1.今日は厄日
真っ青な爽やかな空──。
マリンブルーに輝きだした小笠原の蒼い海。
サルスベリの真っ赤な花が、道沿いで南国の風に揺れている……。
そんな小笠原はもう夏真っ盛り──。
まだ本島では鬱陶しい梅雨の季節なのだが
南国島の花を隼人は目の前で初めて見て、また雰囲気が変わった土地に
心が、そわそわとしている時期だった。
「サワムラ君──、ウィリアム大佐に『出張』の提案、してくれたかな?」
暑い真昼の日差しが入り込んでくるカフェテリアの窓際。
勤務中で、人もまばらなカフェテリア。
真っ白な半袖シャツ、紺色の肩章……、夏服を爽やかに着込んでいる栗毛の男が
隼人の目の前で、書類を何枚もめくりながら、そう尋ねてきた。
「……まだ」
隼人も書類をめくりながら、そっと呟くと……
彼のグレーの瞳が、書類から外されて、向かい側でカフェオレをすすっている隼人に注がれた。
その顔は少しばかり……腑に落ちない渋い顔。
「まだって?」
長い足を窓際に向けて組んでいたロベルト=ハリス少佐が、納得いかなさそうに一言。
「……うーん……」
隼人が唸っていると……ロベルトは書類をテーブルにそっと手放して
腕組み、隼人を厳しい眼差しで見つめたのだ。
隼人もその険しい眼差しに気が付いて……ハッとしてコーヒーカップをテーブルに戻す。
「ごめん……ロベルト。別に……気が乗らなくて申請をしていないわけじゃ……」
「じゃぁ、なに? もうだいぶ前から、僕は君に頼んでいるのに?
ハヅキだってそろそろ大佐として落ち着いていると思うけどな?
ハヅキに先ず、話を通して、ウィリアム大佐に申請して許可得ないと話が進まないじゃないか?」
「……そうだけどね……意外と落ち着いていないかもね?」
隼人が疲れたため息をこぼすと、ロベルトが今度は首を傾げる。
「それって……ハヅキが『大佐業務』に慣れていないって事?」
「いや? ……慣れていないと言うか……『手一杯』と言うところだね?」
葉月が大佐になってから、二ヶ月が経とうとしていた。
この間……今まで四、五中隊のすべての『指揮』を手にしていたウィリアムが
徐々に少しずつ……四中隊ですべき、決めるべき業務の『全責任』は
『葉月がするように……』と、手放しはじめるようになったのだ。
本当に、葉月が出来る範囲から一つずつ、少しずつ。
だけれども……
『流石、お嬢だね? 飲み込みが早いね』
穏やかなウィリアムは、葉月がものの見事に一つづつ手に慣らして行くので
そこはとても『安心、満足』しているようなのだが
葉月としては『プレッシャー』の他、なにものでもない。
『慎重』に、『確実』に──。
それをこなして行く『緊張感』と『責任感』は今まで以上の物なのだ。
この二ヶ月……その『小さな一つずつ』が、徐々に積み込まれて来たのだ。
それは……『葉月がこなしている成果』でもあるから、増えて行くのだ。
出来ないのであれば、ウィリアムは無理に葉月に業務を移行しないはずだから……。
『訓練復帰』どころか……
『業務中心』の日々に振り回され始めている。
その上──。
『そろそろ復帰したいのであれば、先ず、筋力トレーニングから始めろ』
とうとう……訓練監督の『細川中将』から葉月にそんな『通達』が出た。
葉月は、内勤業務よりかは『訓練復帰』が一番待ち望んでいた事。
そこも……
『私、業務が忙しくても、トレーニングもやる!』
と……これまた背負い込んでしまって、
細川が手配したという陸教官の指導の元にて
朝は『トレーニング』に二時間ばかり出かけてしまう。
そんな忙しい彼女に……『メンテの〜』と言う『部下としての相談』をする隙を逃していた。
そこは……隼人も『やるべき業務』なのだから、
たとえ、恋人といえども仕事として彼女の今の環境に『遠慮』するべき事ではない……
……事は、解っているのだ。
ただ、側近として『上司のペース』という物を乱すのはどうだろうか?と、
そこで様子を見ている段階だったのだが……。
「解ったよ、ロベルト。本日中に何が何でも御園に話をして、ウィリアム大佐に伝えるようにする」
隼人が、いつもの真顔でサッと、迷いもなく心を決めると……
ロベルトが、心配そうに隼人を見つめる。
「悪かったよ……。やっぱり、ある程度はハヅキもサワムラ君も大変だって……解ったし」
「いや。少し様子見をしていたけど……やっぱり、『俺達のやるべき事』を後回しにしては、
後々、俺達の業務遅れが、御園大佐の負担になることもあり得るし……。
いつまでも俺も『上官の様子見、チャンスを伺う』なんて、私情だとも思うしね」
「僕は……そこまでは言っていないよ?」
「……いや、ここでとりあえず、お嬢さんに一度は申告して様子を見るのも
ひとつの『様子見』の手でもあるだろうしね?」
「…………」
『メンテ候補員』のプロフィール表を束ね始めた隼人の『素早い切り替わり』に
ロベルトは言葉も失ったようで……黙り込んでしまったのだが……。
「……判断は流石だと思って……サワムラ君に言っておこうかな?」
ロベルトが……ちょっと言いにくそうに……セットしている栗毛を片手で撫でる。
「なに?」
隼人も……急なロベルトの戸惑うような変化が気になって、
書類を束ねている手を止め、彼を見つめ返した。
「毎年、あるだろ? 『記念式典』……『一般公開』が……」
「ああ……。小笠原基地は……毎年10月にあるらしいよね?
