1.大作戦?

 それは……あの妙な一夜から暫く日が経った頃……。

そう──真一が腕に銀色の高級時計を付けていたような?

それによって、葉月が急に裸足で飛び出した!

……と、いう隼人にとっては『奇妙な晩』……。

 

 調度……桜が満開で、いつもの日々に落ち着いてきていたので

そんな事も心の何処かでひっかかりつつも……。

 

 「少佐。そろそろ今日の仕事も終わりね! 平日だけど、たまには何処かに行く?」

中佐席から、長い栗毛の髪を大窓からはいる夕日に輝かせて彼女が微笑む。

その元気な微笑みが今、そこに存在するから……

だから──

「…………そ、そうだね? それもいいかもね!」

また……彼女の笑顔に侵されているようなもの?

葉月が隼人に微笑みかけてくれる日々は、なんら変わりないのだから……。

(そう──どうだって良いんだよ。来るときは来るはず……それまで……)

そうして、押さえ込んでいる頃だった。

 

 「今日は何処にいこうかなぁ〜? Be My Light? 玄海?

それとも? まだ、隼人さんが行った事ないちょっとお酒が飲めるところ♪」

どうやら……今日の彼女は外で気晴らしがしたい気分らしい……。

『外でお酒を飲む』なんて……滅多に自分から言わない女だ。

まぁ……隼人もどちらかと言うと、家でのんびり『晩酌派』

飲みに行くなら、男同士……。女と行くなら『特別な気分の時』

時々、ジョイと山中の兄さんや……時にはロベルトと仕事の打ち合わせで

近場の……あの基地内にある倉庫跡バーに行くことはある。

その時……、葉月は絶対に『恋人面』などして隼人に引っ付いてきたりしない。

『隼人さんのお付き合いでしょ? 男同士の邪魔したくないから』

サラッと平淡顔でさも当たり前のように言うのだ。

それでも、ジョイがたまに『お嬢も行こう! 行こう!!』と騒いで

山中の兄さんが『行こう! 行こう!』としつこく言うと

やっとこさ腰を上げる始末。

その時だって……絶対に隼人と腕組む、手を繋ぐ……隣りに座る。

そういう『恋人の匂い』は、ジョイにからかわれたって冷たい顔で絶対にしない。

隼人としては……『本当に楽♪』っていう所なのだ。

そんな彼女が……『ちょっとお酒が飲めるところ♪』と今日は来たので

隼人も少しばかり心の中で驚いたのだ。

いつも二人でお酒を飲むなら、やっぱり……葉月も『自宅派』なのか

あの丘のマンションのテラスで。

なんと言っても、あの素晴らしい夜海の景色が最高の『肴』である。

だから、わざわざ外に飲みに行かなくても、

そこで彼女と誰に気兼ねなく時間を過ごせるのだから……

これ以上の最高の『酒の席』など考えたことは無かった。

それでも……彼女が元気いっぱいそう言うのだから……

 

「……へぇ? 俺がまだ行った事もないバーなんかあるわけ?」

「うーん……まぁね? ずっと行っていないけど。

『若い時』は結構……ジョイとかデビーとかと行ったかしら?」

(ふーん。じゃぁ……『海野中佐』とも行っていたと言うことか)

隼人はおそらく『二十代前半』の事を『若い時』と葉月が言ったのが解って……

それなら……その男も一緒で

その時は今のような生活でなく若い者同志『活発な夜遊び』でもしていたのだと悟った。

そんな隼人のしらけた視線に葉月は気が付いた様子。

「ええっと。そのショットバーじゃなくても! 他にも落ち着けるところ知っているわよ?

でもね……そこ若い隊員が集まるんだけど……平日は少ないの!

それでね? 魚介の洋風酒の肴……美味しいのよね

マスターが若いから……そこの所のセンスが今風な料理って言うのかしら?

カクテルも美味しいけど……なんだか急に……そこの『鯛のカルパッチョ』が懐かしくなって」

「へぇ……小笠原の鮮魚のカルパッチョ! なんだかマルセイユっぽいなぁ!」

「でしょ! でしょ♪ そういうと思ったの♪

マルセイユ風たまには懐かしいかなぁ? と思って♪

それでね! マスターと隼人さんって話が合うと思うのよ!」

葉月がいつになく明るくそうはしゃぐのも……最近になってからだ。

徐々にそんな彼女が垣間見えてくる瞬間が増えてくるのが

今の隼人にとって一番の『最高の感触』だった。

だから……

(桜も綺麗だし……夜歩くのもたまにはいいかな?)

