41.魔女
『!?』
しかし──静かに倒れたて息絶えた恋人に隼人は違和感を覚えた……。
『待って……海野中佐……彼女の腹……』
隼人はそっと達也に小声で囁く……。
『血……』
そう短く伝えると、達也も『ハッ!』と我に返ったのか落ち着いたようで腰を落とした……。
そう──葉月の撃たれたはずの腹部から……
『鮮血』が滲み出てもいなければ……流れてもいないのだ!?
勿論、二人揃って『何故!?』と、またまた顔を見合わせた。
しかし──
隼人と達也は『知っていた』
『御園葉月』の『やりそうなこと』を──
それに賭ける!
「まったく! なんだ……まだネズミがいたのか??」
隼人の後ろにいた男が……葉月に蹴り上げられた顎を
忌々しそうにさすりながら……葉月の足元に近づいてきた。
隼人と達也はお互いに視線を合わせて……そっと固唾を呑む。
(頼む……『女』だと気が付かないでくれ……!)
「ガッテム! 油断した……なんだよ……いきなり!」
トミーも……頭を押さえて起きあがり、憎々しそうに葉月の足元に近寄ろうとしていた。
机に登った男はまだその上から機関銃を構えて葉月に向けていた。
窓辺にいる葉月を撃った男は……余裕で銃を降ろして得意気そうだ。
(どうする? まだ……誰一人と撃ち取っていないぞ?)
隼人は自分が銃を突きつけられたときよりも、危機迫る緊張感を味わっていた。
(どうする? 葉月──俺達はまだ動けないんだぞ!)
達也も無駄とは解っているが……敵が葉月に気を取られているので
後ろ手に拘束されたテープが外れないかと腕をごそごそと動かしたが……無駄のようだった。
先輩達は……
葉月と深い関係にある隼人と達也が落ち着いているので
慌てるにも動揺するにも愕然とするにも……どうこの状況を飲み込んだらいいのか解らないという
まったく──『じゃじゃ馬旋風』にすでに巻き込まれて、どうしようもない顔を皆していた。
この『じゃじゃ馬台風』に慣れているのは、どうやら現側近と元側近の
隼人と達也だけらしい……。
隼人に銃口を向けていた大男が顎をさすりながら……
葉月の細い足を片方……大きな足で蹴った。
葉月の足は力無く、男の足に従って……少しばかり大股に開かれる。
そして──
大男は、葉月が右手に持っている銃に視線を落として……
それを念のためか、彼女の白い手から蹴り払う……。
その銃が葉月の白い指から離れて……床の上でクルクル回りながら……
倒れた葉月の右手側にいる達也と隼人の間に滑り込んできた。
(それ──何とか取り込めないのか?)
隼人は顎で銃を差して、達也に目線で訴えたが……達也は……
(そんな余計なこと、今は出来ない!)
と──ばかりに、首をそっと振ってきた。
そんな中……大男が呟いた。
「ん? 子供みたいな男だと思ったが……『女』じゃないか?」
隼人と達也は顔を見合わせて、そろって『ドキリ……』と、胸を高鳴らせた。
二人揃って、ヒヤリとした汗を額に浮かべながら……葉月の方に視線を戻す──。
「惜しい事した。女だったなら、もう少し手加減をして楽しむべきだったなぁ〜」
(くそ──……葉月、どうするんだ?? お前が生きていると解ったら……
ここの大男4人に取り押さえられるぞ!?)
隼人もさすがに気が焦った……。
達也もその事は重々、承知なのか……そうはさせまいと、腕のテープを外そうと動いている。
「なんだ──女だったのか? とんでもないな……まったく──」
そんな細身の女に軽々『一本背追い投げ』をされた事に
小柄なトミーが益々憎々しそうに葉月の側にもう少しで辿り着こうとしている。
「身体だけでも……拝ませてもらうか? 目の保養だ」
大男が『ニヤリ』と微笑んだ。
「よく見ると可愛い顔しているじゃないか??」
『クッ!』
隼人は歯の奥で苦虫を潰すように顔をしかめ……
達也もかなりの眼差しをその男に差し向けている。
先輩達に至っては『死んだ女』に対してもそんな欲望を抱いた男に……
同じように悔しそうな視線を浮かべていた。
(葉月……銃も蹴り離されたんだぞ? どうする!?)
