48.男性陣再起

 「けだもの! すぐに仲間が囲みに来るから!」

葉月がジタバタと暴れても……

「暴れると綺麗なお肌を切ってしまうだろ? 大人しくしてくれないかなぁ?」

孫に両足首を両手で固められた!

彼が手に出したナイフでブーツのヒモを素早く切ってしまった!

足首は孫に固められて膝は大男のゲイリーに固められる!

『ザク!』

ゲイリーのナイフが紺色の生地を裂いた音が聞こえた!

急に葉月の足に風が当たる気がした……。

そう──ゲイリーが器用に紺色のパンツの縫い目を裂いているのだ。

左右の足の横を綺麗に裂かれて葉月の太股が露わになる!

『うう……』

そうかと思えば……

「なんだ……良い足しているじゃないか?」

林の冷たい肌が葉月の頬に寄せられる!

彼の妙に輝く黒い瞳が仲間2人が群がる葉月の足を眺めていた。

その上……林は葉月が着ているジャケットのボタンをナイフで飛ばしていく!

『ああ!!』

彼の素早いナイフさばき……!

ジャケットの前が開くと今度は黒いカットソーを腹から首に向けて

一直線に裂かれてしまった!

「へぇ! 綺麗な白い肌してるじゃん! 海兵員とは思えないな!!」

孫の手が葉月の足を這っていき……

葉月は『ゾ!』として身体中に鳥肌を立てた。

だが……ゲイリーは葉月のアーマーパンツのベルトを切って

床に切り裂いた紺のパンツを捨てても妙に冷静で孫のように触ろうともしなかった。

「林──俺はこのサファイアで結構だ。気に入ったんだろ?

久振りだな? お前が女に興味を持つなんて」

ゲイリーは『海の氷月』を指でつまんで林に微笑んだ。

ゲイリーがそう言った途端に……孫もなにか我に返ったように葉月の足から離れた。

「ちぇ……なんだ、俺が先に気に入ったのに……

じゃぁ……俺は『ピジョンブラッド』で我慢しても良いぜ? 兄貴──」

「悪いな。孫、ゲイリー……

俺は腕の立つ『女』をしつけるのが好きだ。

作戦は失敗したが……良い手みやげを見つけた気分だ……!

今ここで、お前を間近で見て益々気に入った……『今回の戦利品』だ!

資産家軍人の……将軍の娘……強請るには最高だしな!」

『くぅ──!!』

林に背中から抱きすくめられて葉月は身体をよじった。

その隙に……

葉月が握りしめているルビーは強引に孫に奪われてしまった……。

『ひゃー! こんなルビー初めて見た! 億は行くぞ!』

鑑定を済ませた孫の顔が輝く!

「すごいアンティークだ!」

孫の喜びように流石のゲイリーと林がそのルビーを恨めしそうに眺めていた。

その視線に気が付いた孫の得意気そうな笑顔は兄貴に向けられる。

「いいのかよ? 兄貴?? その女くれたらルビーと交換しても良いぜ?」

「さぁな? 飽きたら考える」

「はは! ひどいなぁ〜兄貴ったら……お下がりはゴメンだぜ?」

「まぁ──最初は手こずるかも知れないが……林が堕とせない女はいなかったからなぁ」

ゲイリーが意味ありげに、ニヤリと葉月を見下ろした。

そして……孫も……

「兄貴のような色男なら、お嬢さんもいずれ満足するんじゃないの? 所詮、女さ」

孫も……いかにもその内葉月が林に屈するのを確信したような微笑みを……。

『フフ……』

林が葉月の耳元で笑みをこぼした。

彼は葉月の肩越しから……露わになった肌を眺めている……。

(バカ! 誰がアンタなんかに! 隼人さんにだってやっとだったのに!!)

