったのですか?」
──女身で、どうやって男性の中で切り抜けてきた? なんかあっただろ?──
若い男性として、自然とそこに対して、一番に興味が湧いてしまうのは、隼人も同性として判る。
しかしこれは、はっきりと言ってしまうと、上官に失礼に当たる質問だ。
以上──隼人としては、『女性に対しても失礼』と、思いたい所である──だから……!
「コラ! 失礼……」
『……だろ!』と、隼人は身を乗り出したのだが、また──落ち着き払った葉月に手で制された。
そのロボットのような落ち着き振りには、流石に隼人も圧されてばかり。
彼女が『中佐』として、どのような姿を保ち続けてきたのか……もの凄く解らされた気がしてきた。
そんな彼女が、その姿で答え続けていく。
「勿論? 今の皆さんが『想像したような事』を……。一緒にいた男性達も思った事でしょうね?」
──あなた達のように、嫌らしい考えの男性は沢山いたわ──
そう言いたげな彼女が、今度は、にこりとした満面の笑みで、きり返していたのだ。
そんな『セクシャル』な質問に、動揺もせず、かと言って、ヒステリーを起こすわけでもなく──非常に余裕の笑顔で淡々と……。
生徒にも、その『嫌らしい男達』という嫌味のような切り返しは通じたらしく、グッと黙り込んでしまい、質問したその生徒は当然のように引き下がって椅子に腰を落とした。
今度は、眼鏡をかけたそばかす顔の真面目そうな青年が立ち上がった。
「それで。中佐はどうされたのですか?」
その青年の顔は、茶化しでなくて『心配』というか、女性が軍人としてどうあるべきか? と言うような、議論的な質問の仕方であった。
「真っ向から、勝負します。皆さんだってそうでしょ? 『売られた喧嘩は買う』。御陰様で、上官室に呼びつけられる常連でしたわ」
彼女が、ふっと眼差しを伏せ微笑む。
そんな『問題児的経歴』を告げる事にも、彼女は何も怯んでいない。
しかし──『売られた喧嘩は買う? 上官室の常連?』──隼人は、美しい栗毛をなびかす女の子が、そんなことをしてきたのかと、呆気にとられてしまった。
それに、何ともはや。『じゃじゃ馬らしいじゃないか!』とさえ思えてきた。
徐々にそんな『皆が言うじゃじゃ馬のイメージ像』が、無理なく目に浮かんでくる。
そして不思議と笑えてきてしまい、隼人はいつのまにか微笑んでいた。
生徒達も、品良い、か弱そうな女性が『真っ向勝負! 上官室に呼ばれるのもなんのその!』と、微笑みながら言うので、急にシンと静まってしまったようだ。
そこには既に彼女に圧せられ、ある程度の『畏怖』を抱き始めていると、隼人には思えた。
これ以上からかうと……彼女が真っ向から上官を恐れずに勝負を買ってくる、挑んでくる! そして勝負を挑んだ所で、彼女は若くとも先輩で、現役デビューを済ませたパイロットで、なんと言っても中佐──勝ち目が無いどころか勝負を仕掛ける自信がなくなったと言うところだ。
(ふうん! やるじゃん)
隼人は、相手が若いとはいえ、女性が敬遠したいだろう場面に対して、なんとなしに押さえ込んだ彼女の素質を垣間見たような気になってきた。
「あの……。島ではどんな訓練を?」
そばかすの青年が、やっとそれらしい質問を始めてくれていた。
(よしよし。そう言うのを待っていたんだよー)
隼人も、これを待っていたのである。
うんうんと隼人も安堵、頷いていた。
「こちらでしている事と変わりはありません。空母艦訓練を沖合でしたり。夜勤にて、スクランブル(緊急出動)に備えたり、色々です」
「中佐は、上空での気圧は女性としてどうお感じですか?」
「確かに。女性としてはキツイと思うこともありますが。日頃、先輩方のご指導によって筋力トレーニングをしていますので。男性でも体質的にパイロットになれない方もいますから、女性の身でなれたことは無駄にしないように心掛けています」
「島のメンテナンスチームはレベルが高いとお聞きしています。パイロットとして、島のメンテナンスチームはやっぱり最高のサポートだとお感じですか?」
そばかすの青年が真面目な質問を次々と飛ばす中、からかい加減の生徒達の表情も引き締まってきた。
隼人も満足。
質問の内容を聞く度に、さらに一人でウンウンと頷いていたりする。
「実は、私が所属しているチームは若手のチームで専属のメンテナンスチームはまだありません。訓練の際は、他の中隊からお借りしております。その中でも第一中隊はトップレベルで、フロリダ、フランス、イタリア様々なところから集まってきたエリートの固まりです。かえって、若いチームの私たちがお相手をしてもらっているような……そんな手際よさ、迅速さ、かなりきめ細やかな気配りが備わっております。若手で言うと、第二中隊のチームが、今、注目を集めています。皆さんもこれから、精進して行けば、もしかしたら島でお逢いできるかもしれませんね?」
彼女の満面の笑顔に、生徒達が隼人と同じように呑まれてしまっているのが伝わってきた。
(このお嬢さんときたら……)
隼人は、生徒と一緒になってゴクリと喉を鳴らしてしまった。
ただ、生徒達は彼女の笑顔に釘付けと言った所のようだが、隼人は少し感じたものが違っていた──。
隼人が感じたのは……あまり笑わないお嬢さんは、こう言う時に笑ってみせるのか!? と。
彼女が意識しているかどうかは判らないが、『ツボ』は心得ているのではないか? と、彼女の『無意識の計算』かどうかは解りかねるが、そう思いたくなる『笑顔』に思えてしまい……なんだか腑に落ちない気持ちと、恐ろしさが入り交じった複雑な気持ちになってしまったのだ。
いわゆる、営業スマイルと言うべきか──?
この後、生徒達は、真面目に今後の道しるべを探すように、彼女にフロリダのこと、島のことを尋ねていき、彼女も丁寧に答えていた。
その内にベルが鳴り、その日の講義は終わったのである。