こうなったら……今度こそ!!
隼人は『撃たれる』事を覚悟で……男が葉月に手をかけたら
彼女めがけて飛び込む決心をした!
所が……同じ事を考えた男が『もう一人』──達也だ──
彼と視線があって……何故か一緒に『ウン』と頷いていた!
こんなに気が合う男は『初めてだ!』と隼人は一瞬驚きを隠せなかったのだが……。
「どれどれ……」
男がにやけた顔で葉月の身体の上をまたいで、膝を落とそうとしていた……。
『行くぞ!』
隼人と達也がお互いの『アイコンタクト』で合図を確認しあった時!
葉月の瞳が『カッ!』と、いきなり開いたのだ!
「アデュゥ……『けだもの』!!」
彼女が背中から急に『銃』を取りだして……寝そべったまま、照準をその男の額に!!
『ドス!!』
サイレンサーが付いていたのか? そんな鈍い音が男の額を貫いた!!
それに驚いたのか……金髪のトミーは警戒するようにサッと後ろに引き返した……。
一瞬の出来事だった!
でも──
隼人の視界には……ゆっくりと……ゆっくりと……
男の額から咲き乱れる血の花びらを浴びている……彼女の冷たい横顔……!!
目の前の恋人が冷酷な顔、冷たく燃える瞳で……躊躇うことなく『人を殺した』──!
その光景に凍り付いてる隼人の頭の上で──
「生きていたのか!?」
机に登っていた男が『ガチャ!』と銃を構えた音を聞いて我に返る!
『ドドドドーーーー!!』
今度はかなりの至近距離から葉月に向かって機関銃が撃たれた!
隼人は頭、すぐ上での『狙い撃ち』の弾に当たらないよう頭を伏せるのが精一杯!
「葉月!」
やっと声を出して彼女の名を叫んだ!
しかし──!! なんと!
葉月は机の上から撃たれる弾を……自分が殺した大男が倒れてきたのを盾にして
その男の身体の陰に隠れたのだ!
いきなり殺された大男の身体に机の上の男が放つ弾が無惨に無数に撃ち込まれる!
葉月とその男の周りにかなりの血しぶきが飛んだ!
「シット!」
殺された仲間の身体に弾を撃つハメになった机の男が憎々しそうに
一瞬、機関銃を撃つことを止めたのだ!
その『隙』を葉月は逃さなかった!
「達也!」
葉月が腰から抜き取った何かを彼めがけて滑らせてくる!
銀色の光が達也の足元に届いた!
『ナイフ』だった!
「よっしゃ──!」
達也がそれを器用につま先で弾き、股の間を滑らせて、背後で手に掴んだようだ!
「少佐! こっち来て!!」
葉月のいつもの声に隼人は誘われるように……
大男を力一杯支えて、隠れている葉月の元へ、跪いた姿勢から一気に飛び込む!
「これ!」
今度は葉月がアーマーブーツの中から
またナイフを一本取り出して素早く床に落とす!
隼人はそれを目にして……葉月が支えている男の影に入り込みながら……
背中に組まれている手先で何とか取ろうと指を伸ばした!
「このガキ──!!」
机の上にいる男が再び、機関銃を構える!
死んだ大男の影、男の肩から葉月が銃口を机の男に合わせた。
「プシ! プシ!!」
サイレンサーをつけた銃が机の男に向けて二発程撃たれたが、
素早く悟った男はサッと机から飛び降りて身をかがめたので外れてしまった!
葉月は目の前にだけでなく……
他の大男より戦闘には対応遅いトミーがやっと銃を構えたのを察して
その方向にも一発、発砲!