『絶対に屈する物か!』

葉月は背中で密着して離れない林にそれでも力を込めて抵抗した。

だが……男の力……闇の男の力……。

「ゲイリー、テープをくれ」

「オーライ……」

ゲイリーが太くて黒いガムテープのような物を林に投げ渡した。

「──!! 痛いじゃない! 離して!!」

「大人しくしてもらおうか??」

林に強引に両腕は背中に回され、痛みが伴うような形で組まされる。

『ピリリ……』

背中でテープを腕に巻く音がした……。

巻き終わった林は再び葉月を背中から抱きすくめる!

「私に、触るな!」

「それはつれないなぁ? お前から俺に飛び込んで来たというのに……」

『く……』

彼の腕が腰で力強く巻き付いて離れない……彼の唇が首を這う度に背筋が凍った。

 

『バラバラバラ──!』

空からそんなプロペラの音が響いて聞こえてきた。

林達がその音に反応して空を見上げると……ヘリコプターが数機、基地上空を横切っているところ。

救援隊がやってきたのだと葉月は一瞬微笑んだ。

(隼人さん……ついに復旧しのたね!)

彼が成功を収めてくれた……あの救援隊は隼人が呼んだ物に違いない!

葉月はそれだけで……すこし勇気が湧いてくる。

(この男達……早く目立つところに移動させて……達也の前に差し出さないと!)

葉月の瞳が輝く。

「よし──いくぞ!」

葉月の身体は軽々と林の片腕で持ち上げられる!

「俺はそうひどい男でもないぞ?

ガラスが散らばっていてる床を『裸足』で歩かせると……

可哀想だから俺が連れて行ってやる」

足は義理兄に穿かされた黒いショ-ツだけになり……

上半身は切り裂かれたジャケットとカットソーを左右に引き裂かれたまま……

ティシャツのように肩紐が太い、黒いブラジャー姿のまま……林に連れられる。

ブーツを脱がされたのは、そうは自由に歩けない、走れないようにするためだったらしい……。

『パパ──ごめんなさい……』

この男達が本気で父を強請る前になんとか『作戦』を……

葉月は林に抱きかかえられて……抵抗するのは止めた。

大人しくなった葉月を両腕で抱き上げて林は妙に上機嫌だった。

「なんだ……諦めたのか? 生意気な女が好みだけどなぁ?」

「……」

両腕が拘束されているので葉月は致し方なく彼の首元に頬を預ける。

黒い瞳を見つめると……林の黒い瞳も神妙に輝いた。

「ほーらな……林の男前にその嬢ちゃんもちょっとは気が変わったかもな?」

「ちぇ! 見せつけてくれるな! 兄貴じゃなきゃ、ぶん殴っている!」

「……」

仲間の2人がからかっても……林がジッと葉月の顔を見つめているので……

仲間の2人は……『本気だなアレ』と、

葉月を連れて『アジト』に帰ることを林が『決した』と驚いたようだった。

(この男と一緒にいないと意味がない……

早く何処かで達也が狙いやすい場所に誘い出さないと──)

 

『達也──向かい側の宿舎の屋上に射撃隊を編成して!

屋上からなら下を狙いやすいでしょ? あのボスを窓際か外に誘い出すから

外さないで絶対に仕留めて! 私が引きつけ役をする……!』

 

 達也にそう先ほど告げた作戦……。

葉月が『女』という事を盾にしてこの男を引きつける。

それにはまず彼の手元に自ら飛び込まなくてはならない……。

達也の『射撃』の腕前なら……遠くからでも狙える!

スナイパーライフルを持ってきているならなおさらだ!

ただ──達也が躊躇ったのは葉月の身体が再び無法な男に荒らされる危険性がある事。

それは……『ミャンマー事件』の二の舞を意味するから躊躇った……。

 

 『絶対に……助けに来て!!』

葉月が初めて『助けに来て』と達也に頼んだから……

彼も今度は必死になってこの男から葉月を助け出すと決したようだった。

(今頃……フォスター隊長に報告して……射撃隊を組み始めているはず!)