俺は……去年は試験があったから、特に何かに参加するって事はなかったし……
印象薄かったんだけど……。いわゆる、軍内文化祭みたいな感じだろ?
うちのお嬢さんも、ああいう事は若いジョイなんかに任せて、首は突っ込まない質みたいだね?」
『それが?』……と、隼人は神妙になったロベルトに問い返してみる。
「だけど──参加要請みたいなのが出たら、『文化祭』程度の心積もりでは済まないと思うけど?」
「……どういう事?」
ロベルトの遠回しに何かを伝えようとしているのは解ったが……
何が言いたいのか……隼人は解らなくて眉をひそめる。
「自慢じゃないけど、去年は僕のメンテチームは『それ』に参加したよ。
『ハサウェイ第三編成隊』のサポートでって言えば解るかな?」
「ハサウェイ中佐のフライトチームと? ああ……『航空ショー』の事か……。
あ。そうなんだ──去年は、ロベルトのチームが航空ショーのフライトチームをサポートしたんだっけ?
あの頃は、ロベルトと知り合ったばかりだったかなぁ?
そこまで航空ショーの背景を意識していなかったかな?」
「呑気だね? というか……」
「俺が呑気? 確かに、マイペースかもしれないけど? 何が言いたいのさ??」
隼人は益々訝しい顔でロベルトに詰め寄った。
ロベルトはまた……腕組み、呆れたため息。
「僕がね……四中隊のメンテチーム結成を少しでも急いでいる訳……なんだけどね?」
「……訳?」
「ハヅキが大佐になった。任務で活躍したフライトチームが所属する中隊長。
僕たち、空軍キャプテン達の『噂』を君は知らないんだ?」
「……キャプテン達の『噂』?」
「そう。もしかすると、ハヅキは予感しているかもしれないけど……
顔に出さない質だからね……。
だけど──『コリンズ中佐』は確実に『気が付いている』様だけどね?
残念なことに……サワムラ君は、今はサポートメンテ員だから……
そういう噂……耳に入ってこないのかも?
元より? 上層部の『意向』はまだハッキリしていないから? 僕たちも大きい発言は避けて……
キャプテン同士内々で言っているだけだから……」
「──!? ちょっと……待った!」
隼人は……ロベルトが『ハッキリ発言』をせずに遠回しに伝えようとしていることが
やっと……解って……。
そして──
『絶対、来月、訓練復帰するの!』
そんな風に意固地とも言えるような意志の固さで『トレーニング』も
一日のスケジュールに組み込んだ葉月の意気込みと重ねて──。
「ええ!? まさか……『コリンズチーム』が!?」
『今年の航空ショー候補』
──と、ロベルトが言いたいのだと解って思わず、隼人は立ち上がりそうになったほど!
そんな隼人の仰天的驚きに、ロベルトは一瞬たじろいで……
『声、大きいってば!!』と、立ち上がりそうになった隼人の肩を
長身の彼が押さえつけて、席に無理矢理座らせた。
「ええと、えっと──……」
額に手を当てて、考え込む隼人の慌て振りに、ロベルトはまた……ため息。
「……本当に知らなかったんだ。意外だな? でも……これで解ったでしょ?