男のトミーより葉月の方が断然落ち着いていて、
その雰囲気に飲まれたのか、戦闘慣れしていないトミーは
葉月が軽く足元を狙った弾に驚いて何歩か後ずさった。
隼人は急な態勢での『テープ切り』に集中する……。
『…………うう』
そんな中……
『キレタ!』
達也のその囁きが聞こえた!
彼が先ほど、倒れた葉月の手から蹴り離されて滑り込んできた銃を拾った!
『切れた!!』
隼人も腕にいくつか切り傷を作ってしまったが何とかテープが切れた!
「少佐……私の腰に銃があるから取って!」
葉月がそう言ったので、隼人は身体を起こして、葉月の腰を探る!
「達也、遠く窓際! 少佐は金髪!」
葉月が短い単語で指示を出す!
『オーライ!!』
すぐに返事をしたのは達也の方──。
隼人は何がなんだか解らなくて……葉月の腰から銃を取りだしても、もたつくだけ!
でも──銃を手にした目の前の二人!
達也が立ち上がって銃を構える!
達也は目の前に、机を降りて機関銃を再度構えた男がいるにも関わらず……
葉月が下した指示通り……離れた位置にいる通信機側の男に『照準』を!
当然──隙だらけに構える達也に向けて……机を降りた男が彼に銃口を向ける!
だが──!!
隼人の目の前で、葉月が盾にしていた大男を前に突き飛ばした!
跪いて彼女が狙う『次なる獲物』は──……
達也を狙う机を降りた男だった!
二人が違う方向、違う態勢で銃を構えた時!
隼人もやっと勘が冴えてきたのか……手が勝手にセーフティロックを外す。
……葉月の背後に跪いて……金髪の『トミー』に構えていた!!
『プシッ!!』
『プシッ!!』
達也と葉月の手元から……
同時に──甲高く、突発的なサイレンサーをつけた銃の音が響いた!
──そして、隼人も……!!──
金髪の男めがけて……
『ドス!!』
撃った途端に、姿勢が崩れそうなほど、手元が重く感じた!
『ッグァ……』
『ウッ!!』
窓際の男……そして、葉月の目の前の男が声を上げて……
『──ガチャ……バタ!!』
機関銃が床に落ちた音と供に、大きな男達が床に倒れたのが聞こえた!
遠く窓際の男を的確に討ち取った達也の『腕前』に隼人はびっくり!!
そこを解って、達也に遠くの男を任せた葉月の指示も的確だったと言うことだ。
所が……
「この!!」
隼人が『担当』した金髪の男は──生きていた!!
「くそ! 外したのかよ!!」
「コンタクトを落として、見えないんだよ!!」
一発で仕留めて『当たり前の腕』である達也が『チッ!』と言いながら
素早く、トミーに向けて銃を構える!!
隼人も解っているが、口答え──。
そして──
「そいつ……『康夫』をやった奴よ! きっと!!」
葉月も隼人の横で、すぐにトミーに向けてひざまずいたまま態勢を変えた。
それを聞いて……隼人と達也は目つきを変える!!
『やっぱり──墜ちた『F−14』は、康夫だったのか!!!!』
今、彼がどうなったかと葉月に問いただす余裕はなかったが、
『撃ち落とした』だけでも、充分『怒りの炎』に火がついた!!
『この……ろくでなし!!』
隼人も心でそう叫んで……再度、銃を構える!
トミーに向けて……3人の人間が確実に照準に捕らえた!