葉月が急に大人しくなったのはその為……

林は大人しくして自分を見つめる葉月が妙に気に入ったようで

意気揚々と通路を歩き始めた。

「お前が……総監の娘がここにいれば……そうは海兵員も手は出さないだろう?

さて……お前の手を見たが……『パイロット』か?」

『!!』

葉月の驚いた顔に林は得意そうに微笑み腕の中の葉月を見下ろした。

「手の甲は白魚のように美しいが……指の関節、手のひらに『タコ』がいくつかあるな?

操縦管を握ったタコだな……それもだいぶ使い込まれた手だ」

(なに!? この男……そんな事も一目でわかるの!??)

さすがに葉月もうろたえた。

やっぱり──この男は義理兄のように『ただ者じゃない!』と……

「孫、ゲイリー……海上移動しなくても済むかもな?

この嬢ちゃんが空を自由に飛べるかも知れないぞ?

いざとなったら『将軍の娘』を盾にして輸送機の一機奪ってしまおう……。

空からの攻撃も、この子がいればそう易々は出来ないだろう……」

(く……! なんて事なの??)

そこまで考えられて葉月は焦った……。

そして……今度は『相打ち死』すら覚悟をする……。

(そんな事になったら……操縦をさせられるくらいなら……一緒に墜落してやる!)

いや……その前にだ!

(そうじゃなくて……何とかしてそうならない前に……達也の前に差し出すのよ!!)

葉月は上機嫌な林に見つめられながらも……『チャンス』を狙う!

 「ボス──いいのですか? お嬢様をあんな奴らに手渡して……」

林と葉月が『駆け引き』を済ませた電話交換室の通路の上……

通気口内からそんな囁き──

「ふん……自分が色男と自信があるようだが? オチビがなつくと思ったら大間違いだな」

「…………」

通気口の鉄格子で『黒猫ファミリー』の3人男は一部始終を眺めていた。

林とその仲間が葉月の身体に群がった時でも純一は飛び出そうともしなかった。

それよりもジュールが銃を構えたほどだが……

『手を出すな……林も解っている。女をいたぶっている時間はないと……』

ボスに差し止められてジュールは大人しく引き下がる。

「ボス……ですが……お嬢様に渡した最後の切り札……『指輪』はもう使えませんよ?」

エドがそう呟くと……

「よし──俺とエドは葉月と林を尾行する。ジュール……お前は射撃小僧のフォローに付け」

『オチビと小僧の作戦をフォローする!』

純一の『指令』が彼の口から強く言い渡される!

『ラジャー!』

通気口内……純一とエドは静かに林が去った方向に向かい……

ジュールは素早く反対方向……達也が走り去った方向に一人方向転換向かっていった。

 

 そして──

「サム……! 俺を降ろしてくれ!!」

背中に担がれている小池が走っているサムの背中で暴れ出す。

「中佐……しかし……」

「バカヤロウ! 俺より、うちの嬢ちゃんを何とかしてくれ!

俺は……二陣の隊員がいるところに自力で行くから……早く海野の後を追ってくれ!」

「小池中佐は俺が一緒についているから……早く!」

富永も銃を振りながらサムに迅速な前進を真剣に促した。

「……解りました……」

サムは一階の廊下にたどり着いてすぐに小池を床に降ろした。

「大丈夫さ……敵はお嬢の所にしかもういないはずだし……

ほら……上空からも『救援隊』が来たみたいだから……」

小池が空を見上げると、数機のヘリが滑走路に降り立とうとしているところ。

「奴らも……救援隊の到着を知ったはずだよ。早くしないとお嬢が連れて行かれる!」

富永にせかされて……サムは……

「わかった! 絶対にお嬢さんは救い出す!」

「頼んだぞ!」

小池が腿を押さえ、顔を歪めながら壁に寄りかかる。

その隊長を守るかのように富永が手添えをしたのを見て……

サムも走り出す!!

「あ! 一陣のフォスター隊の──」

サムが走り抜ける廊下で二陣の巡回メンバーともすれ違ったがお構いなし!