つまり──10月の航空ショー……コリンズチームに決定した場合、
やっぱり『ニューサワムラメンテ』がそのサポートチームとしてデビューしても良いんじゃないの?
僕がもし、サワムラ君だったら、そうしたいし……。
一緒に仕事をしているからには……そうして送り出したいチームだから協力しているんだから」
「……!!」
『俺のチームが航空ショーでデビュー??』
もう……本格的結成に関して……『最終決断』を迫られている事に隼人は初めて気が付いた!
そして……『キャプテン達の噂』には、まだ、自分が入っていないショックもあったし……。
ロベルトのその友情的、同僚的気遣いをいつまで経っても甘えていた自分にも……
『ショック』だった……。
葉月にしても……またもや『予感』はしていて、『自己推進』を始めている。
なのに……彼女は『早くメンテチーム作りなさいよ。いつまで、ゆっくりしているのよ』
なんて……一言は上官としてだって言わない。
と、いうのも──
『隼人さんなら、ちゃんと判断してやってくれる』
という……『信頼』あって任せた『仕事』だから『口挟み』をしないのだと解っていたのだが、
それなら……なおさら!
(俺……ちょっと、のんびりしていたかも!?)
ロベルトという『先輩』がいなければ、航空ショーのチームが決定して
慌てて結成したチームの指揮を隼人は取ることになっていただろう……。
隼人は書類をまとめて……さっと残りのカフェオレを口にした。
「サンキュー。ロベルト『先輩』! 危うく、飛んだ事になるところだった。
もう、大佐嬢様の様子見なんて甘いことはやるべきじゃないね……俺が間違っていた!」
「だから……そこまで僕は言っていないって」
ロベルトは、また、困ったように笑うだけ。
「とにかく──今週中には、上に話を上げるよ」
「サワムラ君が動くと早いからね……間違いはないと信じているよ。
だけど……『噂』だから、あまり早急な計画に変えても損するから、気を付けてね」
「……」
ロベルトの『キャプテン』としての『見解』に、隼人は脱帽するばかり……。
(俺なんかが『中佐』でいいのかな?)
隼人より、少しばかり年上の……落ち着いた栗毛の先輩の肩には……
つい最近まで自分がつけていた『少佐の肩章』
そして──自分の夏シャツの肩にある紺色の肩章、その紺地に輝く金色の星二つ。
(これに恥じないように俺も頑張らないと……)
『キャリア』は先輩少佐には適わないと解っていても……
せめて、それに近い所に隼人は急いで行かねばならない『課題』を……
この星二つの地位を得たときから突きつけられている事に改めて気が付く。
『葉月、お前が正解だ!』
業務も訓練復帰も抱え込んだ葉月の『無茶』に呆れていたのだが……。
それでも彼女は『前に先に走り始めていた』
そう思う方に今、転換した。
隼人とロベルトが次の『打ち合わせ日と場所』を、早口で交わし合っているところ……。
「うん? 今日はカフェテリアで談合か?」
書類を束ね終わったテーブルに一人の金髪の男性が現れた。
後ろには眼鏡をかけた黒髪の青年がひっそり静かに微笑んで控えている。
「フランク中将──」
そう、夏服ではない長袖のいつもの立派な制服を着込んでいるロイと
同じく、長袖制服にてロイのお茶に付き添ってきただろう水沢少佐だったのだ。
隼人はロイを見上げて、いつもの笑顔をこぼすことが出来たのだが……
ロベルトは途端に……緊張して『起立』
「お疲れ様です! 連隊長!」
起立正しく『敬礼』
(あ、そうだった……)
隼人は、『しまった』と思ってロベルトに遅れ馳せながら、
同じように素早く立って、敬礼をする。
(いけないなぁ……どうも? 葉月の『兄様』という感覚が強くなってしまって)
何もかもが、ロベルトに出遅れてしまって本当に『自己嫌悪』
そんな反省の中……
「なんだ? ハリス、そんなにかしこまらなくても構わないぞ?