ボディーガードに付けていた『戦闘男3人』が、
一瞬にして、やられてしまった『動揺』故か……
先ほどまで、余裕一杯だったトミーは青ざめた表情で銃を持つ腕を震わせていた。
静かに銃を構えている3人の『海軍員』に向けて……
銃は構えているトミーだったが……
「あは……ははは……ちょっと、待てよ……」
額から汗を流しながら……うろたえているのは明確。
「お……お嬢さん……」
トミーが、冷たい眼差しを放っている葉月に、声をかける。
葉月は、何も返事をしなかった。
「もし──俺が……億という金を持っていて……君を可愛がってあげるって言ったらどうする?」
トミーは、胸元から何かを取り出そうとしながら……葉月にそんな『誘惑の言葉』を……
葉月はその彼を見つめて……『!』と、一瞬息を止めたのだが
隼人には何に『反応』したのかは解らなかった。
隼人と達也はチラリと視線を合わせて、一緒にため息をついた。
そんな……『誘い』……葉月には無意味なのにと呆れたほどだ。
だが……
「何? この犯行が成功すると……そんなお金持ちになれるの?」
葉月が流暢な英語で……金髪の男に『ニヤリ』と微笑んだ。
葉月の返事で……金髪の男が胸元から手引いて外に出した。
『受け答え』をした葉月に、隼人は解ってはいるが『む!』としてしまったが……
葉月が銃の構えを解いて、立ち上がったので……
隼人は驚いて葉月を見上げた……。
達也も……葉月がまた、『何をやらかす』かと葉月を睨みながら見下ろしている……。
所が……葉月は……
降ろした銃の先で……隼人が構えている銃先を弾く。
『構えを解け』──と、いう指示であるのが解った。
『中佐の指示』と取るべきなのだろうが……隼人には納得がいかない!
そして、葉月は同じように立っている達也の銃の先も弾いた。
所が……達也は葉月と見つめ合って……頷き、素直に銃を降ろしたのだ。
それで──隼人も……『何か考えているのか?』と思って素直に銃を降ろす。
それと同時に──『元・パートナー同士』──
先ほどの自分と達也の『アイコンタクト』以上の『通じ合い』があると知って……
隼人は妙な『嫉妬心』が、この非常時に湧き起こってしまって唇を噛みしめてしまったのだ。
そんな中──
銃を構えている金髪の男が……『ホッ……』と、したように表情を緩める。
だが──銃の構えは解かない。
まだ、達也と隼人が『中佐の指示』にて構えは解いても銃は手放していないからだ。
「そんなに『儲かる』ワケ? いい仕事ね」
葉月が微笑みながら、トミーに話しかける。
「だろ? 俺達をやっつけても海兵員の稼ぎなんてたかが知れているだろ?
それにさ──お嬢さんぐらいの腕前だったら、俺達の仲間では重宝されるぜ?
なんでも『買ってやる』し……それぐらいの容姿だったらウンと可愛がってやるから……
そこの男達なんか……お嬢さん無しでは死ぬところだったんだぜ? 情けないだろう??」
トミーがそういって葉月を引き入れようとしている。
『お嬢無しでは情けない男達』
その言葉に隼人も『む!』としたが……『事実』で──
それどころか達也までが『チッ!』と舌打ちを……。
そんな男達の『動揺』も、構わず……葉月が一歩前に踏み出す。
そして……とうとう……手に持っていた銃を後ろに投げた。
(おい!? なんのつもりだよ??)
隼人は、葉月が銃を捨てたので驚いたのだが……
その銃は……葉月のすぐ後ろにいた『フォスター隊長』の足元に……
そして……葉月は隼人が腕の戒めを切った『ナイフ』を踏みつけて……
一歩前に踏み出す反動でそのナイフを軽く……フォスターの前に滑らしたのだ!
『!!』
隼人も達也も横目でそれを『確認』して『確信』を得た!
葉月がトミーが逃げ出さないように『気を惹きつけて』
『確実に仕留よう』としているのだと!
それが、解ったから隼人も『気』は警戒を解かずに、銃の引き金をそっと指で引いておく……。
葉月が一歩、さらに……一歩……トミーの前に近づく。
トミーが銃を構えたまま『ニヤリ』と微笑みながら……葉月が側に来るのを待ちかまえていた。
「ダイヤが欲しい……それに……『ヴィトン』のバッグも……
それから……『シャネル』のスーツに『カルティエ』の時計も欲しいわ
こんな『血なまぐさい』仕事からは……足洗いたいのよ。女らしく優雅に暮らしたいわ?」
「いいだろう──おやすいご用だ……」
葉月が少しばかりしおらしい声でトミーに近づく。
「『軍』を裏切るからには……ここの男達を始末しないと……」
「簡単だ。今、応援が来るだろう……『ボス』に頼んで始末してもらう」
「葉月!!」
達也が『葉月の裏切り』に腹を立てて銃を構えたのだ!