真っ直ぐに向かう先は『発電所』

(シット! ウンノの奴……足が速いったら!!)

全速力で走っても、もう……一階の廊下で達也の姿は確認できなかった。

発電所に向かう廊下突き当たりの出口を確認したとき!

「ウンノ! 待て!!」

「待てるか! このヤロー!!」

やっと達也を視界に捕らえたが彼は猛ダッシュで外に飛び出していった。

(相当……頭に血が上っているな? アイツ!)

サムも顔をしかめて、達也の背を追う!

外に出ても達也は一直線!! 発電所を目指していた。

その発電所手前でサムはやっと……達也の背に追いついた!

「お前の……元・上官はとんでもない嬢ちゃんだな!」

「だからいっただろ!? 振り回されるのは必定なんだよ!!」

「でも──勇敢だ」

「だから! 振り回されるんだよ! 男をジッとさせてくれないじゃじゃ馬なんだよ!!」

「確かに──俺もこんなに揺さぶられる任務は初めてだ……」

サムもゲッソリ……ため息をつくと……発電所の扉の前に辿り着いた。

 

 『ドカ!!』

達也が乱暴に扉を開ける!

『ガチャ!』

突然の『侵入者』に警護に残っていたクリフとテリーが驚いて入り口に銃を構えた!

「ウンノ? サム!? どうしたんだ??」

仲間とホッとして2人一緒に銃を降ろしたのだが……

 

達也を確認して一番驚いたのは……

そう──管制に捕らわれている『隼人』だった……!!

 

 隼人は……何かすぐに悟ったように顔色を変えて頭からヘッドホンを外して立ち上がった。

「海野中佐……どうした? 一人なのか?」

サムが彼の背後にいるのを隼人は確認して……さらに大きな体のサムの背中を覗き込む。

「うちの……中佐はどうした? 小池中佐は??」

隼人のせっぱ詰まった問い詰めと……迫る眼鏡の奥の視線に……

達也は思わず……顔を逸らしてしまった。

「海野中佐! 彼女は……どうしたんだ!!」

「敵に捕まった……」

「──!!」

そこにいた……隼人は元より他の男達も息を止める……

そして……

「……もう一度、言ってくれないか?」

隼人の視線が『ギラリ』と達也に向けられた……

それもそうだろう……達也に任せて葉月を自分の手から隼人は離していたのだから……

この男が『葉月とはよく通じ合っている』と信じて任せていたのだから……

「……すまない……」

達也のその申し訳なさそうな返事が静かに返ってきただけ……

だから!

隼人はヘッドホンを首から外して床にたたき落とす!

そして……

「バカヤロウ! 上等の海兵員だろ!? 機械屋男には任せられないから

彼女の側に付いていたんじゃなかったのか?? 敵に渡しただと!??」

隼人が自分の肩の上に拳を即座に握りしめる! 達也は固く目をつぶった!

『ガツ!!!』

隼人の渾身の拳が達也の頬を直撃した!

達也は頬に拳が打ち込まれて、後ろに2歩ほどよろめいて踏みとどまる……。

達也も……避けることもなければ反撃もしなかった……

そのまま真っ向から隼人の拳を受け入れたのだ。

「少佐……コイケ中佐とトミナガが敵に捕らわれて……

彼女と『交換すれば2人の命は助ける』ってそういって……彼女自ら敵に捕らわれたんだ」

サムが達也をかばうように隼人に告げたのだが……

隼人のその視線は今度はサムに鋭く向けられる!

「……『交換』だと!? それを易々見送ったのか?