そんな春の訪れも手伝って

「じゃ。いこうか?」

「うん♪」

隼人の笑顔にも葉月は元気いっぱいに微笑みを返してくれた。

そんな話が終わると、途端に中佐の顔になって葉月は再び机の書類に向かう。

(……面白いギャップだな? それとも? 残業にならないように必死になったのかな?)

夕日の中で今度は、凛々しい顔つきの恋人に隼人はそっと笑顔をこぼした。

 

 

 さて──『あと、10分で定時だな?』と……隼人が腕時計を確かめる。

それでも、いつも『きっかり定時』は、隼人と葉月にはない。

どちらが早く終わるかはその日によって違うものの……

早く終わっても18時を過ぎることがほとんど。

遅ければ20時だって21時に終わると言う事もあるぐらい。

だが……お互いの手元の『事務処理物』は、

『飲みに行くには調度いい時間には終わる』程度の様だから……

そのまま、定時の『ラッパ放送』が流れてもお互い黙々と続けた。

その後、いつもの形通りの『終礼』が本部内ですんで……

──二人だけの内緒──

ジョイや山中の兄さんにはお互いに『飲みに行く』事は一切ちらつかせないで

一緒に中佐室に戻って……さらに追い上げの事務処理。

徐々に二人の頭には……

『鯛のカルパッチョ』が駆けめぐる程に……

だから、『お出かけのテンション』も高まって行く。

17時半が回る頃……。

 

 「おーす! 嬢はいるか〜?」

中佐室の自動ドアを怖じ気づくことなく当たり前に入ってきた金髪の男が登場。

「コリンズ中佐。お疲れ様です♪」

隼人はにこやかに、先輩にご挨拶。

「毎度、いらっしゃい」

葉月は、打って変わって事務作業をしながら冷たい歓迎。

まぁ……いつもの事ながら、葉月の『生意気な態度』に隼人は苦笑い。

そして、こちらも『毎度の事』、デイブもさっそくむっすりむくれて……

そう──中佐席に一直線に向かってくる。

「ずーいぶんな、歓迎だな!」

デイブがそうして、シラっと事務作業をしている葉月に食いつくのも『毎度の光景』

隼人はただ……苦笑いで眺めるだけ。

しかし──葉月の『シラッ』とした態度は、隼人も……

『いくら何でも……7期も先輩の中佐にあの態度はまずいんじゃないの?』

と──隼人もそれとなく釘を差したことはある。

だが──葉月は改めなかったし……

『いいの! デイブ中佐とはずっとそうだったの!』

葉月は隼人の『小言』をうっとうしがるようにして、避けてしまうのだ。

あまり、うるさい細かい男には隼人もなりたくなく……

暫く──様子を見ることにすると……『だんだん解ってきた』

そう──デイブは夕方になると、毎日とは言わないが頻繁に葉月の元に顔を見せに来る。

『目的』は、まちまち……。

『嬢! 残業か? 俺も本部の残務だ! 今からその前にティータイムだ!』

調度、終業時間と残務前の時間が重なって

休憩に向かう隊員が『カフェテリア』で混雑する時間なのだ。

その時間帯……班室にいる『コリンズチームパイロット達』が

残業にしろ、終業にしろ『集まる』らしいのだ。

これは『チームカラー』とでもいうのか?