でも──もう……隼人にも解った。
それは『演技』
誰だって知っている……。
葉月が今、口で『欲しい』と言った物など、葉月の手で簡単に手に入る物ばかりだ。
しかし……達也が銃を構えたことに『警戒』したトミーが
葉月を『人質』とばかりに……達也でなく葉月に銃を向けた。
隼人は一瞬……『ヒヤリ』としたが……
それでも、前に行ってしまった葉月の『横顔』は冷たいまま崩れることはなかった。
「応援はどうやって呼ぶの?」
「今……呼ぶ」
トミーが胸元から……トランシーバーを手にした……。
その時!!
葉月がそれにめがけて走っていき……トランシーバーの手元めがけて『回し蹴り』!
『ア!』
トミーの手元から空中へと高々と『ボスへの通信機』トランシーバーが飛んでいく!
「騙したな!」
トミーが葉月に銃を構えた!!
『無防備』な葉月がやられそうになるとあっては……隼人も銃を自然に構えた!
「どけ! 葉月!!」
達也が出した声と同時に、計ったように葉月がサッとしゃがみ込む!
隼人も自然と構えたのだから……後先考えずに引き金を引いていた!
『バズ!!!』
『ドス!!』
二人の男が撃った弾は今度は確実に金髪の男に撃ち込まれた!!
「グアァァァ!!」
達也の弾は、トミーの左胸上部に……隼人の弾は左肩に当たった!!
「しまった! 葉月が邪魔で『狙い』がずれた!!」
達也は『急所』の胸を狙っていたようだが、少しばかり上にずれたようで
悔しそうにしてさらに銃を構えた!
「くそ! 血なまぐさい仕事がイヤじゃないのか! この『魔女』!!」
まだ倒れずよろめくトミーが、しゃがんでいる葉月に銃を向ける!
「うるさい! 私は金には困っていない!
欲しい物はたった一つのかけがえのない物だけだ!!
そのかけがえのない『大切な物』を奪おうとした!! だから、ここに来た!!」
──『たった一つのかけがえのない物』──
無防備な葉月がさらに危険にさらされながらも、険しい瞳でトミーに強気で叫んだ!
きっと……『康夫』が撃ち落とされて……同期生の達也と……
この『側近』である自分……すべてが奪われると思って……葉月は……
『それでこそ──俺の中佐だ!!』
隼人も立ち上がって、銃を構える!
その時!
隼人と達也の間に……銃を握りしめたフォスターが跪きながら滑り込んできた!
「情けない男でもこれぐらいはな!!」
『ドン!!』
『ドス!』
『ドン!!』
男3人の銃弾が真っ直ぐに葉月の頭の上をかすめて飛んでいく!!!
『──……ガ……』
金髪の眼鏡の男は……口から血を吐き出しながら……
──『ドタ……』──……静かに、身体を床に横たえた……。
シン……とした静寂がこの部屋に流れ込んできた。
朝日が昇り始めて……部屋に僅かな光が射し込んできたのだ……。
隼人は銃の構えを解いて……荒れている息を整えた。
腕が震えていた……。
『人を撃ったことはあるか?』
達也がそう出かける前に言っていたことを、頭の中で繰り返しながらも……
なんだか……急に腹立たしくなってきて……
銃を持っていない左手を拳にした。
隼人が見つめる先は……金髪の男が息絶えたのを静かに見つめている『女中佐』
葉月はそっと立ち上がって入り口に向かおうとしていた。
凍りつくほど冷たい葉月の横顔……白い頬には、沢山の血の跡がこびりついていた。