フロリダの第一戦にいるとかいう海兵員が付いていて女一人犠牲にしたのか??」

そう言われると……サムも言い返しようがないから……そっとうなだれた。

「サワムラ君……救援隊が滑走路着陸許可を求めているぞ?」

クロフォードが床から隼人が捨てたヘッドホンを拾い上げて隼人に差し出したが……

隼人は拳を握ったまま……胸を荒く動かして息を切らしてまだ……怒りが冷めない様子。

「葉月が窓辺か外に敵を誘い出す役をかって出たんだ。俺が奴らを仕留める為に」

達也が隼人に殴られた跡を拳で拭いながら背筋を伸ばす。

「──それで?」

「フォスター隊長は?」

達也は護衛が2人しかいない発電所内を見渡した。

「彼女を助けると先程飛び出していったけど……遭わなかったのか?」

「出ていったのか……しかたない! サム! 2人で屋上に行くぞ!

クリフ……悪いが隊長を屋上に呼び戻してくれ!

それから隊長に二陣のメンバーを御園中佐がいる付近を囲んで

敵を外か窓辺に誘い出すように配置するよう頼んでくれ!」

「ウンノ? 何をする気なんだ??」

クリフとテリーが戸惑って尋ねても……達也の目の前はもう次の行動しか頭にない様子だ。

「澤村少佐! 少佐の機材に混ぜて運んだ……俺のライフル……何処にやった??」

「──葉月を撃つんじゃないだろうな?」

「そんな事するか!? 葉月が引きつけているところ、あの男の頭を吹っ飛ばしてやる!」

「……」

「時間がないんだ! 早く──俺のライフル!!」

「そこに置いた」

隼人はセッティングした通信機器の隅に置いた黒いスポーツバッグを指さすと

達也がすかさずそれに飛びついて、肩に掛ける!

「クリフ、テリー……ウンノの指示……隊長に伝えてくれ!

屋上に射撃隊を編成する……これがミゾノのお嬢ちゃんからの伝言だ!」

『サム! 行くぞ!!』

急ぐばかりの達也の代わりにサムは仲間に念押しをして……

そして茫然としている隼人に一言……。

「今度こそ……絶対に彼女を助けてくる!」

彼もそこに置かれていたライフルを手にして達也と外に飛び出していった……。

(葉月……なんて事を!!)

もう──管制どころではなかった……!

これ以上の集中力の妨げがあるだろうか?

(葉月にもしものことがあったら……)

そう思うと……ゾッとした……!

(なんて事だ! 俺が……俺達がもっと迅速に作戦を成功させていたら……)

──葉月は飛び出さなかったし……血を浴びなかったし……男達にも捕らわれなかったのに!──

達也だけじゃない……サムだけじゃない……

隼人もこれほど自分を情けなく思ったことはなかった!!

『岬管制! 岬管制!!』

「サワムラ君……気持ちは解るけど……ここは君しかいないんだよ!?」

クロフォードにヘッドホンを差し出されて……

「中佐──僕を殴ってくれませんか?」

隼人は一人床を見つめて呟く。

「は? どうして……」

「いいから……殴ってくれませんか!!」

隼人の気迫に驚いて、トッドもさすがに……おののいた……。

そして……隼人の意図が解ったのか……トッドも席を立ち上がる。

「歯を食いしばれよ?」

「ラジャー……」

『ガツン──!!』

『ガン!! ガラガラ……』

トッドに頬を殴られて、隼人は達也と違って積み上げられた木箱の中へと倒れてしまった!

「くそ!!」

だが、隼人はすぐに起きあがって外したヘッドホンを頭に付ける!

「こちら岬管制! 迅速に着陸を……

現在……主犯格、第2棟の2階付近で人質を取って逃走中!」

『人質!?』

ヘリのパイロットからそんな驚いた声が届いた。

ここで『総監将軍の娘:葉月』がその人質というと混乱を起こすと思って

隼人はそこまでは今は言える判断が付かずに伝えられなかった。

「一陣、二陣が合わせて包囲中! 救援補助急がれたし!」

「……了解! 着陸後、直ちに救援に向かう!」

(くそ! 俺はこんな事しかできないのか??)

葉月の為に、救援隊を誘導することまでしか出来ない事に隼人は

クロフォードに殴られてもやっぱり冷静に落ち着けやしなかった……!