とにかく自然に皆が集まるらしいのだ。

そこには当然必ず『キャプテン』がいる。

それで……デイブはここでも腰が重い葉月を『チームメイト』として誘いに来るのだ。

それが解った……。

解ったのだが……葉月はいつもそんなお誘いを『煙たがる』

だけれども……最後には渋々……コリンズ中佐に引っ張られて休憩に出かける事が半々。

その他は……

『今日のフライトのことだけどよ!』

なにやら資料を抱えてデイブがやってくる。

その時は葉月も『サブキャプテン』……側近の隼人にお茶を入れさせて

大人しく応接ソファーにてデイブと『ちょっとミーティング』

その他は……

『今日は飲みに行くぞ!』

隼人から見ると……この誘いに応じた葉月を見たことはなかった。

『なんだよ! なんだよ! お前はいつからそんな冷たい女になったんだ?』

デイブはいつもそうして葉月をまくし立てるが……

飲み誘いに関しては、ティータイムほどしつこくは誘うデイブでなく

ある程度勧めて、葉月がそぐわないようであれば無理強いしないところが……

大人の男……。男の先輩……。男の上司? といった感じで

隼人は感心していた。

そんな『デイブの目的』が見えてきた頃……

『お前さ? もっと柔軟になれないの?』

気むずかしい女中佐に気遣うそんな年上の男先輩の努力が涙ぐましくて

隼人が一度だけ、葉月にまた『小言』を言った事はある。

だが──いつも、ムキになって言い返す葉月がこの時ばかりは『無言』

それも、かなり冷たい視線で隼人を見流して……

部屋に籠もって出てこなくなったのだ。

(あ? 本気で怒った!?)

まだ、ムキになってくる方が扱いやすいと言う物……。

その晩──『ご機嫌直し』なる事を初めて試みて

葉月の部屋に何気なく入って……本を片手に隣りに寝床を陣取ってみる。

そして、ちょっと優しく身体に触れて『それとなく仲直り』をしようとしたのだが……

『今日は嫌』

色ない声で『キッパリ』、そう今まで以上に『拒否』されて……

どれだけ? 隼人も『ショック』だった事か……。

ある程度の『小言』は、葉月も『兄様側近の教え』として受け入れてくれるのだが……

──『柔軟になれないの?』──

……に、関してはなんだか隼人が触れてはいけない何かがあったらしく……

だから……それからは、さも当たり前に『小言』を言うのは止めた。

デイブから『毎度のお誘い』の『真意』を聞きたいところだが

葉月とデイブの長年の付き合いにこそ……

隼人も首を突っ込んではいけないと控えていたところだ。

そんなだから……葉月はデイブが夕方になって来ると『毎度冷たい』のである。

しかし──デイブも『毎度、めげない』

(今日もティータイムのお誘いかな?)

隼人はそう思いながら、葉月の事務処理を邪魔するデイブの言葉を待ってみる。

 

ところが? この日、デイブが言い出したことはちょっといつもと違った。

 

「桜が綺麗だなぁ〜。日本にいて『花見』をしないなんておかしいよな!」

そんな金髪・青眼のアメリカンが発した言葉に隼人は驚き!

「コリンズ中佐って……本当に親日家なんですね!」

隼人の反応にデイブは得意気、ご機嫌になった。

「だろ!? 俺は日本が大好きだ♪ だから、花見は絶対する!」

「流石ですね〜♪ いいですね〜♪」

別に先輩への『おべっか』でなく、隼人は本当に心からそう思ったのだ。

なんと言っても隼人にとっても、数年ぶりの『桜』である。

それはもう……桜が咲いて隼人の心も春爛漫準備万端というところのテンションなのだ。

そこで……デイブの『本題』が始まる。

デイブは葉月の大きな木造の机に両手をつき……

男二人の話も、聞こえないとばかりに書類に向かう葉月をグッと見下ろした。

「や・る・ぞ! 今年も! 嬢も来るな!?」

いつも以上の気迫が彼の青い瞳から注がれて……

隼人は一瞬『ヒヤッ』としたぐらいだ。

だけれども……やっぱりお馴染みの『パターン』

「そうですか。それは皆、楽しみにしますでしょう。宜しいことです」

言葉は肯定的なのに……ペン先から一向に視線を外さないその姿……。

隼人から見るといつも以上に……『拒否反応』が激しいような気がする……。

固唾を呑んで見守ると……葉月から言葉を発したのだ。

「また? 平井さんが『幹事』? いい加減、解任にしてさしあげたら?」

「他の奴に任せられるか!? 『真のジャパニーズお花見』を味わうなら

なんたって! 日本人にお任せだろ!?

俺は嫌だぞ! 洋酒煽っての洋風花見なんて!! ビールは別だ!」

(うわぁぁ……マジ、親日家?)