俺と同じ訓練校出身の同世代じゃないか?」
ロイの『冷徹な顔』なんて、本当は連隊長として大事な時だけ……。
それを隼人は既に知っているから、つい……『兄様先輩』という感覚が先走る。
だけど……馴染みないロベルトとしてはこの基地で一番のお偉いロイは雲の上の人に等しい。
基地内では『ロベルトが正解』
だけど──ロイとしては、本当は『冷徹とは、肝心なときだけ要する物』という所も
心の隅に置いていることを隼人は知っているのだ。
だから、普段は若い隊員達の『筆頭兄様』でいようと彼もしていることは──。
その証拠に……ロイはロベルトが束ねた書類を手にとってしまい──
「あ、あの……それは……」
ロベルトはまだ、直属上司に上手く伝えていない『計画』だったので戸惑った顔。
でも……
「ふーん。だいぶ、進んだようだな……」
ロイはパラパラとロベルトが作成した『計画書』を、穏やかな眼差しで眺めている。
だが……
その穏やかな顔の裏で、どれだけの素早い判断がされているか……
それは隼人も……息呑むところ。
そこがロイの『実力』と、痛切したこと何度もあったから……。
ロイは『計画書』の次は……隼人の前にある『候補員プロフィール』を手にした。
「ヒロム、これ……リッキーに渡して『正確』なデーターかチェック出来るよう回してやれ」
「イエッサー……中将」
眼鏡をかけた穏和で静かな水沢少佐が途端に、引き締まった顔。
「え!? あの? 中将??」
隼人とロベルトは、思わぬ事で思わず、ロイに呟いた。
「ハハ! まぁ、任せておけって。 どうせ、葉月は今、それどころじゃないだろうしな?
ああ、葉月に内緒にな? ウィリアムには伝えておくから安心しろ」
「わ……ちょっと、待って下さい! 中将!」
隼人としては、やっぱり『葉月を入り口』として進めたいところなので
背を向けかけたロイに責め寄った。
ロベルトは……もう、逆らう気がなくて、不本意でも止める意志はないらしい……。
「なんだ? 『こっち』としても『早急』にと、思っているんでね。
少しばかり遅れているようだから様子見に来ただけだ。
ま。計画は的確だから安心したぞ」
ロイが途端に『冷たい顔』に──。
『こっちとしても早急』
その言葉とその冷たい顔に隼人もやっと……動きを止めた。
そして──ロベルトと顔を見合わせた。
『噂──本当かも!?』
「リッキーからウィリアムにデーター結果は返しておくから、
ウィリアムから連絡があってから取りに来ればいいだろ? それまで借りるぞ。
ああ、それとな? 隼人。気持ちは解るがな?
葉月の事、後で自分を飛ばされたと知って俺に突っかかって来そうだが?
『訓練重視』で躍起になっているようだから、良い『薬』になって慌てるだろうさ?」
『行くぞ、ヒロム』
ロイは、『ニヤリ』と余裕で微笑みかけて……さっと水沢少佐と去っていってしまった。
「あー。しまった!」
隼人は、急激に襲ってきた『呑気のしわ寄せ』の様な波に打たれた気分で
ガックリ、テーブルに手をついてうなだれた。
「ああ、でも……あそこまで言ってくれたら、安心だね」
ロベルトは、もう、逆らう気はなくなったせいか、今度はこちらが穏やかな笑顔……。
「今日、俺が……ウィリアム大佐までに話が行くようにと、決心したところなのにな〜」
隼人としては、ロベルトにお尻を叩かれて
『さぁ! 今から早急にやりこなすぞ!』と意気込んだ所……
『まだ、手遅れじゃない!』と、安心してだからこそ……早めに進めようと意志が向上したところ……。
なのに──
『遅いから、俺が流れを作るぞ。後に出来た流れはそっちで掴めよ』
ロイに『遅い宣告』を出されてしまったのと同じなのだ……。
しかも──
ロイは隼人の『お嬢さんの様子見』でちょっと立ち止まっていた所で先をせかして
書類を取り上げた。
その上……
その『お嬢さんの様子見』で甘やかす側近の『甘さの隙』を縫って
『業務大事』から『訓練第一』に傾こうとしている葉月の『アンバランス』に
ハッパをかける事にもしたようだ。
(うわぁ……やっぱ、適わない!)