「フォスター隊長に海野中佐の伝言は!?」

隼人は後ろで警護をしているフロリダ隊の2人に喰らい付くようにたきつけた。

「今──伝えたぜ?」

「良ければ……ウンノ達のフォローに俺達も出ていきたいけど……」

2人の海兵員も……外の慌ただしさに落ち着かないようだった。

「いいだろう……もう、敵はその主犯格だけだ。救援隊から警護を回してもらうから」

クロフォードが中佐らしく2人の海兵員に外に出るよう許可をする。

「それで良いだろ? サワムラ君」

「はい……」

隼人の返事を聞いてクリフとテリーも機関銃を捨ててライフルを手にして飛び出していった!

「よし──俺が何とかしよう」

ミラーと隼人とトッド……3人だけになった発電所で……

トッドが急にそんな事を言って外していた交信機を耳に口元にセットし始めた。

「中佐?」

「いいから──管制を続けな……俺が何とかするまで管制を落ち着けてやるんだ!」

トッドが何かを思いついたようなので……隼人は言われるまま

また、データー電光パネルに集中することにした……。

 

『こちら復旧岬管制班──二陣隊長応対願います』

トッドが交信を投げかけたのは……フロリダ二陣の隊長。

「どうした? 何かあったのか!?」

『隊長……そちらの状況は大丈夫ですか?』

「こちら二陣は解放された総管制室を主軸に

只今、フォスター隊の報告により二階電話交換室付近に移動中!」

『……隊長。あなたは今どこに?』

「?? 隊員を外に出して、私は解放された人質、管制長達と供にいる。

救援隊の救急隊員が到着次第、私も主犯格がいる現場へ行くが?」

『お願いです……こちらは本職の管制員ではありません……

専門の管制員で何人か動ける隊員がいたらフォローに回してくれませんか?』

「!? しかし──ブリュエ管制長を始め……皆、衰弱している!」

「あの? 管制に何か?」

二陣のフロリダ隊長に言葉に側にいたブリュエ中佐が一言挟んできた。

「いや──管制が復旧して上手くは行っているようなのですが……

どうしたのでしょう? こちらの管制員で動ける者がいれば手伝って欲しいと……」

「管制はフロリダの通信隊員が?」

「いいえ……小笠原の通信隊員です」

「小笠原の?」

「あ……そうだ……確かサワムラ少佐はフランス基地にもいたとか? ご存じですか?」

隼人の名を聞いてブリュエ中佐が驚いた顔を浮かべた……。

「ハヤトがやっているのか??」

「あ。やはり──ご存じでしたか?」

「ご存じもなにもありませんよ! フジナミとハヤトのコンビは空軍では有名だったのだから!

しかも──ハヤトは空軍メンテナンス員じゃないか?

なんでそんな専門外の隊員を復旧班の主軸に置くような作戦を!!」

ブリュエ中佐のいきなりの質問攻めに二陣の隊長は思わず後ずさったほど……。

「そう言われましても……本部の人選ですし……」

「と! 言う事は……まさか捕らわれた『中佐』というのは??」

人質として解放されたばかりだからフロリダ二陣隊長は、気苦労をかけさせまいと

作戦内容は黙っていたのだが……

「まさか……あの……お嬢さんじゃないだろうね!?」

「何故……解るのですか!?」

ハヤトと来て……『中佐』ときたら『葉月』だと言い当てられて

思わず隊長は驚きの声を上げてしまったのだ。

それを知って……ブリュエ中佐は……

「フロリダの者達は何も知らないだろうけど……

フランスではハヤトとミゾノ中佐の事は有名な話でね!

中佐が捕らわれているとあれば……ハヤトが落ち着いて管制なんか出来るはずがない!

動ける者いるか!? 専門外のサワムラが管制をしているそうだぞ?