隼人はそんな日本語ペラペラのデイブが持つ『親日家ポリシー』に益々おののいた。

「平井が解任なら。他に幹事に適しているのは、だーれかなぁ♪」

葉月の態度も毎度『でかい』のだが……その為か、デイブも遠慮なし。

例え、お隣中隊の隊長室を訪問したとて……

その隊長の……大きな構えの席に腰なんかかけちゃって……

腕組み……葉月を『ニヤリ』と見下ろすのだ。

「いい加減。うちの『アメリカン兄様方』も日本花見に板がついたでしょうね?

誰が幹事やっても、務まるのじゃないのですか?」

唯一『純日本人パイロット』の平井が今まで幹事をやってきた。

その次ぎの『日本人』は、クォーターと言えどもやっぱり葉月も日本人だ。

葉月しかいないとデイブが言いたいところも、葉月は『シラッ』とはね除ける。

また……デイブがむっすり、空々しい葉月を見下ろした。

だが……まったく『めげない』 コリンズキャプテン。

「実は、お馴染み平井で既に『会場』は手配済みだ」

「そうですか。まったく……」

『まったく、人を脅かすような事ばかり言う』

と……葉月が続けようとして言葉を止めたのだと隼人はまた苦笑い。

「しかーし! 手配は平井がしたが、今年はプロデュースは俺がした♪」

なんだか、誇らしげに……また机に腰掛けて腕を組み胸張ったデイブに……

「キャプテンが『プロデュース』??」

葉月が初めてペン先を止めて反応する……。

しかし、眉をひそめていた。

「そだ。『なぎ』でやる!」

「なぎ!?」

葉月は驚き……

「なぎ?」

隼人は聞いた事ない『飲食店名』(だろう?)に首を傾げた。

すると……葉月が呆れたため息を途端にこぼした。

「……『なぎ』でお花見できるワケないでしょう? どうゆうつもりなのですか?」

でも……デイブはまだ……得意気な顔。

「あの? 『なぎ』って?」

隼人は恐る恐る……長年パイロット兄妹の間に割って入ってみる。

「ああ! 『なぎ』か? 勿論、サワムラも呼ぶからさ! 来るよな?」

デイブがやっと隼人にも声をかけてくれたのだが……

隼人はまだ……コリンズチームには属していない『流浪メンテナンサー』だし

上官の葉月が『行く』とも言わないのに首は縦に振れずに硬直してしまった。

いや……『デイブの狙い』は解っている……。

『サワムラが行くと言えば、嬢も来る!』

そう思ってのデイブの……先回りお誘いだと……。

しかしながら……デイブには申し訳ないが、隼人の感覚は

プレイベートなら、葉月を強引に引っ張って『出席』だが

こう職場で出来上がった話……しかもチーム単位のお誘いでは……

やっぱり葉月を立てるのが『筋』という感覚なのだ。

デイブは即答しない隼人にややガッカリした表情を浮かべたが

心情は男として汲んでくれたようで……またすぐに葉月に矛先が。

「それでな! 嬢ちゃん! 何故『なぎ』かというと……」

デイブがまた、机から降りて両手をつき『力説』の態勢に……

しかし──

「さて。私、本日用事があるので。急いでこの書類、五中隊に持っていかないと……」

今まで書いていた書類に『ポン・ポン』といつもの『隊長印』を押して立ち上がった。

「おい! 嬢!」

葉月はデイブの話もハナから聞かないとばかりに中佐席を離れて

デイブをかすめ、自動ドアに向かおうとしていた。

「こら! お嬢さん──せっかく中佐が!」

隼人もとうとう……葉月の態度に堪りかねて叱りつけようとすると……

デイブがそっと隼人の前に腕を伸ばして止めたのだ。

だから……隼人もそこは後ろに退いた。

「嬢……『なぎのオヤジさん』がお前に会いたがっていたぞ?

お前……ずっと行っていないだろ? たまには顔見せてやれよ!」

デイブがそう言うと……葉月が振り向かずに『ピタリ』と止まったのだ。

(んん!? そこの『オヤジさん』とどういう関係??)