隼人は絶句するしかない。
しかも、『目が覚めた』
「今日は厄日か、俺!」
「ヤクビ?」
隼人が日本語でふてくされると、ロベルトが首を傾げた。
「アンラッキーデーって事……」
「アンラッキー? 他に何かあったわけ?」
「ま、まあね?」
隼人は疲れたため息をこぼし……朝方のことを思い出す。
それとは別に『妙な台風二号』にも実は鉢合っていたりするのだ……。
『台風二号』に鉢合わせたのは……この日の朝の事──。
「葉月。化粧まだなのか? 早くしろよ?」
「解ってるわよ〜。せかさないでよ!」
相変わらず、朝、バタバタと支度しているのは女の葉月の方。
隼人は、彼女より早めに起きてシャワーを浴びて……
朝食を作って、制服に着替えて……彼女を起こして……
一緒に短い食事をしても、残った時間は新聞を読むか、パソコンを立ち上げる余裕があった。
バスルームにある洗面台に向かった葉月を見て、隼人はため息……。
テラスにセットしてあるノートパソコンを、仕事場に持っていくために
布製のバッグにしまおうと向かった。
カフェオレカップを片手に持って……バッグにしまおうと思って腕時計を眺める。
『まだ、大丈夫かな?』
葉月の見繕いは、まだ時間がかかるし、出勤までまだ間があった。
だから……
『メールチェックしてみるか』
そう思って、テラステーブルの椅子に腰をかけた。
(何処かから来てるかな〜?)
隼人はここ数日、返事を書いた相手を色々と思い浮かべた。
まず、返事が来るとしたら……
いや、来て欲しいなぁ? と、期待していると言えば……『雪江』
『康夫がだいぶ良くなりました。お返事遅れてごめんなさい。
私のお腹も、8ヶ月に入りました。康夫は動くお腹を触ってくれて、今か今かと待ちかまえ……』
そんなメールが先日届いて葉月とまた、喜んでいたところ。
康夫自身のメールはまだ来なかった。
康夫の性格なのだろう?
『自分が書くと、隼人兄と葉月が余計に心配するから……雪江、お前が間接的に伝えてくれ』
彼がそう言っているような気が隼人にはする。
葉月もそう言っていた。
『康夫の事、弱々しい事書いたりするのが嫌なのよ』
こちらの『解釈』は、相変わらず『ライバル』らしくて隼人は苦笑いをこぼした。
その次は……
『兄ちゃんへ
母ちゃんが、英会話の講師、張り切っちゃって大変!
ま、その代わり塾に行け!って言わなくなって大助かり♪
っていうか……辞めさせてもらったけどね!』
弟『和人』から来る『実家近況報告』……。
そんな最近のメールを思い返しながら……メールチェック。
『お! 何か来ているゾ〜』
受信されたメールが数通。
いつものダイレクトメールに、登録しているメールマガジン……。
だが……隼人の『期待する返事』は来ていないようだったが?
『ん!?』
一通……ダイレクトメールにメルマガとは異なるサブジェクトのメールがあった。
眼鏡をかけて、そのサブジェクトを確認する──。
『このやろう! 俺だ、俺!!』
『え?』
日本語でそう表示されているのだが──??
思わず顔をしかめて……隼人はモニターに顔を引っ付けるほど……
何度もそのサブジェクトを確認してしまった!
『悪戯??』
そう思いたかったのだが……アドレスの部分をよく見てみると。
『ultra-tatuya』
(ウルトラ?……タツヤ?)
「達也!?」
隼人はビックリして暫く……硬直してしまった。
それが今朝方の『厄日』の始まりを告げる一つと言えば……
『達也』に失礼とは思いつつも……そういう驚きが朝からあったのだ。
葉月の台風に似た男、『台風二号』の来襲?
それで隼人は調子を崩してしまったのか?
朝から葉月にも呆れられるほどの事を繰り返してばかり──。
『あー……なんかヤな予感』
そう思っていたところだった。
それは的中?
ロイに仕事は手を出されるハメになり……
フロリダから『台風二号』のメールが来た。
まぁ──この際、達也が送ってきた内容は『たいしたこと』はなかったのだが?
『返事……困ったな?』とは、思ってはいるのだ。
しかし──隼人を取り巻く『台風』は、まだ、こんな物ではないことは……
隼人も……知るところではなかったのだ。
『俺、今日は厄日?』
そんな朝からの出来事をテーブルでうなだれて考えている隙に……
ロベルトはロイの『こっちも早急』と言う言葉で
益々『確信』したのか? ロイを味方に付けたと安心したのか?
隼人とは打って変わって落ち着いて笑顔だった。
「じゃぁ……また、三日後に」
今回はウィリアム大佐からの返事待ちとして
三日後に『談合日』を設定してロベルトと別れた。
「あーあ。 なんか俺、今日の歯車、変な噛み合い」
『台風二号』の話は……また別件にて考えることとして……
隼人はため息をついて……本部まで重い足取りで帰ったのだ。