今回は手痛い目にあったが……管制の完全復旧はここの基地の隊員でやるぞ!」

『中佐、私行きます』

『俺も──』

「よし……良いだろう……隊長! 管制は何処で??」

急に元気になったブリュエに押されるように……

「は……発電所です。2棟は今危険ですから避けて外に出て下さい。護衛を一人付けますから」

ブリュエの気迫に押されるまま二陣隊長は部下を一人中佐に付けて見送ってしまった。

『いくぞ!』

自分の部下よりも……ブリュエ中佐が意気盛んに飛び出していったのだ。

 

「サワムラ君! ブリュエ管制長がこっちに来てくれるそうだぞ!」

トッドの報告に隼人は驚いて彼を見つめた……。

「でも──管制長は衰弱しているのでしょう??」

「元フランス隊員だったご縁かな? 管制長は『ハヤトがやっているなら私が行く』と

自ら……かって出てくれたそうだ! 交代したら……君の使命は終わりだ。

あとは思う存分……『側近の使命』を果たせばいい!」

「中佐──……申し訳ありません……本来なら『私情』なのですが……」

隼人は頭に血が上っていたとはいえ……

衰弱している管制長を頼る事になってしまったので、暫くうなだれた……。

「良かったじゃないか? ほら……お嬢には散々助けられたから……

こうでもしないと……もうどの男も情けないばかりじゃないか?

男の最後の意地……見せてこないとこの任務が終わったら……

あのじゃじゃ馬隊長の顔……もっとでかくなるぜ?」

同じ中隊のミラー先輩がそう言う様が……隼人も目に浮かんで……思わず微笑んでしまった。

「確かに……」

「『いっつも偉すぎるのよ──!!』っていつも怒らせておかないとね?」

トッドも可笑しそうに笑って隼人の肩を叩いた。

(喧嘩の続きもあったしな!)

あと少しの辛抱──

『葉月……今度は俺が一発殴らないと気が済まない! 帰還したら覚えていろよ!』

隼人は再び管制にもどる!

 

一頃して……

「ハヤト! お待たせ!」

少しばかり足元がおぼつかない金色の無精ヒゲを生やしたブリュエが発電所にやってきた!

「中佐……お久しぶりです……」

「君がメンテ員の時は良く滑走路などで管制の通信交換をした仲だからね!

それより──聞いたよ!? あのお嬢さんが敵に捕らわれているって!

管制は岬メンバーで司るから……早く! あのじゃじゃ馬さんを助けておいで!」

「メルシー……中佐!!」

ブリュエに通信交代を正式に済まさずに……隼人はヘッドホンを外して勢い良く外に飛び出す!

空は晴れ渡ってすっかり日が昇っていた……。

マルセイユの青い空の中……冷たい潮風の中……

隼人はやっと……『御園中佐付き側近』の本職に戻れたと必死に走った!

──が……

(何処に行けばいい?? 2棟電話交換室だったよな??)

そう思って夜中から朝にかけて激戦を繰り広げた棟舎に戻ろうと走り始めると……

目の前から『フォスター』が隼人がいる方向に目がけて全速力で走ってくるのが見えた。

「隊長──!!」

「あ! サワムラ少佐! 今から屋上に射撃隊を編成するんだ!」

「うちの中佐は!?」

「二階で敵に連れられている!

犯人が二階から出られないよう二陣と救援隊が階段を包囲したところだよ!」

「…………」

(結局、俺……手も足も出せない状態か!?)

「来るならサワムラ君もおいで! きっと中佐は窓辺に敵を誘い出すよ!

ウンノがその機会を狙って射殺する手はずに今から整えるんだ!」

「……射殺……」

隼人はゾッとして……その側に葉月がいるようになるのかと……

「…………」

隼人は一時考え込んで……フォスターを押しのけて棟舎に向かって走り出す!

「サワムラ君!! 君が行ってもどうにもならないぞ!?」

『だからって……ジッとしていられるか!! 俺で少しでも出来ることがあれば俺がやる!』

「サワムラ少佐──!!」

フォスターが何度か隼人の背に叫んでいたが

その声は徐々に聞こえなくなり……

隼人は一直線!! 海兵員が包囲しているという棟舎の二階へ向かう!!