隼人も妙な胸騒ぎを覚えて……眉をひそめた。

「漁村にあるのに……おじ様がいるところには『桜』なんて無いじゃないですか?」

葉月は、何かを『否定』したそうにして……また振り向きもせずそう反論。

『漁村』とは……この基地の裏手、小さな峠を越えた隣町の事である。

そこはこちら基地と違って、民間区域で雰囲気がまったく違う町並みなる。

しかも──漁村だけあって少しばかり寂しげな日本田舎な所であるのだ。

「なにいっているんだ? オヤジさんはな!

嬢が来るなら『店』をこっちの海岸公園に持ってくると張り切っていたぞ!

こっちに来てくれるよう『コリンズチーム貸し切り』に承諾してくれたんだぞ!」

デイブがそう叫ぶと……葉月は……

「そうなの!?」

ちょっと驚いて長い髪をなびかせてやっと振り向いた。

デイブもやっとそれらしい反応を見せてくれた葉月に嬉しそうに微笑んだのだが……

葉月はまた……ふてくされたような顔に戻って背を向けた。

「あー……忙しい、忙しい……」

そういってとうとう……自動扉を出ていってしまったのだ……。

「この! 小娘!!」

デイブの最後の声は……葉月に届く事はなかった。

隼人は……また、ため息……。

「本当に申し訳ないです……僕からそれとなく諭しておきますから……」

何故か隼人が、デイブに謝っていたりする。

だけど……そんな隼人にデイブは『にっこり』

「いや……いいんだよ……解っていたからさ……」

彼はまた中佐席に腰をかけてスラックスのポケットに手を突っ込んだ。

だけれども……そう、言いながらも、夕日が射し込む中でやるせなさそうな笑顔。

葉月の前では見せない……優しい顔だった。

同じ男として隼人はそんなデイブの気持ちが痛いほど解るから……

また……やるせないため息をこぼした。

「まぁ……嬢が『反応』したって事は『脈あり』と解っただけでも『収穫』だな

後は……週末までにチームメンバーとあれやこれやと手を打って……

なんとか嬢を引きずり出すさ」

デイブはそう言って机を降りた。

「僕も……差し支えなかったら協力は惜しみませんよ?

ここだけの話……彼女のあの『中佐に対する強情さ』……見かねているんですから」

隼人がそう言うと、デイブはまたいつも以上に『にっこり』微笑んでくれる。

「そりゃ……サワムラが協力してくれるなら嬉しいし、効果は絶大だろうな

勿論──頼むよ! ただなぁ……」

「ただ?」

「まぁ……昔の嬢の事、あまり掘り起こしてサワムラに迷惑かけてもな」

隼人は『昔の葉月』ときて……また『胸騒ぎ』!

「め……迷惑なんて……。アイツの事なんていっつも驚きばかり慣れっこですよ」

これはいつもの天の邪鬼。

本当は聞くのも怖い気がするのだが……聞きたいのも半々……強がったのである。

しかし……デイブはただ『にっこり』

「うーん……嬢から聞いて見ろよ。

俺も実際……何故、嬢がここ数年『出かけないのか』の真意は予想だけで

本当の『気持ち』は知らないから、余計なことは言えないんだな」

「…………」

隼人もそう言われては、追求しにくい。

「いよいよになっても、嬢が動かないようだったら……お前に相談に来るよ」

「も、勿論ですよ! とにかく僕からも動くように持っていってみますから……」

『デイブから相談』と来て、隼人としては、やっと『嬢の男』と認められたようで誇らしくなる。

デイブも隼人の『協力』にホッとしたようだった。

「ところで? 『なぎ』ってどんなお店なんですか?」

隼人が訝しそうに尋ねるとデイブが何故か大笑い。

「それぐらいは嬢に聞いて見ろよ。『レディの格落とし』と叱られそうだから

俺からは言わないようにしておくぜ? たぶん、そこは聞いて差し支えないと思うしな」

「なんですか!? それ??」

『女の格落とし』と来て隼人はまた『ヒヤッ!』とした……

──『謎の店:なぎ』──

葉月が、そこに行っていたのはどんな意味をするのだろうか!?

 

とにかく……隼人とデイブの『嬢を動かせ! お花見大作戦』はこうして始まったのである。